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ペネロペ・クルスに似た女(2)

ペネロペ・クルスに似た女(1)はこちらからどうぞ

   俺はメールを見て見ぬふりをして携帯電話を閉じた。
   ウォッカマティーニを頼み帰ることにした。バーでの最後はそれと決めている。葉巻を吸うこともあるし葉巻のあとはジンよりウォッカの方が余韻が良いと思っている。他のバーでウォッカマティーニを頼んだら「躊躇無く頼めるの良いですね。ほとんどのお客様は急に小さな声に恥ずかしそうに頼みます」と言われたことがある。それはジェームズ・ボンドに憧れて飲んでみたいという人なんだと思う。俺もそうだが飲みたくて飲んでいる。きっとジェームズ・ボンドも同様だから恥ずかしげも無く頼むんだと思うよ。キナ・リレが有るお店もなかなかないからジェームズ・ボンドマティーニはならないし真夏のよほど暑い日て無ければシェイクは頼まない。ステアの方がうまいに決まってる。
映画「キングスマン」*では「マティーニはジンに決まってるだろ」ってセリフがあった。確かにその通りだとは思うが俺はウォッカの方が好きだ。

   翌朝目覚めたらもう昼前だった。シャワーを浴びて近くの家系ラーメンを食べに行った。最近はセンターキッチンを採用した店も家系を名乗っているのが多く「店主は○○屋で修行した人で忠実に再現されてます」ってレビューサイトのコメントを見て閉口する。「そもそもセンターキッチンの店で何修行するのよ…… スープ温めるだけじゃん」って思いながらそんな店を横目に見ながら目当てのラーメン屋に到着した。ここは店でスープを炊いていて旨い。昔から味の好みは「普通」でライスを付けるが大学生っぽい人が「油多め、味濃いめ」と頼んでいるのを聞くと素直に負けを認めるしかない。

   帰りにTSUTAYAにより何度も見た「タワーリング・インフェルノ」を借りて帰った。何度も見ているし大したことない映画だが見たくなってしまう。実は大して面白くは無いのだが前半部分の建物の写し方とかが好きで勉強になる。いい加減DVDを買ったら良いが物が増えるので買わないことにしてる。

   見終わり一息ついてメールの返事をした。
『無事帰れたようで良かったです。連絡先?必要有れば名刺渡しているので連絡来るだろうし、それで十分だと思いました。良いお店があったら教えてください』
と返事して携帯電話を置いてランニングに行った。もう18時になろうというのに蒸し暑い。身体中にまとわりつくような湿度と暑さだ。まるで東南アジアの様だ。正確には東南アジアに行ったことが無いので聞いた話から推測する東南アジアだ。そもそも東南アジアの食事も果物も好きではないので行く気は起きない。特にタイ料理なんてもっての外だ。特に酸っぱ辛いのが無理だし、ココナッツミルクも嫌いだ。マンゴーもパパイヤも嫌いだ。音の響き的に嫌いにはなれないことは否定しない。
 パイナップルは好きだからフィリピン位なら行けそうな気もするが……

   さすがにあまりの暑さにペースは上がらなかった。良い所はなかったが甘やかして、帰りにアメリカ牛の肩ロースのステーキ500gを買って帰った。帰るなりコショウを振りシャワーを浴びた。シャワーから上がる頃にはちょうど良くなる。
   フライパンで油にニンニクの香りをつけ、ニンニクは除け表は90秒、裏は45秒強火で焼く。塩は裏返す直前に振る。そのまま蓋をして火を止め10分前後待てば完成だ。アメリカ牛はレアよりもミディアム位が丁度良い。もう一つの鍋ではニンニク、セロリ、タマネギを炒めお湯、コンソメを入れ葉物野菜を入れてスープにする。ステーキの日の定番だ。気が向けば肉汁にワイン、はちみつ、醤油などを合わせてソースを作るが大抵はわさび醤油で食べる。自分の好みで作っているから当たり前に旨い。

   今日も旨く焼けたなと思いながら食事をしていると『闘魂込めて』の安っぽい電子音がオレンジ色の携帯電話から鳴った。電話だがご飯を食べ終わったら掛け直そうと出なかった。食事中は基本的に電話には出ないし、出る人も好きではない。もちろん飲み会ともなると時間も長いので嫌だだ言うつもりもないが席を外すなり気は使ってほしいと思っている。過去に別れた女性から久しぶりに会いたいというので食事に行ったのだが途中で自分から電話を掛け始めた。その後『楽しかったから、また会いたい』とメールが来たが、もちろん返事はしなかった。

   食後に携帯を確認してみるとミリヤからの電話だった。ミリヤは高校時代に同じ部活だった子だ。高校時代は全然仲良くなかったけど卒業後に部活の飲み会とかで仲良くなってたまに遊んでいる。結婚できないことを焦っていて事有るごとに合コンをしているようだった。
「今度合コンしない?」
  空港の地上職の方らしくスケジュール調整がむずかしいので日程ピンポイントになるらしいがテンションは爆上がりだ。俺は大体暇だけど金土が良いことを伝えた。
   とりあえず暇そうな人を探しとかないとなと思って友達の様子を聞いてみるかと電話を切ってメールをしようとしたらミエからメールの返事が来ていた。

『恵比寿のタイ料理に行きたいです!この前のお礼でご馳走するので今度の金曜日の19時にガーデンプレイス側の動く歩道降りたところで良いですか?』

   無茶苦茶だな…
   俺の都合はどうなってるんだ?そもそもタイ料理は嫌いなんだよ。待てよ俺の世代は待ち合わせの場所にここまでディテール詰めないぞ。年上なんじゃないかと言う疑惑が……

『お誘いありがとう。実はタイ料理が苦手なので他に何かないですか?』と最大限敬意を払って返事をしておいた。取引先の方の紹介だとこういう時に面倒くさい。

 多分10人中15人くらいは、イタリアンとか焼肉とかほかの提案が来ると思っているだろうがミエは違った。

『そこすごい美味しいお店なの。そこで食べたことないでしょ?だから大丈夫だからそこにしましょう。』
 咲子と比べたら美人ではないが、世の中的には美人だ。きっと、思い通りに出来ていたんだろう。今までの男もタイ料理なんて嫌いでも無理やり食べてたんだろう。これだから美人はモテないんだよ。成功体験が人間を変えていくことは確かなんだなと独り言が口から出てきていそうだった。

 ただ、これを言われると断れない……
 諦めるしかなかった。この時の俺には断る返事が思いつかなかった。仕方がない、タイ料理を食べたところで死ぬわけでもないし諦めて食べるか。きっと食べられるものがあるはず。生春巻きは美味しいんだ。

つづく

   1からですが咲子と言う女性がちょくちょく出てきますが夢の続きも読んで下さい。
  
  ちなみにタイ料理は今でも無理ですがチキンライスと生春巻きは美味しく頂きます。タイ料理嫌いというと「パクチー駄目なの?」って聞く人が多いですよね。パクチーは大好きです。酸っぱ辛いのがダメで辛いのもそんなに特異じゃないんですよね。女性の方はタイ料理好きなのでなんだか損している気がします……

今回も読んでいただきありがとうございます。5本目となり大分リズムも掴めてきました。
週2本と他の話を1つ程上げられたら良いなと思っているので、また読みに来て下さいね。
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通勤時間の電車で書いております!今のところすべてiPhoneで書いているので親指が折れそうなのでサポートしていただくけるとコンパクトなノートパソコンを買って書けるようになります!