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Netflix「ちひろさん」のはなし

2/23(木)に公開された「ちひろさん」を観た。原作は全く知らない状態だったのだが、予告の雰囲気や、監督が今泉力也であることから、観ることは必然になっていた。

とりあえず観てない人は観てから戻ってきてね。
ここから先は全員が観ているものとして展開していきます。悪しからず。

結論から言うとこの作品めっちゃ好きだったんです。
何がそんなに良かったと思ったのか、自分なりに1つ1つ紐解いていきます。

① 「ちひろさん」という危うさ

ちひろさんの外側の情報だけみると「元風俗嬢」「誰でも分け隔てなく接する」といったような面がぱっと目につく。しかし本編の中でも描かれているように過去の経験から誰かに依存することを恐れていること、死というものを自ら選び取ろうとする間際までいった経験があることなど影は色濃く深い。そんなちひろさんの危うさは同じ星の人にしか中々気づいてもらえない。ちひろさんはそういった「弱さ」を持っているからこそ、色んな人に結果的に刺さる言葉を投げかけることが出来る。しかしそれはちひろさんが「誰かを救おう」なんて思ってやっていることではなくて、あくまでも結果だけ。いびつで不完全だからこそ、自分を偽ることはない。それが結果的に周りの人の心を揺さぶったり、突き動かしたりしているのだと思う。
本作品のキャッチコピー(?)として、「ちひろさんに会いたくなる」という言葉が使われている。確かにちひろさんに会いたくなる。なぜならちひろさんには噓が無くて、不用意に誰かを傷つけたり、逆に媚びたりもしないから、誰かに依存することもなく、孤独をある意味恐れていない存在だから。現代社会においては稀で、誰にとっても存在しないカテゴライズの人になるからだと思う。作品を全てちゃんと観ればそれが伝わるように描かれているものの、変な着地をしている感想がTwitterにあったので、残念だなぁという想いになった。

② ちひろさんの魅力とは?

「あなたならどこにいたって孤独を手放さずにいられるわ」というたえちゃんの言葉に集約されると思う。常に孤独と同居しているちひろさんだからこそ、誰かの側にいられる。愛というものへの飢えや怖さを自らが一番分かっているからこそ、誰かの気づきや励ましに繋がっているのではないだろうか。冒頭の野良猫、そしてホームレス、生意気な小学生、盗撮しちゃう女子高生、みんな横一線で対等な関係。こう書いてしまうと完ぺきそうなちひろさん、しかしちひろさんは不完全である。死体だって埋めちゃうし。でもそれがちひろさん。完全に自分軸で生きてる。悪かったら素直に謝るし、間違っていないと思うことには一歩も引かない。それって現代では難しいことだから魅力的に感じる。

じゃあそんな魅力的なちひろさんはちひろさん自身のことが好きか?
多分好きではないと私は思う。
自己肯定しているから自分軸で生きられている」みたいな押しつけがましい自己啓発書に書いていることではなくて、自らと他者の境界線の描き方が上手なだけ。ちひろさんは自らに恋愛が必要ないこと、でもSEXは不必要ではないこと、それを過去の経験から学び、自らとして落とし込めている。
でも恋愛が必要な人のことを否定しない。自分は自分。他人は他人。
それ以上でもそれ以下でもない。

自己肯定していなくても自分軸で生きるちひろさん、それがカッコいい。この自分軸で生きづらい世の中で、「自己肯定感を上げてこそ幸せへの第一歩」みたいな雰囲気が漂う社会で、これほど励まされる作品はないと思う。

しかもそんなちひろさんには同じ星の人が数は少ないけどいたり、おかじやまこと、べっちんもいる。それで十分だよなぁみたいな感覚。こういうことを言ってくれる作品が今までなかったからこそ、刺さり、励まされ、こうして文章にしているのだと気づいた気がする。


色々言葉にするの終わり!
ここからは好きだったシーンや言葉について書いてくよー。

①どうでもいいやつらへの対応諸々

だけど永井さんやセクハラしてくる職人のおっさんといったちひろさんを元風俗嬢としてしか見ない人たちは適当にあしらっているのよね。こういうのいいよね。ちひろさんだよね。

② ごはん関連のシーン

問答無用でいいよね。豪華で綺麗で整えられた食卓で味がしなかったオカジが、まことのお母さんの焼きそばでちゃんと味がして美味しくて涙するシーン。アルバイト面接のときに美味しそうにお弁当を食べきるちひろさん。やはり食べることは生きること。素敵すぎて何回でも見れちゃいますね。

③まこと全部

この子は天才なのか!?!?
愛らしくて生意気で、これが演技だったら凄い…。

④「その人がどういう人かは目を見れば分かるよ」

ちひろさんとオカジが波打ち際で佇むシーン。めっちゃきれい。
目を見れば分かるよ。あなたのこと嫌いじゃないよ。これも自分軸。
「なんつってー」まで含めて完璧すぎる。オカジも嫌いじゃないよのその一言にかなり救われたのでは。でも親のことにもここでは踏み込みはせず、水を掛け合うだけなのもいい。

⑤「これいいねって言ったら~」

「それだけでよかったんだけどな」に集約されるこの言葉。
ちひろさんが貰うことのできなかった愛の一端が垣間見えるシーン。
何か特別なことが必要なんじゃなくて、いてくれるだけで、認めてくれるだけで救われる。ちひろさんのまさに根幹にかかわるような言葉。

⑥オカジとマコトがちひろさんを呼びに来るとこ

ちひろさんが沈んでても今はオカジとマコトがいるんだなぁ。
それが妙に心強く思ったシーン。誰かがいてくれる、それだけで十分。

⑦バジル、めっちゃカッコええやん…

ショーパブでのシーンで魅せられた…。

⑧「今のあなたがとっても好きよ」

この言葉を言える多恵さん、やっぱり同じ星の人だ。
「参ったなぁ」に凝縮された想いにたまらなくなる。
その後のハグのシーンも素敵。
「あったかいね」という言葉、
ちひろさんが生きていける予感がしてほっとしました。

⑨「ただの弁当屋さんです」

ラスト、「ここに来る前何やってたの?」という質問への返答。
今までは「元風俗嬢です」と答えていたちひろさんからの変化。
過去に過度に囚われることなく今を生きるちひろさんっぽさ。
見習いたいもんです。ほんとに。


いい作品です。
一人でも多くの人にまっすぐ届きますように。

おわり


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