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「みんなにいい顔はできない」


売り上げは新規客がもたらしてくれるという錯覚

多くの会社が陥る罠がある。それは顧客を疎かにして、新規客づくりに没頭することだ。売り上げや利益は新しい客がもたらしてくれるという錯覚のようなものがあるのだ。しかし、往々にしてそれはうまくいかない。

いまさらながらだが、「パレートの法則(80:20の法則)」とは、全体の数値の8割を優良な2割が生み出しているという法則のことだ。企業の売り上げの8割は2割の優良顧客が生み出しているといわれる。

そんなことを考えながら、村上春樹さんの『走ることについて 語るときに 僕の語ること』を開いた。どこかに気になることが書かれていたはずとページを繰る。63ページに書かれていた次の文章は、すべての商売に当てはまる

僕は以前ハーフマラソンを走ったが、いまは膝を壊して走ることができない

「みんなにいい顔はできない」、平ったく言えばそういうことになる。

店を経営しているときも、だいたい同じような方針でやってきた。店にはたくさんの客がやってくる。その十人に一人が「なかなか良い店だな。気に入った。また来よう」と思ってくれればそれでいい。

十人のうちの一人がリピーターになってくれれば、経営は成り立っていく。逆に言えば、十人のうちの九人に気に入ってもらえなくても、べつにかまわないわけだ。そう考えると気が楽になる。

しかしその「一人」には確実に、とことん気に入ってもらう必要がある。そしてそのためには経営者は、明確な姿勢と哲学のようなものを旗じるしとして掲げ、それを辛抱強く、風雨に耐えて維持していかなくてはならない。それが店の経営から身を持って学んだことだった。

千駄ヶ谷にあった「ピーターキャット」のこと

読みながら、かつて村上春樹さんが経営していた千駄ヶ谷にあった「ピーターキャット」のことを思い出した。いまから35年以上前だが、当時、付き合っていた女性(かみさんのこと)が千駄ヶ谷のアパートに住んでいた。

千駄ヶ谷駅から東京都体育館(当時の話)を左手に見ながら道なりに進むと、鳩の森神社に突き当たる。その手前の角ビルの2階にあったのが「ピーターキャット」。ここが先ほどの文章に出てくるお店なわけだ。

何度か通ったことがあった。カウンターのなかで働いていた男性が、村上春樹さんだった。ホールではおそらく奥さんだと思うが、小柄でチャーミングな女性が働いていた。群像の新人賞の発表で本当に驚かされた。

ファンがファンを呼ぶ循環の仕組みをつくる

それはそれとして、大きなビジネスも小さな商いも原理原則は同じだ。たった一人でも熱烈なファン(客ではなくファン)の存在が、前に向かって進む勇気を与えてくれる。やっぱり「みんなにいい顔はできない」のだ。

ファンは何に惹きつけられるのか。商品やサービスは惹きつけられた結果だ。価格の多寡も決定的な条件ではない。村上春樹さんのいうところの「明確な姿勢と哲学のようなもの」に惹きつけられるのだ。

ファンは楽しさや喜びを周囲に伝える(伝えたくて仕方がないのだ)。そのなかに反応する人がいて、それってどこなのかと聞いたり、検索をする。この循環の仕組みがファンはファンを呼ぶことにつながっている。

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