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このままでいいの?日本のSDGs

高橋真樹「このままでいいの?日本のSDGs」『歴史地理教育』946、2022年、pp.4〜9。

目次
1.SDGsのわかりにくさ
2.おさえておきたい二大コンセプト
3.17ゴールは並列ではない
4.「日本のSDGs」はサステイナブル?
5.教員・学校も授業だけでなく実践を

要旨
 SDGsの本質が日本で正確に伝わっているとは言えない。その理由の一端に、SDGsそのもののわかりにくさが関係しているが、SDGsには持続可能な社会を目指すための方向性を確認するツールとしての役割がある、と高橋は述べる。
 SDGsは「我々の世界を変革する」というコンセプトを宣言している。これは小手先の対策ではもうどうにもならないほどの危機が地球規模で迫っていることを示している。SDGsの本質は「変化」ではなく「大転換(トランスフォーメーション)」を求めているが、このことは日本社会ではまったく共有されていない。そしてSDGsのもうひとつの重要なコンセプトは、「誰ひとり取り残さない」である。これまでの多くの経済活動では、他の誰か、あるいは環境の犠牲の上に先進国の人々が利益を得てきたが、その構造そのものを変えることが求められている、と高橋は説明する。
 世界のさまざまな問題は、複合的な要因が絡み合って生まれている。そのため、対策も分野ごとに縦割りで行なっても解決することはできない。高橋は「SDGsウエディングケーキモデル」を紹介して、17のゴールはバラバラに並んでいるのではなく、「経済・社会・環境」が立体的につながり合い、何かがおかしくなると他の目標もお互いに影響を受ける関係にあることを示す。日本ではこの点についても誤解されていて、ゴールの間の連関は意識されていない。またSDGsの内容が目新しいものであるという誤解もある。SDGsは1970年代から各国が取り組んできた国際会議や条約の方向性をまとめたものであり、その内容をまとめて総合的に取り組んでいこう、というのがSDGsの画期的な側面である。
 以上の内容を踏まえて、日本の企業や自治体で広まっているSDGsの取り組みを見てみると、まったく本質を捉えていないことがわかる。またSDGsは「トレードオフはいけない」ことを規定しているが、日本の現状ではトレードオフによって得たもののみに注目してスポットライトをあてることで、SDGsに貢献していると謳う企業や自治体が多い。高橋はこのことを「SDGsウォッシング」であると批判する。
 高橋は最後に、教育関係者がSDGsにアプローチするときのポイントについて述べている。それによると、SDGsを教えるだけではなく、学校全体、あるいは地域の他の関係者と手を組んで実践を重ねることが大切である。高橋の取材をもとにした具体例を述べながら、児童・生徒が主体となって、大人が覚悟をもち、実践的に行動することが不可欠であると、本稿を締め括った。

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