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【短歌集】長距離狙撃に極めて適す

 溜まってきた短歌の総集編です!今までの記事で出したのも、新しいのもあります。気に入るものがあったら嬉しいです。増えたらここを更新します。

春に悖る

学生課心理センターから出ずる俺だけ避ける新歓の人

似た色を重ねて騙した初恋が暗く濁って立ち戻る春

穏やかでおうむ返しの相談員 四月は外に出られないのね

看板が焦げてる理由を考えて考えつかず花見に向かう

春来たり生命保険加入済みさあこの血肉がいつまでもつか

もう卒業することはない身でありながら卒業ソングが未だに憎い

青空に伸びる樒のアニサチン「ちゃんとして」から解放される

春らしい青春ものをたのみます当事者性を鋳型に流せ

ピンクじゃない森には誰も寄りつかない春一番の賭けをしようよ


糜爛する汗

なんであれ夢を諦め海に来たカツオノエボシの青を触りに

サイダーを懐古に使うなあれはただ幸福だった夏のイコンだ

転けたふりをした先で今夏が死ぬ蝉が入った蝉の抜け殻 

ノイキャンを破るクマゼミアブラゼミ冷房のないクソ無人駅

デカい蛾と二人暮らしよたまに来る彼も入れたら三人暮らしよ

血の色を努な忘れそ八月三十一日この液をこそ生命と呼べ

氷屋に変わらぬ君がいたとしていたとしてもだ俺は窓際

透明なグラスを数えてもう仕舞えクマゼミ以下の酒焼け声を

原液で飲んでも夏は戻らない吐くな絵の具にもなりやしねえ

糜爛する汗の染み込むグラウンド一年、ちゃんと祈っておけよ

村人の囮の先割れ五段雷引きより早くあなたの家へ

向日葵の種を集める初バイトお前はどうだ何か為したか

草熱れあんた終わりよこの夏で原稿用紙の減りは僅かで

生きている人が大事と言い聞かせ喪服で巡る向日葵畑

いきいきオータム

立ち枯れの紫陽花乾き軽くなりあの道で減速しなくなる

涼しくて出かけたくなる寛解の兆しの先から踏切の音

「夏バテ」を理由に出来なくなってきた「季節の変わり目」に切り替える

立ち枯れの紫陽花乾き軽くなりあの道で減速しなくなる

卒論を書くべき九月に息を止めベニイモガイの殻だけ拾う

秋という事情がなければオレンジのオレンジすぎる服を買えない

秋来たりチェックネルシャツ、ベレー帽、阪急電車の座席を纏う

秋天は遠く10キロ澄み渡り長距離狙撃に極めて適す

十月はまだ晩夏やろ水色の香水瓶を引っ掴みおり

秋晴れの茶屋町空は青く抜けカップルカメムシカメムシカップル

文芸部が廃部になるのも頷けるほうじ茶ラテは秋の季語っしょ

三組の自称赤毛の米沢は赤というより栗っぽいボブ

銀杏の匂いで全てごまかせる古い校舎は燃えやすかろうな

抜け感のあるテラコッタの棒紅と擲弾銃で秋を演出♡

ちょうどいい秋カーディガンがあるという業績一位優勝最高

厳冬の思想

冬だけは他と違って明確に境界を跨ぐ音が聞こえる

雪が降るときだけ雪を踏みに来る友を引き留め季節を戻す

白浪を海と思って生きてきた瀬戸内海は静止画だった

あの宿のボイラー室の甲斐犬は恐らく老いないずっとうるさい

ナイターのコースアウトに鳴く狐ファーマフラーのせいだわすべて

犬だけが重装になる隣人はベンチの霜も意に介さない

雪焼けを知らぬ娘が自惚れるあの人ずっと照れてるやんか

ワイパーは縦にお鍋は週四に猫はモップになってようやく

ガチギレの彼女の声を聴きながら冬毛の猫にパーを挿入

冬にしか会ってくれなくなった友「非科学的」が口癖だった

朝焼けに光るギリギリ不凍港船たちはまだなんとか進む

裏山はガスり射線が通らないあの東屋で告るはずなの

電飾の瞬く場所で協和する手本に近くつまらない歌

ミュージアムショップで買った複製の本物が競り落とされて冬

雪解けと同時に僕も去るのだと思っているね言いはしないが

やめたほうがいい

髪も目も匂いも無理になっちゃった末端衝撃波面だったの

行為だけ論ったら前科とかつくかもだけど心を見てよ

土下座慣れしてる以外に欠点がないの髪とかサラッサラだし

空きグラスとビジューリボンと貧困と原子番号10の煌めき

この人で最後にするの本気だよ未必の故意をソーダで割った

着歴はあいつの鏡に通じてる毒樹の果実は美味かったかよ

尊厳と身の安全と元彼じゃどれが一番惜しいのですか

スカートを初めて折った日の当番想いよ届け嘘やっぱ死ね

ゆる巻きのギャルと付き合い出してから奴は文法警察を辞めた

ウィンクの絵文字一つで萎えたのでたぶんそこまで好きじゃなかった

盗品しか愛せないひと外出は月夜ばかりでもう飽きたわよ

リクスーと喪服が異様に似合う顔コピペみたいな君が愛しい

天井に汚れがあるなあ酒瓶もレンチも爪も武器ではないよ

作られたレトロで昭和を偲ぶなら私のこともわかるはずだわ

好きの外れ値

新緑のラボ我が恋は単体で光る単なる超燐光です

家の猫の瞳の色に似てたからただ同様に愛しただけだ

並び立つことを思ってコロン振るお前のいない右側だけに

目が合ったその日の夜半からカーテンを遮像に変えたの僕のせいなの?

「かしこい」を皮肉に使う同僚に「馬鹿」と言われるこれは何?愛?

製図器を手に取り君をふと思う「あの曲線を引けるか」と声

サビ残で創世やわらかい君が触れるところの角を丸める

脳だけになったあなたも愛せるよ会話のほうが気持ちいいから

ノンブルの群れを弄る長い指僕の数字を掠めて去った

同僚を同僚だと言いたくないとネットの人に駈込み訴え

特別な日に着るような服をやる思い出せ特別な日ごとに

タイプはと訊かれ愛する人たちの公約数を探したんだが

短調の曲に挟まる一瞬の長調みたいな声色だった

構造がわかったときのあの熱と恋の区別がややついていない

新月を背にジェルネイルの牽連犯ただ恋だけを言い訳にして

だらしなびと

パンプスを履きたくないからレールから逸れたそれでも飯は食えてる

自棄になり買った中古のアコーディオンFだけ鳴らんがまあよしとする

幸せは人に分けると目減りする俺のところで堰き止めるべき

診断書にすら折り目をつけるほどだめな子なんですマスタードガス

だめになる前にどうする?やっちゃうか?リベレーターを撒け撒け撒け撒け

少なくとも俺もお前も佐渡も恥をかくべく生きてはいない

僕の夜です僕だけの宵なんです電話を寄越すな月も隠るな

光芒へ水切りをする駿河湾なべて正しくあるべき なべて

幻日にかぷかぷ笑ったクラムボン俺も普通に笑いたいです

抜き取られ一瞥されて戻される本の表紙にいたはず、私は

二回目の見舞いの電話に怯むからずっと私は聖者になれない

「マイペースで協調性に欠けています」好きな楽器はニッケルハルパ!

人らしさのために犯した失敗が本物になり染み付いて夜

怠惰さを諾いまくる短歌五首だらしなびとの多少のアート

昼間の譫妄

生きるためジャコウアゲハの脳を食う市販薬すら買えないもので

お互いの骨の中身を舐め合って勝ったほうのみタメ語を許す

覚えてないかもしれないけど会ってます五世紀前に東梅田で

化粧筆を巨大化させて空を飛ぶ魔女は君しか見たことないね

ミズクラゲの胃から入れる閉架書庫五冊目を手に取っ、あっ目が覚めた

家祖の墓に座す九尾のポメラニアンどんな願いも聞くだけ聞くよッ

蚊蜻蛉の頭だけある縁側の下から猫と何かの呼び声

淀川の左岸に住みつく人面魚今年の噂はやや怪談調

指先に向けて捲れるささくれを順剥けと呼ぶアインシュタイン

先輩がずっと前から好きでした肺魚が夏眠をしだした頃から

セクション平安(藤の巻)

病窓の松に纏わる紫の藤より青い私の手足

うつろわぬものと信じていたかった松にかかれる乾いた藤花

外皮系に這わす藤波立ち返りうすく濃く咲く春を睨んで

返信の催促をしたばっかりに拐かされて折れた藤波

非時の藤を召喚!フィールドが〈春の部立〉の効果を受ける!

黄昏に紫藤垂る道まっすぐに埋め立てられた海まで続く

「海上に雲から吊られた藤浪が」男の手記はそこで途切れて

別館のお庭の池に映る藤いやな客だけ無風で避ける

手袋を咥えて二秒逡巡しハープのように藤波を弾く

千代目は八十二代目に似たり藤に潜りて去る蜂の羽

星が落ち夢が潰えた年のこと常盤の果てに藤は咲くらむ

クソオタク

プロフ欄に「徒然」と書くぼんくらを謝りながら撃ち抜く作業

積読の斜塔を撫でて堆く光る”ちから”をもらう 読まない

実写化の文字に震える友の顔コーヒーの香のみずみずしさよ

非公認ボドゲ部に住む五浪ニキ「ダイヤの原石を連れて来い」

妄想で書いた恋詩が賞を取りこの世は終わり電気消してよ

推し絵師の思想が炎上してて草(数年ぶりに窓を洗った)

人間で練習しないできたせいでキショい祝詞を愛と呼ばわる

琴線が同じ座標にある君と愛し合うことはないのだろうね

早朝の犬を撫でつつ笑いつつ転売ヤーを呪う算段

きっとサイエンティスト

車窓から葉桜学振不採用とくに詩情も実績もない

知り合いの狂科学者が倫審の用紙で鶴を折ってカフェオレ

星界の報告を聞く人たちの呑んだ息から産まれた世紀

四歳の目的論的自然観拒めずキリンの首を伸ばした

かなり前星と眼を醒ました法を暴く遊びに恋をしている

泥靴のままで手にしたPh.D.理由の奥に誰かいますか?

有意差が出るまで歌う基礎研究ヒト畜生の最後の文化

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うごき、うつくしいもの

不合格通知を待つ父母兄と合格通知を待つ僕猫

バスドラが上手そうな足をしているヨシゴイを見た 解散しよか

スカシバの透かし羽が好き透明であり境界もあり飛べる

祖母はもうボタンインコとだけ話すそれでも構わん なあアオ チュピチュ

幸福な犬が起こしたつむじ風対人由来の疼痛に効く

ホーサーを蛇と見違い打ち上がる犬気づく犬照れる犬

家祖の墓に座す九尾のポメラニアンどんな願いも聞くだけ聞くよッ

雑踏を気づかれないまま駆け抜けて猫だけ抱いてゴールを目指す

縦横に織られた世界で俺だけはそれらを踏んで生きる猫だし

所与のものではない幸を幸と呼ぶヒトに対して猫はというと

猫「アニャー」ワイ「ねむいなあ」猫「ヌアウー」猫(雨の音に右耳を振る)


実しやかな生活

水色は透明であると主張して詰られ帰路の石を蹴飛ばす

外交に使う言葉を靴箱にしまい鳴き声だけでただいま

探偵で海賊団で魔女だった私の組んだExcel関数

粉砂糖溶け切るまでに切り出そう 無理 ねえ入稿間に合いそう?

不合格通知を待つ父母兄と合格通知を待つ僕猫

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文節に散らばる祖父の句読点光り夜空に昇って帰宅

朋友が歴史書の字になってから恋であったと思い至った

怪盗と強盗の境目はどこ舞ったガラスは美しかった

あるべきでない場所にある宝石のほうがなおさら貴くみえる

手拍子に舌打ち返し墜つ緞帳だれもぼくからとりたてられぬ

死者たちは海へ行く派の友人が検めるのを止めなかった夜

星辰をずらし免る刑事罰いのちが神話に勝った日のこと

太白や楕円軌道の夢を描け均しさばかりが真ではないと

狼星を南に見放く焼け野原 そらはぴかぴか くさはふかふか

薔薇が咲く終末世界の中之島きみと二人で橋を渡ろう

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