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村上春樹春樹ライブラリーと『村上春樹 映画の旅』

 早稲田大学の本部キャンパスにある村上春樹ライブラリーと演劇博物館を見学してきました。村上春樹ライブラリーの方は、できれば小説を全て読み終えてから訪ねたかったのですが、演博で村上さんの企画展をやっているので、二館まとめて訪問することにしました。
 前にもちょっと書いたのですが、早稲田大学は私の母校です。ただ、文学部出身なので、本キャンにはあまりなじみがなく(文学部は早稲田通りを隔てた戸山キャンパスにあります)、四号館が村上春樹ライブラリーに変わったという記事を読んでも、昔の四号館を思い浮かべることもできません。演博に入るのも今回が初めてですし、ライブラリーの事前予約の時も、自分の肩書きが一般なのか校友なのか迷ってしまいました(校友会費を払ったことがないので。ネットで検索して、校友=卒業生のことだと知りました)。やれやれ。


 最初に訪ねたのは、村上春樹ライブラリー(正式名称は早稲田大学国際文学館)です。村上さんが母校に寄贈なさった直筆原稿やレコードなどをもとに村上文学を研究する場として設立された文学資料館です。現在は、事前予約&90分入れ替え制。各回10人まで当日入場もできますが、朝一の回でも結構並んでいたので、予約した方がよさそうです。

 前から見たライブラリーです。古い校舎が隈研吾さんによって生まれ変わりました。改装費用はユニクロの柳井会長が寄付なさったそうです。建て替えが進んで、「校舎二流」(三流だったかも)と揶揄されていた頃の面影はない本キャンですが、質実剛健な雰囲気であるのは今も変わらず。その中で、村上春樹ライブラリーは、別世界の趣きを漂わせていました。「異世界に足を踏み入れるのだ」という気分が高まります。 

村上春樹さんの挨拶文
ギャラリーラウンジ

 1階にあるギャラリーラウンジでは、世界各国で翻訳された村上さんの小説を読むことができます。著作権法に触れるかもしれないので、紹介できないのが残念ですが、様々な言語に訳された、目にも美しい装丁の書籍が並んでいました(写真撮影は可能です)。手の込んだ作りを見ると、村上さんの小説が世界で愛されているのがわかります。

オーディオルーム

 オーディオルームでは、ジャズの名曲を聴きながら読書ができます。私が行った時はエラ・フィッツジェラルドのライブ盤が流れていました。何時間も居着いてしまいたくなる空間でした。

村上さんのジャズ喫茶にあったアルバム

 2階では秋季企画展『翻訳が拓く世界』が開催されていました。1985年以降英語で翻訳された日本の小説を紹介する企画展です。

 英語に訳される日本文学が徐々に増えている様子がわかりました。日本とは装丁が違う小説も多く、受容のなされ方も違うのだろうと推察されます。
 また、村上春樹さんの序文付きの夏目漱石や芥川龍之介の作品も展示されていました。日本でアメリカ文学を紹介なさっているだけではなく、英語圏の読者に向けて日本文学を紹介なさっているんですね。
 村上さんのファンだけでなく、現代日本文学に興味をお持ちの方にもおすすめしたい企画展です。

村上さんのジャズ喫茶で使用されていたピアノ。
カフェ柚子猫のドーナツ

 この文学館ができたことで、村上文学を研究したい方には早稲田大学がファーストチョイスになりそうですし、現代文学や比較文学の研究拠点ともなり得る施設だと感じました。
 文学部不要論という悲しい議論を吹き飛ばすようなエネルギーを感じさせてくれる文学館でした。

 村上春樹ライブラリーの隣にあるのが演劇博物館です。坪内逍遥の古希とシェイクスピア全集の完成を記念して1928年に設立された博物館だそうです。坪内逍遥といえば、一般には文学史に出てくる『当世書生気質』や『小説真髄』の作者という印象が強いかと思いますが、早大にとっては、草創期のメンバーの一人であり、文学部の花形教員という位置づけなんですね。キャンパスのあちこちにアトリエ(演劇サークルの稽古部屋)があるのも、逍遥以来の伝統かもしれません。
 現在の演博は、演劇や映画の資料を収集・保管する博物館となっています。村上春樹さんは、学生時代にこの演博に入り浸って、映画のシナリオを読まれていたのだとか。 

英国にあったフォーチュン座を模したつくり。

 今回、見学したのは秋季企画展の『村上春樹 映画の旅』です。村上さんの小説に出てくる映画のスチル写真やポスターが展示されていました。
 個人的に、村上さんの小説に登場する文学作品は自分でもほぼ読んでおり、音楽もジャズ以外は馴染みの曲が多いのですが(クラシック音楽や古い洋楽が好きなので)、映画は未鑑賞の作品がかなりありました。なので、今回この企画展を見学して、観ていない映画の雰囲気を多少なりとも掴むことができた気がします。
 また、一番気になったのは、まだ読んでいない『ねじまき鳥クロニクル』とデイヴィッド・リンチ監督の《マルホランド・ドライブ》に親和性があるという企画者の指摘でした。マルホランドは、好きな映画ベスト10に入れたい、お気に入りの作品なので。脳の普段使っていない部分を刺激される映画なんですよね。積読になっているねじまき鳥を早く読まなければ(両作品をご存じの方は、この指摘をどう思われますか?)。

 『村上春樹 映画の旅』は、目録が本になっていて、Amazonでも購入できます。

 
 早稲田大学の本部キャンパスは、地下鉄や都電の早稲田駅から徒歩数分。村上春樹ライブラリーや演博は、正門や大隈講堂から見て右奥にあります。村上春樹ライブラリーの企画展は3月26日まで、演博の企画展は1月22日までの開催となっています。
大学のキャンパスといっても、海外からの団体客が学内見学をしているぐらいに入りやすい雰囲気なので、村上春樹さんの作品がお好きな方はぜひ、訪問なさってみて下さい。

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