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【創作】雨の音と別れの歌 #シロクマ文芸部


 雨を聴く歌は多いけど、私が思い出すのは稲垣潤一の『バチェラー・ガール』だ。JASLACが怖いので歌詞は書かないが、作詞松本隆・作曲大瀧詠一という豪華な歌で、雨を壊れたピアノに喩えている。恋よりもキャリアを選んだ彼女に振られた男性が、土砂降りの中去っていく彼女を見つめながら、壊れたピアノのような雨を聴くのだ。

 私が幼稚園児だった頃にはやった歌だけど、中高時代の友人が大瀧詠一に心酔していたので、彼が手がけた曲はわりと知っている。『バチェラー・ガール』や『恋するカレン』のような男心を切々と歌う曲が特に好きだ。

『バチェラー・ガール』には、大瀧詠一本人のバージョンもある。

 一時期、この曲を聴いては、赤い傘をさしながら雨の中を去っていく自分の姿をイメージしたものだ。前回、『赤い傘と別れの季節』に書いたように、赤い傘をさしている時に彼氏に振られたからだ。

 現実では振られたのに、想像の中では、私は自分から彼氏に別れを告げて、カッコ良く立ち去る。
 そうやって、自尊心をなだめていたのかもしれない。

 社会人になってから、部署の先輩にその話をすると、

「失恋した時、私は小林麻美の『雨音はショパンの調べ』を聴いて泣いた」

と教えてくれた。雨音とショパンを聴きながら、別れた男を思い出すという歌だった。作詞は松任谷由実なので、臨場感が半端ない。

小林麻美バージョンのアンニュイな雰囲気とはかなさが大人の恋にふさわしいのだけど、spotifyに見当たらないので、柴咲コウ版を貼っておく。これはこれで悪くない。

 その時には、私も先輩も過去の失恋を笑えるようになっていたので、部署でカラオケに行った時、一緒に歌ってみた。そしたら、先輩と同世代の男性社員が割り込んできた。一緒に小林麻美を歌うのかと思ったら、英語で歌い出した。
 『雨音はショパンの調べ』はカゼボという歌手の『I Like Shopin』が原曲らしい。だからって、人が日本語で歌っている時に英語で参加しなくてもいいと思うのだが、そういう人はわりといる。


 今回思い出して、ガゼボ版を聴いてみると、過度に感傷的な曲だった。もっとも、失恋した時に聴くには、これぐらいの方がいいのかもしれない。あの時、「I Like Shopin〜」と大声で割り込んできた先輩も、失恋して、ショパンとカゼボに慰められたのだろうか。

 雨を聴くというよりは、失恋ソングを聴く話になってしまった。

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