あたためた想い

私が「ただの映画好き」から「映画監督未満」になったのは、今から約1年ほど前の話。普段は一晩のうちに2つ以上必ず夢を見る私が一切夢を見なくなったのも、ちょうどその頃の話。映画を作ってみたいという漠然とした願望に脳内が支配された私は、お風呂に入っているとき、歯を磨いているとき、寝支度を済ませ布団に入ったとき、そんな、日常にありふれた何も考えなくてよい瞬間でさえも、答えの出ない問いを永遠に巡らせていた。

そんな日々がしばらく続いたある日。暇つぶしの一環としてはじめたツイッターに「映画監督になる」と呟いたところ、過去最高のいいねがついた。どこの馬の骨かもわからない新参者の私に、まだ付き合いだって浅かっただろう私のツイートに、100以上のいいねがついたのだ。いいねという曖昧な尺度で自分の感情を図りたくはなかったが、その反響の多さには純粋に喜びを見出すことができた。そして、その瞬間。私の漠然とした思いに、一つの芽が生えた。夢を見れなくなった約一か月の間、私は知らず知らずのうちに根を生やし続けていたのかもしれないと思った。

その日の夜は、久しぶりに夢を見ることができた。成り行きは思い出せないが、夢の中の私はとても気持ちよさそうに寝ていたということだけは覚えている。思考する癖のループから抜け出し、他者から認められるという快感を知ることができたからだろう。

それからの日々は、今まで以上にたくさんの映画や本、芸術に触れ、映画監督未満の自覚を持ち、生やした根を腐らすことが無いように、そして芽を高く伸ばせるように、毎日を大切に過ごした。

そして、現在。

私はついに、映画を作る。ついに、ついに、ここまで来たのだ。


ただの映画好きだった私が、映画監督未満になってから約1年。あたためてきた想いを、形にするときが来た。

昨年の夏、青々とした葉をたくさんつけてくれたウンベラータの調子がパッとしないのは少し心配だが、私の根は順調に育ってくれたみたいだ。

栄養をたっぷり蓄えて迎える、初めての夏。


小さくてもいい。

ただ、決して枯れない美しくて凛とした花を、咲かせたい。




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