2023.7.18 憧れた町

神保町という町に行ってみたいとずっと思っていた。古本屋がたくさんあって、カレー屋さんもたくさんある。らしい、という情報だけをずっと知っていて、それ以上の詳しいことは何も知らなかったけど、とにかく神保町に行ってみたいと思っていた。古本屋さんが立ち並ぶ街、なんて絶対に好きになるだろうな、と思った。

そして、遂に行く日がやってきた。東京での実習が決まったのだ。夏の暑さで身体の水分が蒸発していきそうな日。PAUL & JOEの日傘を手に持ち、水色のTシャツを着た私は東京メトロに揺られ神保町へと降り立った。ホームからの階段を登り、もやもやと熱のこもった空気が漂う地上へと出て歩き出すと、ほんの数歩歩いただけでもう古本屋さんがあった。イタリアの本が中心に置かれている、らしかった。こんなにもすぐに古本屋に出逢えるのか、と少し浮き浮きしながら歩いた。

古本屋がたくさんある、と噂には聞いていたけど、実際の神保町はその噂以上に古本屋があった。古本屋をひとつ見つけて、入って、店の外に出るとすぐ目の前に別の古本屋がある、といった具合に街全体のどこを歩いても古本屋があった。視界から本屋が消えることが全くないまま時間を過ごすことができた。古本屋はそれぞれ置いてある分野が異なっていて、例えば文学、例えば歴史書、例えば演劇、と様々なジャンルの店を見つけた。町全てが図書館みたいだな、と思った。そして決まって店内は、冷房が冷たく効いていて、とても静かで、店の中にいる人全員が、ただ静かに黙って、並ぶ書物と向き合っていた。外の暑さは店内に入れば全く関係なくて、古本屋に入ったときだけ別の世界にいるようなそんな感覚がした。

とは言え外は変わらず熱が漂い疲れてしまったので、こどもの本が置いてあるブックカフェへと入り休憩することにした。小学生の頃読んだような本や可愛らしい絵本、宮沢賢治や小川未明といった児童文学、なんかがたくさん置いてある綺麗なカフェだった。並んだ本を眺めて、「霧のむこうのふしぎな町」を見つけた。小学生のときとても好きだった。懐かしくなって、そのまま購入して、カフェスペースでクリームソーダを頼んだ。かき氷の緑色のシロップが底に沈み、バニラアイスが乗ったクリームソーダは、溶けたアイスが雲のように蕩けて綺麗だった。涼みながら、買ったばかりの本を読んだ。そうそう、こういう話だった、と懐かしくなりながら、やっぱり昔と変わらず、リナと一緒に霧の谷の世界へと入ってしまった。こういう物語を読むとき、私はいつだって、この世界のどこかにこの物語に出てくるのと同じ街があって、同じ登場人物たちが今も暮らしているんだな、と、信じたくなる気持ちになる。久しぶりに読んで、霧の谷は本当にどこかにあって、いつか必要なときに私も招待されたいな、と思った。何歳になっても、そういうことを信じているし、信じているままでいたいと思った。

次の予定が迫ってきているので、そのまま神保町を後にした。
この世には私の知らない世界がまだまだあって、そういう世界がちゃんと、古本としてたくさん残っているんだと思った。
そう思うとやっぱり私はまだまだ永く生きて、いろんな世界を知っておきたいな、と願ってしまった。またいつか知らない夏を過ごすために、神保町を歩こうときめた

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