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陽のあたる場所 詩5篇

  飛ぶ


失って
テンガロン・ハットの水は
鳥が飲み干して行った
鳥の名は
知らない

失ったことを
失ったものを
考えていると
夜空の鳥が
僕に見えなかった頃の
自分が飛べると思っていた齢の
あの時 鳥が確かにいなかったことを
そう直覚していた自分というものを
考えてしまう

部屋のストーブ
今日も閉ざしたままの窓を越えれば


   2020.11.3


  傷

傷をひらいてみせよう
傷の描写が
どうやってもうまくできないのだけれど

たとえば
できそこないの造花のような

たとえば
密室の中の缶詰のような

たとえば
暗闇で踏んだポテトチップスのような

どうやっても
僕は傷を描写できない

というところを
ぐるぐる回っているから
それがたぶん
僕の傷なのだと思う
そんな血肉の描写
——痛むかい?
   2020.11.5


  外す

コーヒーショップに
知恵の環を持ってきた
ねじ曲がった金属
ゆがまない 僕の
怯え
部屋にいなくてよかった
本棚に
一冊の少女漫画
しばらくは会うことのない
女の子から借りたまま
僕の混雑と
怯えから
僕を外すことができない
こうやって
冬のアイスコーヒーをすすりながら
さっきから知恵の環を見つめている
外せないのか?
意識の限り
コーヒーだけが鋭い
意識
   2020.11.6


  ある目測

人間がいないかのように
ここから眼鏡屋が見える
弱視者は
どのように僕のみすぼらしさを見るのだろうか
ここに
さして遠くもない
赤い看板の
眼鏡屋
から
やはり人間が出てきたのだった
うつくしい女性に
小さな女の子
彼女らは眼鏡をかけていなかった
そのことも
彼女らがうつくしいということも
僕の目が
だいぶいかれている証拠なのかもしれない
彼女らが歩道を行く
向こうから
人間の客が店に入る
その人間が〈何〉であるのか
僕は見るのをやめてしまったから
この星は無人と言ってしまってもいいんじゃないのか
   2020.11.6


  冬の犬、そして機械

機械をなくす
犬の国の機械工
よだれを機械にたらすたび
電極から
電流を撃ち込まれるから
毎日のことだから
犬の機械工は
自然とよだれをたらすようになった
何の機械であるのか
自分に ずしん と電気を流す者が何であるのか
知らないままでいるのが
犬である自分の
もしかして自分を犬を思っていない自分の
目一杯の毎日であったが
ある朝
機械をなくした
電流のない ずしん のない一日がはじまり
終わり
犬の機械工は
呟くかわりによだれをたらした
   2020.11.6

#詩 #詩歌 #文芸 #創作 #11月のはじまり #陽のあたる場所


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