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SFショートショート『ネット裁判』※訂正版

「そうか、おまえも明日が二十五歳の誕生日だな。おれは一昨年、はじめてのネット裁判に意気揚々と参加したけどな」

IT企業に勤めているマサシと、YouTuberをしている友人のヨシキは、ネット裁判の話題で盛りあがっていた。

ヨシキはなぜか誇らしげに、裁判に参加していることを語っていた。しかし、マサシは人を裁くということに抵抗があったから、裁判には参加しないつもりだった。すでに裁判員制度で、法律には素人の一般市民が裁判に参加するようになっていたが、やはり日本人には肌があわなかったのだろう。無作為に選択された裁判員になることを拒否する人が多かった。その後、法律の改正で、成人は二十五歳からとされ、その年令から選挙権が得られるようになっていた。少年の悪質な犯罪や、成人とも思えない青年たちが増えてきたからだ。

また、訴訟が激増し、裁判にかかる国費や時間を削減するために、二十五歳から、各家にあるパソコンやスマホを使い、すべての成人が裁判の判定に一票を投じる、いや、ネットだから有罪か無罪かをクイックないしはタップすることになったのだ。

「でもさ、マサシ。おれの一票が人ひとりの人生を決める参考となる一票になるなんて、なんか興奮するもんだぜ」

「そうかな、メールで送られてくる訴訟内容、被告の情報だけで、決めていいのかな?」

ヨシキは顔をしかめ、口を歪めた。

「しかしなぁ、マサシ。昔っからの裁判だって、おなじようなものだろう。検事や弁護士、裁判官は神さまではないんだ。ときには過ちだって犯すだろうさ」

「それならなおさらだよ。人を裁くなんて、ぼくにはできないな。そんな裁判資料をみているくらいなら、彼女と過ごしていたいよ」

「それはきれいごとだぜ。誰かが汚れ役を引受けなきゃいけないんだからな」

ヨシキのいうとおり、誰かがやらなければならないことだ。真実を見極めるなんてことは、神仏ではないぼくたちがわかるはずもない。いや、もともと善悪なんてあるのだろうか?どんなに時間をかけたとしても、人の善悪を問いただすことなんて不可能なことにちがいないと、マサシは自問自答を繰り返していた。そのとき、彼女の声が携帯から聞こえてきた。マサシは彼女の声を録音して、着信音にしていたのだ。マサシの心から迷いが消え去った。国民としての大切な義務や権利よりも文子のほうがもっと大事なのだと思った。

ネット裁判制度が施行されてから、裁判官と検事、弁護士の数は激減した。犯罪が激増している今、ネット裁判は二十四時間、行われ続けているともいわれていた。

しかしながら実際は、新しくできた裁判庁で、官僚たちがネット裁判を管理していた。裁判官を中心となり、検事と弁護士たちがアドバイザーとなり、すべての審理内容、検察と弁護士たちの調査していたデーターをコンピューターにインプットし、感情に流されない裁判をしていたのだった。

「すべての裁判をAIで管理、結審していることが一般国民に知れたら、まちがいなく政府に批判が集中するだろう。だが、ネットで裁判に参加させているふりをさせていれば、そんな疑惑もきっとおこらないだろうな」

「ですよね、ソウダ長官。一般国民に適切な判断ができるとは思えませんよ。よほどAIのほうが信頼できますからね」

だが、彼らは知らない。ハッカーたちによって、ほとんどのデーターが書き換えられ、まちがいだらけの結果が示されていることを。

         (fin)

※トップ画像は「AI生成・お絵かきばりっど君」😊

星谷光洋MUSIC『My Last Love』
星谷光洋のラブソング


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