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SFショートショート『イカとタコ漁の禁止令』🦑

※オーストラリア免疫学者、エドワール博士が学術誌で発表している内容部分は事実です。ちなみに私の故郷は漁村です。


今は2029年の夏。大学時代からの友人で、農林水産省で職員をしている波田から、ぶっとんだ情報が入ってきた。

なんでも、イカとタコの総数が激減しているため、3年間の限定期間で、日本も含め、すべての国において、イカとタコ漁が禁止されることになるというのだ。

俺の肩書きは経済ジャーナリストとしているが、実際は、日本政府の裏情報を外国に売り、外国の裏情報を日本政府に売る。各国の裏情報もさまざまな国に売り飛ばす情報屋である。まあ、二重スパイに似ているかもしれない。

「波田。どういうことだい? ぜんぶの国で、禁漁ってわけがわかんないよ」

「海原。ぼくもいろいろと訊いてみたけど、詳しく知っているのは、与党の総理大臣と大臣クラスだけで、箝口令が敷かれているらしい。オーストラリア免疫学者、エドワール博士が学術誌で発表している内容として、イカとタコは、地球上での進化論にそぐわない、不思議な生物だとある。おそらくそのあたりになにか秘密がありそうなんだが……」

翌週から、国会で激論がかわれされはじめ、イカとタコ漁をメインにしている漁師たちもデモ活動をはじめていた。政府では、3年間は、補助金をだすと確約しているらしい。

俺は、いままでの人間関係をふるに使い、アメリカのCIA職員の、ブルースという男に連絡をとった。電話やメールでは伝えられないというので、俺はアメリカに飛んだ。


ロサンゼルスのCity Hall Parkで、目印の白い手袋をしたブルースが立っていた。私の容姿がすでにわかっていたようで、ブルースのほうから話しかけてきた。

「イギリスのMI6のメランダから連絡が来ているよ。彼女とは親しいのかい? ミスター・カイバラ」

「親しいというか、Win-Winの関係というかですね」

「まあ、君はジャーナリストだというふれこみだが、世界各地に情報を売りまくっている男のようだね。ただ、今回は、少なくとも、メディアには出せない情報だ。もし、この情報をメディアにだしたら命の保証はできないし、ほかの国に情報を売ろうとしても、各国の首脳はその情報は共有されているから誰も買わないよ。まあ、誰かに話してもバカにされるだけだろうけどな」

めずらしく、俺の背中に生温かい汗がつたうのが感じられて、心臓の鼓動がはやくなってきた。さすがはCIA。俺のことなどお見通しらしい。

「ブルース。わかりました。それでもよいので、世界各地で共有されている情報を教えてください」

「OK。ストレートに話そう。イカとタコは、異星人がほかの星から持ってきて、地球の海で養殖したのだ。イカとタコの成分が異星人の養分となるし、来年からその惑星から多数の異星人たちが3年間、地球の海に移り住むため、イカとタコが大量に必要になるのだよ。もちろん、異星人達は合成でいろいろな栄養分を作り出せるらしいが、イカとタコがいちばんの好物だからな。アメリカではポピュラーな食べ物ではないが、私は大好きだよ」

「いったいなんのために、異星人がたくさんやってくるのでしょう?」

「なんでも、地球の崩壊を止めるためらしい。地球は異星人たちの住居でもあるからね」

俺はブルースの顔をまばたきせずにみつめていた。
どうやら冗談ではないらしいが、こんな話をメディアに流しても、笑い話になるだけだろう。「このタコ!が」といわれるのがオチだ。

淀み、薄暗くなっていく空をみつめていると、どこからか、イカを焼いたような匂いがしてきた。そこで匂いの元をたどると、ブルースがどこから出したのか、イカ串を美味しそうに食べていた。

                (fin)

画像のクリエイターさんは『中川 貴雄』さんです。
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