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孤独の吸血姫:~第三幕~醒める夢 Chapter.5

 普段は不必要なほど静寂に祝福された大広間が、現在いま殺伐さつばつとした決闘場へと一転していた!
 黒が攻め、白がわす!
 白が攻め、黒がはじく!
 カリナ・ノヴェールとカーミラ・カルンスタインの攻防は、拮抗きっこうした実力ゆえ一進一退いっしんいったいきざみ続けた!
「そうか……キサマか! キサマだな! キサマがレマリアを!」
 少女城主をめつける目に沸々ふつふつとした憎悪ぞうお宿やどる。
 うつろう魂が見定みさだめた新たな獲物だ。
 れど、それは最大に手強てごわい。
「いまにして思えば、最初からレマリアを狙っていたな! だからこそ、私の滞在を周到に約束させた! そうだろう!」
「とうとう〈レマリア・・・・〉は消えたのね」
「とぼけるな! 恥知らずの〈女吸血卑ヴァンプ〉が!」
 ついに来るべき瞬間を迎えた──それを覚悟したカーミラの表情は、儚げな悲哀をふくんでいた。
消す手間・・・・はぶけた。後は、どう納得させるか)
 カーミラの哀れみが自分へと向けられたものだと、カリナがさとれるはずもない。激情へとまれた現状いまの彼女には……。
狡猾こうかつに友情をよそおい! まやかしの共感をいだかせ! 虎視眈々こしたんたんと舌なめずりをしていたのか!」
 怒り任せにあかむ!
 その軌跡は鋭利ながらも、相変わらず乱雑であった。
 他の吸血鬼ならいざ知らず、カーミラにけられぬ道理はない。
「……ちたわね、カリナ・ノヴェール」
「上から言うかよ! その高貴ぶった態度、常々つねづね気に食わなかったさ!」
 あかい閃光と繰り出される突き!
 しろ外套マントがカーミラの円舞えんぶあわせ、敵意の牙をまとわりんだ!
 自身が常套じょうとうとする回避動作を真似まねされ、カリナはしゃくむ。
「よくも、その動きをっ!」
貴女あなただけの専売特許じゃなくってよ」
 んだ勢いを殺さぬまま、カーミラは回転の余力に舞った。
 その遠心力をかした反撃に、いばら双鞭そうべんが襲い伸びる!
 まなこ寸前まで襲い迫る双蛇そうじゃを、カリナは紙一重の後方跳びに退しりぞけた!
所作しょさが似ても当たり前。同じ〈〉が、そうさせるのだから」
「何が〈〉だ! 馬鹿にしてくれる!」
 足裏が地面の感触を踏んだと同時に、カリナは屈伸態勢をバネと転化する!
「レマリアを返せぇぇぇーーーーっ!」
 地を蹴る間合いに繰り出される突き!
 勢いと全体重を乗せた渾身こんしんの一撃!
 が、あかの切っ先は金髪をつらぬいただけ。
 標的とさだめたうれいは残像がすべるかのようにわきへとけた。
 紙一重かみひとえす技量もまた、先刻のカリナよろしくだ。
「また猿真似か!」
「言ったでしょう? 同じ〈〉が、そうさせる……と」
虚言きょげんまどわすかよ!」
 いらちをえつつも、せっかく得た好機は逃さない!
 まだ剣の間合いだ!
 そのままやいばぎ払い、きょを突いた斬撃を狙う!
「もらった!」
 手応てごたえを確信するもカリナが捕らえた像はかすみ
 やいばが裂くと同時に、カーミラは白く霧散むさんしていた!
「チィ……霧化・・かよ!」
 カーミラほどの技量ならば、交戦下で行使できて当然。
 だがしかし、精神集中の行程すらもまえぬ対応の早さと魔力底値は、正直、予想を上回うわまわっていた。しろ外套マントによる〈魔力増幅〉の効力も大きいのだろうが。
「何処から来る」
 鋭敏な警戒心を鳴子なること張り巡らせ、潜伏した気配を周囲に追い睨む。
 きりした〈吸血鬼〉は、その場に存在しながらも存在しない・・・・・あるいは、存在しないながらも存在する・・・・。見渡す空間そのものが〈潜伏する敵・・・・・〉だ。
(とはいえ、霧化きりか状態のままでは、アチラも手が出せまいよ)
 物理攻撃へと転じるには再実体化の必要がある。
(双方が下手に動けぬ以上、襲撃時に実体化する気配を捕らえるしかない──一瞬の賭けではあるが)
 まぶたじ、静寂に身をゆだねた。
 感覚を細くとがらせ、カリナは精神世界の闇へとひたる。
 落ちはじけるしずくの音……大気の流動……先刻の死に損ないが乱す息遣いきづかい…………すべての微音びおん索敵さくてきの邪魔であった。
 黙想に立ち尽くすカリナは、一見いっけんには無防備だ。
 しかし、秘めたる応戦意識にすきは無い。
 大気拡散したきり──すなわち〝カーミラ〟は、素直に感嘆かんたんを覚えていた。
天賦てんぶね。先程まで理不尽な激情に溺れながらも、局面では冷静な対応判断をくだせるなんて)
 すさんだ流浪るろうみがかれた〈戦士〉としての素養そようだろう。こればかりはカリナの優位性だ。自分では遠く及ばない。
(はてさて、何処から攻めたものかしら?)
 おそらく安全つ有利な方角など無いだろう。
 カーミラわずかかながらにも勝算を考えて、獲物の周囲を漂い始めた。


 足のけんを斬られたジョンには身動きすら叶わない。引きずる痛みをかばいつつ、その場で座り倒れるしかなかった。
「な……なんて戦いだ」無力な傍観ぼうかんに、驚嘆きょうたんの息をんだ。改めて介入かいにゅう余地よちが無い事を自覚する。正直、矛先ほこさき推移すいいに命拾いした気持ちだ。「カーミラ様も、カリナ・ノヴェールも、桁外けたはずれた実力じゃないか! 完全に僕等とは格違いだ!」
「で、あろうな」
 不意に聞こえた声に振り向く。
 彼の背後に立っていたのは、真紅のロイヤルドレスの吸血妃──メアリー一世であった。気高き淑女しゅくじょは、けわしい面持おももちで戦いのきを見守り続ける。
貴女あなたから見ても、やはり一線をかくするのですか? メアリー?」
「次元が違い過ぎる」
 観察視を動かす事もなく、メアリーは淡々と答えた。
 その場に座り込むジョンは、斜め下よりメアリーを仰ぐ姿勢となっていた。そのアングルからうかがう彼女の目鼻立ちは荘厳そうごんに美しい。元〝イングランド女王〟の肩書きは伊達だてではない──ジョンは内心ないしん思った。彼女ならば〝吸血貴族ヴァンパイア・ロード〟という称号さえも、違和感無く受け入れられる……と。
「僕から見れば、貴女あなたやジル・ド・レ卿だって相当なものですが」
「恐縮だがかぶり過ぎだな……ジル・ド・レ卿は、ともかくとして」
「そうでしょうか?」
 認識不足の格下がらす甘さに、ようやくメアリーは一瞥いちべつを向けた。
「確かに、私の魔力底値は〈不死十字軍ノスフェラン・クロイツ〉の中でも高い方であろうな。だが、かすべき実戦技能が皆無かいむだ。カーミラ様と、カリナ殿──そして、ジル卿には、その両側面が不備ふび無くそなわわっている。いざ一対一の決闘とでもなれば、私など相手にならぬだろう」
 結論をべて、再び交戦へと見入みいる。
 重みを持て余したジョンも、彼女にならった。
「どう見ますか? 有利な方は……」
わからぬな。純粋に戦闘技能ならば、カリナ殿にがあるが……現状は正気をいている。普段の冷静な判断力を発揮できていない」
「それはさいわいだ。なら、カーミラ様が負けるはずがない」
「カーミラ様とて万全ばんぜんではないぞ」
「え?」
「重傷をしての応戦だ。先程、再生休眠を終えたばかりとはいえ、ダメージ完治には遠い」
「じゃあ、どちらも不利な条件を?」
「だから言っている……わからぬ、と」いだく不安を噛み殺して、メアリーはにが見解けんかいつむぐ。「付け入るとすれば、カリナ殿が平常心をいている事だが……あのような対応力を見せられてはな。どうやら戦闘に関しては、従来の技量が心髄しんずいからにじみ出るらしい」
「自我の損失に関係なく……ですか?」
「筋金入りの〈戦士〉という事だろう」
 わす言葉がき、二人はもくして見入みいった。
 ややあって、ジョンは異なる疑問をたずねる。
「あの……〈レマリア・・・・〉とは何ですか? いや、あるいは〝〟なのかもしれませんが」
「何? 何故、そなたが〈それ・・〉を?」
「先程、カリナ・ノヴェールが襲い来るさいくちにしました──『レマリアを殺したな?』と……それから『私のレマリアを返せ』とも」
「ふむ?」メアリーは居住区での一波乱ひとはらん想起そうきする。「生憎あいにくと、私も〈それ・・〉は判らぬ。名前だけは聞いた事があるが……」
 介入を制された事柄ではあるが、そもそも真相すらメアリーは把握していない。
 だが、カーミラは〈それ・・〉が〈何か・・〉を確信している。
 そして、あの時に少女盟主が秘めていた決意が、迎えるべく瞬間を迎えたのだ──と。


 カリナの瞑想めいそうは続く。
 かすかに霊気が流れた。
 瞬間は近い──そう確信した刹那せつな
「そこかよ!」
 振り向きざまに魔剣をぐ!
 奇襲に飛び掛かる双蛇そうじゃを、紅玉石ルビーやいばはじらした!
 後方頭上!
 そこからカーミラは現れた!
「カリナ・ノヴェール!」
「カーミラ・カルンスタイン!」
 愛用の武器をはじかれたカーミラが、強襲の勢い任せに近接態勢へと取り付く。
 茨鞭いばらむちつか紅剣こうけんつかが、一歩も引かずにつばり合った!
「カリナ・ノヴェール! いい加減に目をましなさい! 貴女あなたが追い求めているのは、永遠の白昼夢に過ぎないのよ!」
「何を意味不明な事をホザいている! 脳味噌でもったかよ!」
 ギリギリと攻めぎ合う押し比べ!
「かつて貴女あなたは言った──わたしがロンドンに見ているのは、自尊的な幻想だと! 結局は己の奉仕行為に酔った〝自己愛・・・〟だと!」
「言ったがどうしたよ! 事実は事実だろうが!」え返す中、カリナはハッと思い当たった。「そうか、だからか! その腹いせに、レマリアを殺したのか!」
「まだ不毛ふもうを続けるというの! カリナ・ノヴェール!」
 かなわぬ疎通そつう歯痒はがゆさをむ。
 哀れみと悲しさがせきを切り、カーミラは激情を叫んだ!
「ならば、ハッキリと言ってあげる! 最初から存在しないのよ! 貴女あなたの言う〈レマリア・・・・〉なんてね!」
「なっ?」
 一瞬、カリナが動揺どうようまった。
 想像すらしていなかった言葉だ。
 そして、彼女の根幹こんかんを破壊するほどの暴言ぼうげんだ。
 放心ほうしんひるんだすきが、ちから均衡きんこうくずし掛けた。
 カーミラには好機である!
 だが、それも一瞬──。
「言うに……事欠ことかいてぇぇぇーーーーっ!」
 カリナが憤怒ふんぬを爆発させた!
 激情がちからと転じ、拮抗きっこうしていた対立をはじばす!
「あう!」
 床へところすべるカーミラ!
 直接的な肉弾戦となれば、全開状態のカリナにまさるわけがない!
 すかさず半身はんみを立て直し、難敵なんてき身構みがまえる!
 痛みを感じている余裕などない!
 それほどの相手だ!
霧化きりかを!)
「させるかよ!」
 瞬間的に回避を意識したにも関わらず、すでにカリナが踏み込んで来ていた!
 捕食の如き瞬発力が赤いひらめきを突き出す!
「っあああああーーーー!」
 非情の凶牙きょうがが腹をつらぬいた!
 ジル・ド・レが負わせた致命箇所だ!
「妙だとは思ったが……キサマ、手傷てきずっていたな」
「っくう!」
「隠していても、かすかに血の匂い・・・・がするんだよ。私はキサマよりも鋭敏なんだ。普段から絶食・・しているからな」
「やっ……ぱり、あの〝柘榴ザクロ〟は……そういう事なのね」
 苦悶くもんこらえながら、白の吸血姫きゅうけつきが指摘する。
「古代ギリシアの神話に於いて、柘榴ザクロは〈冥府の果実〉として伝わる。貴女あなたは、それを代用品とした──かてである吸血行為のね!」
「ああ、そうさ。レマリアと──あの子と共に生きるために、私は吸血行為を捨てる必要があった。己の生命と魔力を維持するために、新たな糧を模索したのさ。常若の国の〈妖精の林檎〉や日本神話の〈黄泉戸喰よもつへくい〉、人間共が創り出した〈人工血液〉──あらゆる神話や科学産物を模索もさくし続けた。だが、どれもこれもかてに代わる効用は無い。そうした模索もさくの中で辿たどり着いたのが〈柘榴ザクロ〉だ!」
 カーミラは言葉にふくまれていた重みをむ──此処にもいた……人間との理想的共存を模索もさくする〈吸血鬼〉が!
 しくも、それは自分の姉妹──ジェラルダインの血統・・・・・・・・・・であった。
 原初の血が、そうさせる。
 哀しき呪縛じゅばくが、同じ宿命さだめす。
 それでも、自分とカリナには決定的な差・・・・・があった。
 それを思うと笑わずにはいられない。
 どこまでも哀れみをびた笑いであった。
「フフ……フフフ」
「何だ? 何が可笑おかしい!」
「だって、可笑おかしいわ……可笑おかしくて、滑稽こっけいで、哀れだもの。存在しない存在を溺愛するなんてね・・・・・・・・・・・・・・・・!」
「キサマァァァアアーーーーッ!」
 逆上がちからを込める!
 それに呼応するが如く、あかやいばが輝きをび始めた!
「クッ……ァァァアアアアア!」
 こらえきれず絶叫にもだえるカーミラ!
 彼女の中でカリナ・・・が暴れ狂っていた!
「吸え! 吸い尽くせ〈ジェラルダインの牙〉! すべてをかてと喰らい尽くせ!」
 深い憎悪が、けしかける!
 ますます光を輝かせる魔剣──と、その輝きはほどなくして鎮静化ちんせいかしていった。
「何だ? 何故止まった〈ジェラルダインの牙〉よ!」
「ハァハァ……フ……フフフ」九死に一生を得たにえが、脂汗あぶらあせながらにふくみ笑う。「……どうやら〝ジェラルダイン〟は、わたしの考え方に味方したみたい」
「な……何だと?」
「魔剣の中で邂逅かいこうして以降、演繹えんえきし続けたわ。何故〝ジェラルダイン〟が魔剣内に存在していたのか──何故、貴女あなたが〝ジェラルダイン〟のむ魔剣を所有しているのか」
「な……何だ? 何を言っている!」
「この魔剣は〝ジェラルダイン〟そのもの──おそらく〝魂の転生体〟か、あるいは〝残留思念の具象化ぐしょうか〟なのよ。そして、そんな禍々まがまがしい代物しろものを愛剣としている以上、貴女あなた自身も無関係ではない」
「だから、何を……!」
「わたし達は共に〈ジェラルダインの血統・・・・・・・・・・〉という事──因果的な〝姉妹・・〟という事よ! カリナ・ノヴェール!」
 驚愕すべき指摘してきに、黒の吸血姫きゅうけつきが固まる。
 確かに自身のちは何一なにひとつ知らない。
 さりとも、あまりに予想外の指摘してきであった。
「た……戯言たわごとを言うな! 何を根拠こんきょに!」
「だからこそ、貴女あなたは〈レマリア・・・・〉に異常いじょう固執こしつする。かつて、わたしが〝ローラ・・・〟を愛したように──元凶げんきょうたるジェラルダインが〝クリスタベル・・・・・・〟という名の少女にがれたように──わたし達〈ジェラルダインの血統〉は、自身の愛を注げる対象を強く求めるさがなのよ。無償むしょうの愛をかたむける存在を求め続けるの。貴女あなたにとっては〈レマリア・・・・〉が、そうだったようにね。それは無限むげん虚無きょむからだっしたいがゆえかもしれない。孤独に対する精神的自衛じえいかもしれない。けれど、貴女あなたの悲劇は〝自らが創り出した幻影・・・・・・・・・・〟に依存いぞんしてしまった事。それは、とても哀しい事ではなくて?」
「幻影……だと!」
 またも逆鱗げきりんへとれられ、憎悪に歯噛はがみする!
「私のレマリアが……あの子・・・が幻影だと言うか!」
貴女あなたが来訪して今日こんにちまで、城内に〈レマリア〉を見た者なんて一人もいないのよ」
「ふざけるな! 現にキサマは──」
「──見てないわ」
 がんとした目力めぢからに、カリナは言葉をむ。
 いいや、コイツは見ていたはずだ。
 初めて顔合わせをした時も、まじまじと外套マントの内を──いや待て、まじまじと〈〉を見た?
 あの時の怪訝けげんそうな表情は何だ?
 直後の意味深いみしん一考いっこうは?
 まじまじと・・・・・何も存在しない外套・・・・・・・・・へと見入ったのではないか・・・・・・・・・・・・
 私の奇行・・を……。
「わたしだけじゃなくてよ。城内の者は誰一人だれひとりとして〈レマリア〉なんて見ていない」
「……黙れ」
「メアリーも、エリザベートも、ジル・ド・レ卿も……リック親子でさえもね!」
「黙れと言っている!」
 思い返せば、レマリアへの対応を見せるのは、他ならぬカーミラだけ・・・・・・だったのではないか?
 メアリー一世も、リックも、その場にいるはずの女児には無関心だった……無関心過ぎた・・・・・・
「そもそも思い出して御覧ごらんなさい! 貴女あなた自身〝一人の瞬間・・・・・〟が、多々あったのではなくて?」
 ジル・ド・レと対峙した時、あの子は何処にいた?
 居住区でのゾンビ退治から戻った時、カーミラにうながされるまで何処にいた?
 リックの母親と対面した時には?
 自分が揺らぐ。
 だが、ようやくカリナは反論のたね見出みいだした。
「いいや、サリーだ……サリーがいる! サリーは、私とレマリアを見続けてきた!」
 一縷いちるの希望にすがるような思いであった。
 しかし、無情なる現実は、それさえも否定ひていする。
「……優しいのよ、彼女は。だからこそ、貴女あなたへとあてがった」
「なっ?」
「彼女の半生はんせいは聞きおよんでいるでしょう? おそらく貴女あなたの母性を、自分自身と重ね合わせた……だからこそ、口裏を合わせていたに過ぎないわ。貴女あなたを──貴女あなたの〝〟を守ろうと」
 サリーのわけ想起そうきした──「なにせレマリア様は、おとなしゅうて、おとなしゅうて」
 いまにして思えば、あれは〝見えていない・・・・・・事〟へのつくろいだったのではないか?
「これで分かったでしょう?」
 突きつけるカーミラに反論ができない。
 それでもカリナは虚脱きょだつつぶやく。
「レマリアは……いるんだ。いまでも私を待っている」
闇暦あんれき年号ねんごうになってから、三〇年間……何故〈レマリア・・・・〉は〝成長〟しなかったの?」
「──っ!」
「悪夢から解放される瞬間ときが来たのよ! カリナ・ノヴェール!」
「まだ……言うかよぉぉぉーーーー!」
 役立たずとなった愛剣を放り捨て、こぶしで殴り掛かった!
 薄々と認め始めた真実から目をらすべく……。
 おのれ保身ほしんにしがみつくべく…………。
「レマリアが……アイツが、いないだと! 存在しないだと! よくも言える! あの子と私が過ごした日々も知らずに! よくも!」
 無抵抗な仰向あおむけを、カリナは容赦なく殴りつけた!
「アイツはな、ととのった環境でないと寝れないんだ! 川魚かわざかなは食わない! 生臭なまぐささがイヤなんだとよ! 野菜嫌いを克服させるために、柘榴ザクロジュースに混ぜ忍ばせた事もある! それでも見抜いて飲まなかった! 鼻がくヤツだよ! まったく手が焼ける!」
 き立つ感情のすべてをこぶしに乗せる!
「機嫌がいい時は、うろ覚えの『オーバー・ザ・レインボー』を口ずさんだ! 舌足らずでな! 好奇心が強過ぎるから、片時も目が離せない! ムカデを手掴みにしそうになった時は、慌てて引き離したものさ!」
 こぶしを振る!
 振り抜く!
 振るい続ける!
 カーミラは殴打おうだされるままに金糸きんしを乱すも、絶対的な勝者であった。
 認め始めている──そう思えばこそ、この痛みは〝痛み〟ではない。
 これは〝カリナの痛み・・・・・・〟だ。
 いとしいカリナの……。
「いつも寝顔をでてやった! そうすると夢の中で安心するんだ! 私にんだ花をくれた事もある! 雑草だったがな! まだまだ思い出は、たくさんあるぞ! これだけ聞いても、まだ存在しないなどと言えるか! どうだ!」
 こぶしに込められるちからが、徐々じょじょに抜けていくのが分かった。
 次第しだいに勢いも失速しっそくする。
 やがて完全にしずまった暴力は、相手の胸鞍むなぐらつかんでうずくまった。
「……どうなんだ……なんとか……なんとか言えよ!」
 むせぶようにしぼり出した声は、完全によりどころ見失みうしなっていた。
「カリナ・ノヴェール……」
 カーミラには、ただ抱きしめるしかすべがない。
 み殺す嗚咽おえつに震える頭を優しき細指ほそゆびなだめる。
 まるで子供をあやすかのように……。
 反目はんもくの決着は覚悟していた以上にこころいたかった。
 と、不意に聞き慣れた下品な濁声だみごえ二人ふたりあざける!
「ィェッヘッヘッヘッ……吸血姫きゅうけつき同士のキャットファイトたぁ、イイモンを見せてもらったぜ。アンタ等〝百合ゆり〟だったのかよ? ィェッヘッヘッヘッ……」
 耳にした途端とたん、カリナの内で再燃さいねんする希望きぼう
「ゲデか!」
 その姿を周囲に捜した!
 自分と傍観者ぼうかんしゃ達との間に黒いもやが集結し始める。
 それは次第しだいひとかたちした。
 普段なら見たくもない腰巾着こしぎんちゃくだ。
「よぉ、お嬢……こりゃまたご機嫌そうだな? ィェッヘッヘッ」
 死神は山高帽子をつまんだ会釈えしゃくを向けると、葉巻はまき酒瓶さかびんたしなひたる。
 相変わらずの太々ふてぶてしさだ。
 だが現状では、どうでもいい。
 カリナはうとむべき下衆ゲスへとあゆみ、普段の気丈きじょうさで確固かっこたる助言じょげんめいじた。
「ちょうどいい! キサマ、証言しろ! レマリアは実在する・・・・──とな!」
「なんでぇ? おチビちゃん、いなくなったのか?」
 飄々ひょうひょうと露骨に驚いて見せる。
 いつも通りの茶化ちゃかしぶり──けれども、カリナは安堵すら覚えた。叩き落とされた非情な指摘から、ようやく現実へとかえれる足掛あしがかりだ。
「それをいい事に、コイツ等は『レマリアが実在しない』などと言いやがる!」
「そりゃ無慈悲だねぇ?」
「キサマは知っているはずだ! レマリアは幻想なんかじゃない・・・・・・・・・と! 証言してやれ! 実在する・・・・と!」
「ああ、そういう事ね。了解了解」
 カーミラは初めて会った卑俗ひぞくめつける。
(何処の誰かは知らないけれど、余計な事を……せっかくカリナが現実を受け入れ始めたというのに)
 そうしたうとみも、生来せいらいの嫌われ者は承知だった。優越に吸血令嬢を一瞥いちべつするのも心地いい。
 ゲデは葉巻はまきを深くかすと、向けられた敵意に酔う。
「さあ、真実を言ってやれ! ゲデ!」
「あいよ」
 意気を甦らせたカリナがいた。
 ゲデは物臭ものぐさそうに従い、大きく口角こうかくゆがませる。
 そして、ヌッとカリナへ顔を近付けて、こう言うのだ。
「レマリアだぁ? そんなヤツァ、いねぇ・・・よ」
「なっ?」
 思いも掛けぬ残酷な裏切り!
 呆然ぼうぜんと立ち尽くすカリナが見たのは、普段以上にいやしい喜悦面きえつづらであった。
 予想外の衝撃に絶句したのは、彼女だけではない。カーミラも、メアリーも、ジョンも……あまりに冷酷なゲデの対応に言葉を失っていた。思わせぶりな素振そぶりで希望をいだかせ、奈落ならくへと叩き落とす──あまりななぶり方である。
 やるせないいきどおりが、外道げどうへの怒りと転化する。
 が、集中する憎悪さえも、ゲデには享楽きょうらくに過ぎない。
「まったく面倒だったんだぜぇ? アンタに合わせた道化どうけ芝居は。ま、幻影とはいえ〈意識の結晶〉だからな、本質は〈魂〉と似たよなモンだ。おかげで、オレの幻視げんしで見る事は出来たがな……ィェッヘッヘッ」
「嘘を……嘘を言うな!」しぼり出した否定ひていは、わなわなと震えていた。「現にキサマは、レマリアと会話しているではないか! その品性の無さに嫌われていたのを忘れたか!」
「だからよぉ、そいつは〝お嬢の潜在意識・・・・〟ってヤツだ。アンタ自身の感情を、ガキの幻に投影行動させていたに過ぎねぇよ。ガキなら、こう言動するだろう……ってな」
「な……何?」
「この国に着いて早々そうそうにデッドがむらがったのもよ、アンタ自身・・・・・わめいて呼び寄せたのさ。ガキの幻影を現実的リアルに体感したくってな。傍目はためにゃ狂っイカれてたぜ……ィェッヘッヘッ」
「う……そだ」
「ィェッヘッヘッ……ま、どちらにせよオレ様がエラく嫌われてるのは間違いねぇがな」かす紫煙しえんに優越を乗せる。「で、どうだったよ? 自己満足の母親ごっこは? アンタの〈レマリア〉は、いい子ちゃんだったかい? ィェッヘッヘッ」
 最早もはやあざけりすら耳に入らない。
 ただうつろな拒絶だけがつぶやれた。
「う……嘘だ」
「嘘じゃねぇよ。ぜーんぶ、アンタの妄想だ」
「嘘だ……嘘だ!」
 一心不乱いっしんふらんに首を振る。
 直視させられた現実に怯え、かたくなにこばむかのように。
 目に見えぬ悪魔が小娘の心を鷲掴わしづかみにしていた。
 非力な抵抗を容赦なくにぎつぶさんと……。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
「オイオイ、お嬢ともあろう者が。往生際おうじょうぎわが悪ィねぇ」
「嘘だァァァァーーーーーーッ!」
「ありゃりゃ、もう壊れてやんの。チッ、案外思ったよりもヤワ・・だったな」
 孤高は崩れた。
 頭を抱えて慟哭どうこくに沈む姿は、凡百ぼんひゃくな存在のひとつに過ぎない。
「つまらねぇ……こんなオチのために付きまとってたワケじゃねぇんだぜ? オラ、かえって来いよ? お嬢には、もっともっと楽しい展開を見せてもらわねぇとな。ィェッヘッヘッィェッヘッヘッィェッヘッヘッヘッヘッ──ィェッ?」
 遠慮なく嘲笑あざわら下衆ゲスの首がぶ!
 カーミラ・カルンスタインの茨鞭いばらむちであった!
 傷をして立ち上がった麗姿が、静かなる怒りをはらむ!
「ゲデとやら、そこまでにしておくのね」
 首無し紳士は転げ落ちた一部を探り拾い、有るべき箇所かしょえ直した。そのさま滑稽こっけいながらもグロテスクだ。
「オイオイ、カルンスタイン令嬢よォ? オレァ、アンタの手助けをしたようなもんだぜ? 聞き分けないワガママ娘に、物の分別ふんべつを教えただけさ……ィェッヘッヘッ」
くちつつしみなさい。わたしと貴方あなたでは、カリナへ向ける想い・・が違うわ。これ以上、まだ彼女を苦しめるというのならば──」
「ハァ? どうするってのよ?」
「──その薄汚うすぎたなくちから全身をきにしてくれる! 二度と再生が叶わぬほど完全消滅させてやるから、そう思え! わたしは〈〉ほどアマくはないぞ!」
 誰も見た事のない〈〉としての側面そくめん露呈ろていした!
 爛々らんらんと吊り上がった目に宿るのは、氷の如き殺意!
 その鬼気ききは圧倒的であった!
 彼女を中心として渦巻うずまく黒き台流たいりゅうは、カリナとの反目はんもくで見せた魔力の解放である!
 初めて見る主君の苛烈かれつさには、メアリー達ですら畏怖いふを覚えずにいられない。
 カーミラ自身にしても、ひそむ残虐性をあらわにしたのは数百年ぶりだ。
「チッ……へいへい、承知しましたよ」
 ゲデは忌々いまいましそうに舌を鳴らした。
 肌で感じる魔力の底深そこぶかさは、さすがにカリナと同格である。
 ややあってみずからを鎮めたカーミラは、虚空を仰いで慟哭する放心を慈しみに抱きしめた。
「レマリアは……私の〈レマリア〉は……」視界がにじむ。れる声が涙をびる。「……レマリアが……いない?」
「御聞きなさい、カリナ・ノヴェール。貴女あなたの行為は、祖先の呪血じゅけつあゆませた宿命さだめ──わたし達〈ジェラルダインの娘〉が踏襲とうしゅうするさがなのよ」
「ジェラルダインの……娘?」
 うつろに鸚鵡おうむがえしをこぼす。
「ええ、そうよ。わたしも貴女あなたも、原初吸血姫デモン・ヴァンパイア〈ジェラルダイン〉の血統けっとうなの。貴女あなたとわたしが不確ふたしかな共感を見出みいだし、さらには魔剣〈ジェラルダインの牙〉をしたがえる事ができたのが証明よ」
 カーミラは優しくさとし続ける。
 きっとおもいは届く……清水しみずが石へとるように。
貴女あなただけじゃないのよ、カリナ・ノヴェール。わたし達は、みな〈孤独〉なの。誰かを愛するのは、誰かに愛されたいから。けれど、叶わないのよ。不老不死を宿した瞬間から、常命じょうみょうとは相入あいいれないの。それでも、愛し続けるの。それが〈人間・・〉としてのさがだから。例え〈不死の怪物〉だとしても……〈吸血鬼〉だとしても、わたし達は根幹こんかん的に〈人間・・〉なのよ。だからこそ足掻あがく。ぬくもりを求め続ける。気高けだかくあろうともすれば、逆に慢心まんしん悪徳あくとくにも溺れるの。それもこれもが〈人間・・〉だからよ。心宿こころやどさない〈デッド〉や〈ゾンビ〉とは違うわ」
「人……間……?」
「それは夢幻むげん虚無きょむからだっしたいがゆえかもしれない。孤独に対する自衛かもしれない。けれど、貴女あなたの悲劇は〈自らが創り出した幻影〉に依存いぞんしてしまった事。それは、とても哀しい事ではなくて?」
「私には……私には何も無い。最早もはや、何も……」
「何も無いわけないでしょう!」
 此処が正念場しょうねんばだ!
 いまのカリナは境界線の手前にいる!
 かせてはならない!
「レマリアが……レマリアが、いないんだ」
「わたしがいる! わたしが貴女あなたの〝レマリア・・・・〟となり、貴女あなたがわたしの〝ローラ・・・〟となるの! 世界中が敵になっても、わたしは貴女あなたを愛し続けるわ!」
「レマ……リア……」
 愛する名をくちにするだけで熱いものがこぼれ落ちた。充足じゅうそくつちかった歳月が、すべしずくと消えていく。
「しっかりなさい! いつもの貴女あなたは、どうしたの! 誇り高く、不敵で、気丈で、何事にもびない──そんな孤高の吸血姫きゅうけつきは何処へ行ったの!」
 もろく壊れそうな心を強く抱きしめる!
「……レマ……リア……」
 感触は感じている──状況も把握はあくしている────それでも、カリナの心はかえって来なかった。
「お願いよ、カリナ……わたしと共に生きて…………」
「う……うう……」
 顔をうずめた孤高は声を殺して泣きれた。白い胸が熱く湿しめる。
 カーミラは慈母じぼの如く、そのすべてをつつみ込む。
 されど──瓦解がかいしそうな自我──残酷な現実にもてあそばれた傷心しょうしん──それは、カーミラにもつなめられるかはさだかにないものであった。
 その時、聞き覚えのある老声ろうせいがカリナの耳に届く。
「カリナ様ーーーーっ!」
 この場に居るはずのない声だ。
 油断ならない魔城にて唯一ゆいいつこころゆるした声だ。
 虚脱きょだつの瞳が、その存在を見定みさだめる。
「サ……リー?」
 広間の一角──重傷をした老婆が駆けつけていた。
「カリナ様! ああ、おいたわしや!」
 よろつく足取りに駆け寄る。
 荒い息遣いきづかいからカリナは察した。
 サリーは四肢ししこそ復活していたが、ダメージが完治したわけではない。むしろ、逆だ。
 自分の腕へと崩れ抱かれる老婆を困惑に見つめる。
「サリー……何故?」
「お許し下さい! レマリア様を……カリナ様の大切なレマリア様を守れませんでした! されど、生きておりますとも……きっと! このサリーが保証致します!」
 老婆がなだめようとすればするほど、少女の心は痛みを増した。
 だが、その痛みが本来の冷静さを取り戻させる。
 現実を直視させる鎧・・・・・・・・・へと変わっていく。
「サリー……もう、いい……もう、いいんだ」
「いいえ、よくありません! レマリア様は生きておられる! カリナ様のレマリア様は生きておられる! ですから、決して夜叉やしゃ羅殺らせつに成り下がってはなりませんぞ! 左様さような事になっては、レマリア様が泣かれます! このサリーも悲しゅうてなりません! ぐっ……うう……」胸を押さえて苦悶くもんこらえる妖婆ようばは、ようやくおとずれた最期さいごを心静かに自覚した。「はぁ……はぁ……カリナ様は、お優しい方。本当に心優しい方……サリーは……知って……おり……──」
 老体ろうたいから静かにちからが抜けた。
「なんだ、それは……私が心優しい……だと? とんだ勘違いだ……迷惑な誤解だぞ。私はひねくものなんだ。嫌われ者の疫病神やくびょうがみなんだよ。おい、起きろ。オマエには懇々こんこんと説明してやらねばならん。起きろよ、サリー……」
 呼び起こそうと揺らし続ける。
 されど最早もはや、答える事はない。
 眠りから覚める事はない。
「起きろと言っている! サリー!」
 やがて、腕の中から黒いちりが消えていった。
 いだく重みがへとかえっていく。
「サリィィィイイーーーーーーッ!」
 老塵ろうじんが拡散する虚空こくうあおぎ、少女は悲嘆ひたんを叫びめた。


 悲しみを噛み締めた瞬間から、どれくらいの時間がっただろうか──。
 数分か?
 数時間か?
 あるいは、数秒だろうか?
 存在すら消えた亡骸なきがらいだき続け、カリナは深く沈んでいた。項垂うなだれた表情をのぞうかがう事は叶わない。
 その場に居る誰もが彼女の胸中きょうちゅうさっしてたたずむ──品性下劣ひんせいげれつなゲデをのぞいて。
「ケッ……御涙おなみだ頂戴ちょうだい安物劇やすものげきなんざ、阿呆アホらしくて笑えもしねぇぜ」
 蚊帳かやそとの死神は、露骨ろこつ興醒きょうざめをあましていた。
「……カリナ」
 神妙しんみょう面持おももちで、カーミラが呼び掛ける。
 続ける言葉など見つからない。
 けれど、このままにしてはおけなかった。
 身命しんめいなげうったサリーのためにも……。
「カーミラか……らぬ気遣きづかいをするなよ」
「え?」
 意表を突かれる。
 カリナから返ってきた抑揚よくようは、予想に反して泰然たいぜんとしていた。
「……上から目線の同情などしゃくさわるだけだからな」
 憎まれぐちに上げた表情からは狂気が消えていた。
 もろさが消えていた。
 そこに存在するのは、気高きひねくものだ。
「大丈夫……なの?」
「それがしゃくさわると言っている」
 レマリアを失った。
 サリーを失った。
 だが不思議な事に、彼女の心は以前より強くった。
 静かに呪縛じゅばくから立ち上がると、カリナは冷ややかな蔑視べっしに言い放つ。
「おい、下衆ゲス野郎やろう
「か~? 正気しょうきに戻った途端とたん、コレかよ」
 久々となる無碍むげな対応に、山高帽子をつぶしてなげいた。
「オマエ、霊視ができるんだったな」
「そりゃあ、オレ様の固有能力だからな」
「ならば、私の素性すじょう経緯いきさつ見通みとおせるはずだな」
「それを知った上でまとってるんだよ」
「……だろうさ」
 自嘲じちょう侮蔑ぶべつひとしく浮かべる。
 ようやくさとった──何故、この異教の死神・・・・・が、固執こしゅう的にまとうのか……を。
 根深ねぶかは悲劇の連鎖れんさを呼ぶ。コイツにとっては居心地いごこちのいい享楽場リゾートだ。
 いいだろう。
 それさえも受け入れ、私は生きる──生き続けて・・・・・やる。
「ま、お嬢の頼みとありゃあ聞いてもいいがよ。その前に少しばかり付き合ってもらうぜ? こっちも時間が無ぇんでな」
「時間?」
 不機嫌ふきげん怪訝けげんを混ぜてにらみ返す。
「ああ、アンタに会いたがってるヤツ・・・・・・・・・がいるんだよ」

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