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『プラネットフォークス・改』 ASIAN KUNG-FU GENERATION

アジカン横アリ公演、愛に溢れた最高のライブだった。

これだけ呟けば十分とすら思ったが、大傑作のアルバム『プラネットフォークス』を携えたリリースツアー全体を通して、進化してきたこの作品とアジカンの姿について言語化しておきたい。

これまでは、好きなアーティストと言えど1ツアーでは1公演に行ければ良いという考えだった。ところが今回のツアーで、人生で初めて1ツアー中に2公演へ参加してきた。ライブに行ってみて蓋を開けると、ゲストの存在はもちろんのこと、2022年を経てアジカンのフェーズが変化してきたこともまた強く実感できた。

5月29日の埼玉県三郷市文化会館(前半戦)、10月27日の横浜アリーナ(後半戦)を踏まえて思ったことを書いてみようと思う。
※ サムネイルの写真は、前半戦のもの

ミディアムテンポでの幕開け

本ツアーが始まる直前にMVが公開された「De Arriba」はアルバム曲であり先行配信も無かったが、本ツアーを象徴する非常に重要な曲であったように思う。個人的にも大好きな曲だが、初めて1曲目に演奏されたときはかなり驚いた。もはやワンマンツアーだけでなく夏フェスでも1曲目に演奏していたらしく、それはさすがに置いてけぼりなリスナーも増えるのではと思ったが、、慣れてしまえば当然のオープニングに感じた。

コーラスで盛り上がりを魅せる訳ではない、張り詰めた緊張をブリッジで解き放つ構成がじわじわと響いてくる。

その他のセットリストを見ても、「De Arriba」に始まるミディアムテンポの楽曲が特に光ったツアーだった。「センスレス」への流れも、もはや定番。

特に生で聴く醍醐味が色濃く出ていたのは「ダイアローグ」だった。潔のどっしりと構えるドラムから始まった後、曲の序盤で徐々にビートがノッてくる感覚はライブじゃないと味わえないなと思う。この曲も、コーラスでドカンと盛り上がるわけではなく、展開が進むにつれて体が揺れてくる感覚が心地良い。

ビートが整列する感覚は、前半戦でのみ披露された「スローダウン」の終盤でも現れる。この曲は前半戦屈指のハイライトだった、まさか演奏してくれるとは。音源では裏声で歌ってる箇所を地声で歌うゴッチに胸が熱くなった。「ダイアローグ」を最初に聴いたときにこの曲に似てると思った感覚は、意外と合っていたかもしれない。

今回のツアーはメンバー横並びの配列だったからか、いつもよりドラムスの潔が目立つように感じられた。

「雨音」「ラストダンスは悲しみを乗せて」のようなハネ系ビートは特に山ちゃんと潔のセンスが光る楽曲だなと感じたし、「無限グライダー」の力強いド迫力シンバルも印象的だった。

"骨"味の強い前半戦

アジカンの楽曲を物凄く雑に分類するとしたら、"骨"と"芋"に二分できる。それぞれの言葉の定義を言語化するのは難しいが、サウンドや空気感がシリアスで、自分の「内」と「外」の境界を明確に線引きした曲、時には社会的アティテュードも押し出されたような楽曲が"骨"。一方で、朗らかなサウンドで叙情的・青春的な歌詞を歌うような楽曲が"芋"。個人的にはこのように認識している。

勿論1つの曲が様々な側面を持つこともあるし、全ての曲を二分できるわけではない。ただツアーを通して、セットリストの差異はそこまで大きくないものの、前半戦と後半戦で空気感がかなり異なって聴こえたので、この観点を持ち出してみた。

理系っぽく淡々とセットリストの差分を洗い出すと、アンコールを除いて前半戦でのみ演奏した楽曲は「トラべログ」「惑星」「スローダウン」「Standard / スタンダード」の4曲。

上記リンクの "HONE" の中身を見ても分かるが、4thアルバム『ワールド ワールド ワールド』収録の楽曲は"骨"に分類される曲が多い。今回披露された2曲はと言うと、アルバムの中でも比較的キャッチ―でライブ向きな選曲ではある。「惑星」はライブ人気の高い曲だし、『プラネットフォークス』というタイトルにもかかっているのかなと思っていた。

ただ、「Re:Re:」ではなく「トラべログ」を選んでいるところには意義があるなと感じる。それぞれのイントロと間奏がリンクしていて双子のような2曲でありながら、演奏の機会が多く知名度も高いのは圧倒的に「Re:Re」の方だからだ。

「トラべログ」は大好きな曲なので、好きなリリックも抜粋しておきたい。

嗚呼
此処に在ること
此処で見ること
そのすべては誰のもの

サウンドは明るいバンドアンサンブルであり、曲の配置自体は自然な流れだが、こうした世界や社会と向き合おうとする意識が前半戦の選曲に表れているのかなと感じた。「De Arriba」や「Gimme Hope」の歌詞に見られるような、シビアでシニカルだけど世界から視線を逸らさないことの希望を歌った曲という観点で、一貫性が見られた気がした。

「Standard / スタンダード」は近年のライブでは欠かさない曲だが、この曲もまた、"声を上げること"に端を発した社会的アティテュードの重要性を歌った曲である。ライブ終盤のエモーショナルな空気にピッタリだが、後半戦では演奏されなかった。

"芋"へ向かう後半戦

前半戦と後半戦の間で、社会情勢も大きく変化した。痛ましく悲しい事件も数々起こって、メンバーの心境の変化も大きかったと思う。

ただ、楽しいことに目を向けるなら、アジカンの状況の決定的な変化と言えばやはりシングル『出町柳パラレルユニバース』のリリースだろう。

次のアルバムとして予定されている "完全版『サーフ ブンガク カマクラ』"に向けた先行シングルという側面もありながら、『四畳半タイムマシンブルース』の主題歌としての印象も強い作品であった。

表題曲「出町柳パラレルユニバース」を生で初めて聴いたが、リリースから1ヶ月しか経っていないにもかかわらずリスナーへの浸透度が強く、既にライブ定番曲かのような貫禄が凄まじかった。

そこから繋がるライブ終盤の「ラルラルラ三部作」。

「荒野を歩け」はリリースから今までライブではほぼ皆勤賞の曲だが、今回横浜アリーナで聴いたこの曲は本当に良かった。今まで聴いた中で一番と言えるほど。

当日はアリーナ席で参加したため、実質二階席くらいの位置から会場全体を見渡せたのだが、この曲の「ラルラルラ」で、会場中の喜びや幸福が一気に昇華されたような気がした。

続く「迷子犬と雨のビート」も三部作なので大方の予想通り。思えばこの曲もシャッフルの独特なビートで、リリース当初はかなり意欲的で斬新なチャレンジだなと感じた記憶があるが、ここまでアジカンの代表曲として根付くものだから不思議だ。

ライブ冒頭のMCでゴッチは「朗らかに歌います」と口にしていた。

この言葉がとにかく印象に残っていて、後半戦はこの想いをもとに作られたセットリストなのかなと感じた。

例によってセットリストの差分を見ると、後半戦でのみ披露されたのは「Re:Re:」「電波塔」「出町柳パラレルユニバース」「迷子犬と雨のビート」の4曲。ネタバレなしで後半戦に臨めたので、「え、電波塔!?」というのが純粋な感想だった。これらの曲は分類するなら明らかに"芋"であり、前半戦と空気が違うと感じた要因だった。

これは、「朗らかに歌います」というゴッチの言葉や、社会的なリリックを排除して "君らしく踊ること" の大切さを歌った「出町柳パラレルユニバース」のリリースを踏まえると、必然の流れなのかなと感じた。

ライブに集まっているリスナーも、ステージに立っているメンバーも、ステージを作り上げたスタッフも、お互いの私生活で何が起きたかなんて全く知る由も無いし、人となりも分からない。もっと言ってしまえば、社会課題に対する意識だって、支持している政党だって、違うだろう。

けれど、そんな生まれも育ちも何もかも違う人たちがたまたま同じ場に"居合わせて"、一分でも一秒でも、「良いな」というフィーリングを共有し合う。それこそが音楽を楽しむこと、ライブを楽しむことの真髄だと思う。

「途中のMCでみんなの人生は背負えないと言ったけど、それでもしんどくなったら俺たちのことを呼んでくれって曲です」と言って本編ラストに演奏された「解放区」は至高だった。

みんなで歌うことの愛おしさ

横浜アリーナ公演を取り上げるなら、ゲストの出演について語らずにはいられない。

前半戦から、ステージ上の"枠"は7つあった。メンバー4人とサポートメンバー2人で6つの枠は埋まるが上側真ん中の枠はずっと空いていて、いつかゲストが入るのだろうなと思っていたがその通りだった。

三船雅也(from ROTH BART BARON)との「You To You」、塩塚モエカ(from 羊文学)との「触れたい 確かめたい」はゲスト不在でも演奏されてはいたが、2人の存在によって大きく表情を変える曲だった。

両者ともアジカンの空気に溶け込むというよりは、その佇まいとボーカルと演奏で異質な存在感を放ち、バンドのエネルギーを何倍にも増幅させるような力を感じた。

更に特筆すべきは初めて生で一緒に歌う姿を観ることができた、「星の夜、ひかりの街」であった。

Rachel(from chelmico)、OMSB(from SIMI LAB)の二人もあらかじめアナウンスされていたゲストではあったが、曲が始まる前からステージ上にいるのではなく、曲の途中でふっと姿を現すシーンが最高にカッコよかった。

ラッパー二人を交えても、最終的にはアジカンのサウンドとして届く懐の深さと包容力はこれまでに見たことが無い新たな一面だ。

曲が終わってもRachelとOMSBはステージから去らない。そのまま三船雅也と塩塚モエカも再度ステージ上へ。

全員で歌う「Be Alright」に今のアジカンのすべてが詰まっているような気がした。

ゴッチは途中のMCで客席に向かって、「みんなのことは知らないけど、それでも愛おしいと思う」と口にしていた。ラストの「Be Alright」は、フィジカルな声は出せなくても会場のみんなで歌っている感覚があった。

曲の途中で幕が解放されたステージの裏から客席の端の端まで、"みんなで歌うこと"の愛おしさを感じたライブだった。

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