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松下幸之助と『経営の技法』#309

12/20 正しい闘争心を持つ

~正しい闘争心、競争精神のないところに、事業の成功、個人の向上は絶対に望めない。~

 わが社の遵奉すべき精神の中に”力闘向上”という一項がある。会社事業の伸展も、各人個々の成功も、この精神なくしては成り立たない。事業を経営することも、商売を営むことも、そのこと自体が真剣の戦いである以上、これを戦い抜く精神が旺盛でなかったならば、結局敗者たらざるをえないのである。ただし、その戦いたるや正々堂々でなくてはならぬ。他を陥れ、傷つけて己1人独占せんとする精神行動はもとより排すべきであり、どこまでも正しき闘争でなければならぬことはもちろんである。
 よい意味における闘争心、正しい意味における競争精神、これなきところ、事業の成功も個人の向上も絶対に望めない。この精神のない人は結局熱のない人であり、物事をして伸展せしむるに役立たない人である。
 幸いに松下電器の人々には、この精神が伝統的に旺盛であったことが、今日をなす大きな因であったと考える。されば今後といえども、諸君にこの正しき闘争心をどこまでももち続けて、日々の業務に処していただきたいと希望する次第である。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主から見た場合、経営者は投資先ですので、厳しい市場での競争に勝ち抜けることが必要です。
 そのための条件の1つとして、ここでは、「これを戦い抜く精神」「闘争心」「競争精神」にスポットが当てられています。
 すなわち、これがなければ「敗者」になってしまう、という意味で、必要不可欠な条件なのです。
 これに加え、この闘争心は、「正々堂々」であり、「他を陥れ、傷つけて己1人独占せんとする精神行動」ではダメだ、と言っています。卑怯な方法で勝っても、それは本当の勝利ではなく、しかも、自分自身の向上につながらず、長続きしない、ということでしょう。
 すなわち、持続的に利益を生み出し、成長を続ける経営をするためには、正々堂々と戦う闘争心が必要、ということになります。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 すなわち、このような松下幸之助氏の「正々堂々」とした「闘争心」を、どのように組織全体に共有させるのか、ということが、ここでの重要な問題になります。
 それは、やはり突き詰めると従業員全員の意識の問題であり、従業員全員がこの「正々堂々」とした「闘争心」を持つように呼びかけています。この意識に欠ける従業員は、「熱のない人」「役立たない人」であるだけでなく、自分自身として「個人の向上も絶対に望めない」のです。
 このように見ると、もちろん他にも、人事考課制度やキャリアプランの設計など、組織として取り組む様々な仕掛けがあるところですが、まずは個人の問題として、従業員の意識付けが重要、と考えているのです。

3.おわりに
 松下幸之助氏は、強力な競争信奉者です。資本主義経済の中でも、競争が特に好きで、それが個人だけでなく、社会や国家も豊かにする、と信じています。
 それは、決して甘いことではなく、自分自身を、①競争する「闘争心」を抱き続け、②「正々堂々」に律する、という二重の意味で、しんどいことです。ここが、松下幸之助氏のストイックさの根源と思われます。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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