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松下幸之助と『経営の技法』#358

2/7 主座を保つ

~責任の自覚をもたない個人の集まりは、非常に頼りない存在である。~

 今、仮にお互いが社長であるとしても、社長としての責任を自覚しなければ、その地位は保てないということですね。都合のいい時だけ自分は社長であるというのであってはならない。都合がよくても悪くても、終始一貫、社長としての意識に立っていなければいけない。部長であれば部長、課長であれば課長の意識に立っていないといけないと思います。そういう意味からすれば、お互いが1人の人間として生きる時には、それぞれの立場において個人としての主座というものがあるはずです。その主座というものをお互いにはっきりと握っていなければいけない。同時に個人としての責任というものを正しく自覚しなければならない。こういうことになると思うのです。そういうものをもたない個人というものは、非常に頼りない存在である。”烏合の衆”という言葉がありますが、そういう人々は、主座をもたない、自己意識というものをもたない人々であるという感じがするのです。
 ですから、個人としても、それぞれの立場において、主座を保つことが必要である。すなわち、それなりの責任自覚をもたなければならない。そうしてはじめて、個人の存在というものがはっきりしてくると思うのです。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資先です。しっかりと儲けてもらわなければ困りますが、投資家も、経営者の資質を見極めなければなりません。
 ここでは、経営者は経営者としての「責任を自覚」「意識」「自己意識」が必要であり、それによって経営者の地位が保たれる、と説明しています。組織のリーダーとして見た場合には、人を命令で使うだけでなくむしろ自分が責任を負って機会を与えることの方が、イメージとしてしっくりくる説明方法です。従業員にどんどん権限を与えるタイプの経営モデルを磨き上げてきた松下幸之助氏だからこそ、の言葉でしょう。
 主座を保つ、という言葉には、経営者に当てはめた場合、このような意味があるようです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 氏は、部長、課長それぞれの主座に言及した後、「個人としても」主座を保つことが必要、と話しています。会社組織として見た場合、従業員がそれぞれの立場で、責任を自覚し、自己意識を保つことが重要、ということになります。
 これも、言われた仕事さえやれば責任がない、という発想ではなく、それぞれの立場で主体的に問題意識を持って仕事に取り組むことを意味します。従業員の主体性を尊重し、ミスをマイナス評価する減点主義のような人事制度ではなく、それぞれの立場での自覚と責任ある言動を評価する企業風土をどのように作れば良いのか、経営者として考えなければならない課題です。

3.おわりに
 主座を保てない人間のことを、非常に頼りない、烏合の衆、と形容しています。責任感や自覚がない人は、無責任に言動が変わり、軸が保たれないので、「頼りない」ということになるのでしょう。現在の言葉で言えば「ブレる」人、ということでしょうか。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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