松下幸之助と『経営の技法』#283
11/24 共同生活を発展させる存在
~万物を活用して、お互いの共同生活を、無限に発展させるところに人間の本質がある。~
私自身の経営理念の根底にも、私なりの人間観というものがある。それは一言にしていえば、人間は万物の王者ともいうべき偉大にして崇高な存在だということである。
生成発展という自然の理法に従って、人間自らを生かし、また万物を活用しつつ、共同生活を限りなく発展させていくことができる。そういう天与の本質をもっているのが人間だと考えるのである。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)
1.内部統制(下の正三角形)の問題
まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
前日の松下幸之助氏のコメント(11/23の#283)は、「性善説」「性悪説」という観点からのコメントでした。松下幸之助氏が現実主義者であることや、氏の確立した経営モデル、人材活用の方法などから見ると、この2つのうちでは「性善説」に近い、という分析をしました。
ところが、前日のコメントの最後の部分で、「性善説」「性悪説」両方が正しいという考え方もある、という不思議な匂わせ方がされていました。
今日のコメントは、この部分に対する解説の始まりを示すものと言えそうです。
すなわち、「人間は万物の王者ともいうべき偉大にして崇高な存在」であり、「そういう天与の本質をもっている」存在、という表現です。これは、善悪どちらかというと「善」でしょうから、天与の本質として見ると、「性善説」なのです。
けれども、最初から人間のそのような特質が生かされるわけではない、というところが、ポイントと思われます。
すなわち、氏は「生成発展という自然の理法に従って、人間自らを生かし、」というプロセスを経て、人間の本質が生かされる、かのような説明をしています。
「性善説」にも、すぐにその「善」な本質を発揮できるような言い方をする場合もあれば、そのような「善」の本質は、すぐには出てこない、というような言い方をする場合もあり、実に幅広い概念です。本質は「善」と見れば、松下幸之助氏はまさに「性善説」論者ですが、すぐにそれが発揮されるわけではない、という点を重視すれば、少なくともその限りで人間は「悪」にもなるので(本質が出てこなかった場合)、厳密な意味で「性善説」とは言えなくなります。
つまり、会社経営者が上手に従業員を誘導しなければ、各従業員が生来的に有する「善」を発揮させることができずに終わってしまう、ということになるのです。
結局、前日のコメントの最後での不思議な匂わせ方は、このことを言いたかったのではないか、と思われます。従業員を、人間本来の「善」に育て上げる役割と責任が、経営者にあるのでしょうか。
2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の市場での行動原則が問題となってきます。これは、「性善説」「性悪説」の観点で見た場合、市場の参加者にはフェアプレーが求められており、規則でがんじがらめにするわけではありませんから、「性善説」が前提になっていると言えます。
けれども、松下幸之助氏の言うように、市場参加者を上手に育てなければ、各市場参加者が生来的に有する「善」を発揮させることができずに終わってしまいます。そうすると、ルールを守らなかったり、潜脱したりする市場参加者が増えてしまい、市場が本来の機能を発揮できなくなります。それでも市場の機能を維持しようとするのであれば、監視などのコストがかかり、安くて便利な市場というインフラが、本来の役割を果たせなくなっていってしまいます。
市場参加者を「善」に育てる方法として、松下幸之助氏がどのような方法をイメージしているのかは分かりませんが、放っておけば「善」になるとは限らないのが人間の本質だとすると、「善」を前提とする市場にとっても、対応を考えなければならない問題のはずなのです。
3.おわりに
動物たちにも、自然を生き抜く知恵や能力、経験がありますが、特定の生活圏内での生存に限られる点で、総合的な人間の能力の方を高く評価しているのでしょう。
一見すると、自然に対して人間は謙虚であるべきとする最近の風潮から見ると、逆の方向に向いているように思うかもしれません。しかし、ここで松下幸之助氏が説いているのは、自然も含めた万物を生かすことが可能である、という点です。自然も含めた万物に対して責任がある、という話につながる伏線のはずであり、そうであれば、最近の風潮と矛盾する発想ではありません。
どう思いますか?
※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。
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