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経営の技法 #48

5-10 小事は大事
 どの分野でも同じだが、ビジネスの世界にも、先駆者の偉大な功績や含蓄ある言葉が語り継がれている。内部統制(下の正三角形)、すなわちリスク管理は、経営そのものであり、チャレンジと表裏一体だから、ビジネスの世界での伝説や含蓄ある言葉は、リスク管理にとっても役に立つものが多い。

2つの会社組織論の図

1.概要
 ここでは、以下のような解説がされています。
 第1に、偉大な経営者の言葉には内部統制(下の正三角形)にとっても有意義なものがあることを、「小事は大事」という言葉を題材に検討する、と問題提起しています。
 第2に、「小事は大事」を説明する事例として、『経営学入門』では、銀行窓口で勘定が合わない場合、たとえそれが1円の誤差でしかなくても、全員で残業して徹底的に原因を明らかにする、という実務を挙げています。
 第3に、『経営学入門』がこの実務のことを合理的と評価する理由が、①ノウハウ、②人間の弱さ、③経営のメッセージである、と説明しています。
 第4に、内部統制(下の正三角形)の観点から見た場合も、この3つの理由が当てはまる、と説明しています。つまり、この実務は、リスク管理としても合理性がある、と評価されるのです。
 第5に、同様の言葉として、松下幸之助の「経営者の仕事は大きいことを考えることと小さなことを大切にすることだ」という言葉を紹介しています。

2.使用上の注意
 もちろん、経営が細かいことにドンドンこだわって、現場をがんじがらめに縛るべきである、というわけではありません。
 ここで見たような、銀行窓口での徹底した「帳尻合わせ」は、それを廃止した銀行もあるように、そのことによるコストや労力も馬鹿になりませんから、経営のこだわりに伴うマイナス面も考えなければなりません。
 それでも、経営のこだわりを現場に理解させるメリットがマイナス面を上回る場合には、こだわりの徹底も合理性がある、ということです。
 では、その合理性を誰が判断するのでしょうか。
 それは、経営者です。経営者が、会社組織の隅々に同じ価値観や感性を共有させる必要性と、その手段として「こだわり」の徹底の合理性を認めるかどうか、であり、経営者の力量そのものが問われる判断なのです。

3.おわりに
 私は、アマチュアオーケストラでバイオリンを弾いていたことがあります。クラシックの名曲を、年1回、地元の大きなコンサートホールで演奏するために、1年間、毎週集まって練習をし、一緒にお酒を飲む、そんな普通のアマチュアオーケストラです。一種の異業種交流会みたいで面白かったし、一所懸命演奏しているときは頭の中が真っ白になり、仕事のことや嫌なことを全く考えず、熱中できたことが面白かったし、集団をまとめ上げて演奏会をやり遂げる活動も勉強になりました。
 そこには、別の吹奏楽団にも所属し、吹奏楽もやっている金管奏者がいました。その金管奏者の言った言葉が忘れられません。
 その金管奏者は、「吹奏楽も好きだけど、オーケストラの方が、曲が良いから楽しいよね。」
 それは、弦楽器があって音の厚みがあるから、ということですか?と聞いてみました。
 「いや、それもあるかもしれないけど、吹奏楽は歴史が浅くて、本当の名曲がまだ少ないんだよね。」
 言われてみればそのとおりです。ベートーベンだのチャイコフスキーだの、有名な作曲家の有名な曲の陰に、同時代に活躍していた多数の作曲家による数えきれないほどの曲が存在するはずです。同時代の人たちにとっては有名な曲でも、その後の世代に聞かれなくなれば歴史から消えていきます。「時代を超える」というのは、それだけ沢山のろ過装置を通過してきた、ということであす。数百年も前の曲が今も演奏される確率は、一体どの程度の確率なのでしょうか。
 脱線しましたが、「金言」「名言」には、このような普遍的な含蓄が含まれるはずです。例えば、近江商人たちの有名な「三方良し」という格言も、様々な時代で評価され、忘れられずに生き残ってきた言葉です。
 そのような「金言」「名言」の中にも、単なる金儲けだけではない重要な含蓄が含まれているはずですので、内部統制(下の正三角形)の観点からも、噛みしめてみる価値があるのです。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月

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