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経営の技法 #56

6-6 契約書審査の工夫
 契約書審査では、多くの場合、申請部門に対して修正すべき個所の指摘やアドバイスが中心になるが、契約締結に至る過程まで検証し、デュープロセスが尽くされていることの記録を残すようにする方法もある。

2つの会社組織論の図

1.概要
 ここでは、以下のような解説がされています。
 第1に、一般的に良く見かける方法、すなわち、①事前に契約書をよく読み、②コメントをたくさん付けて、③担当部門からの修正依頼も詳細に記録に残す、という方法とは違う契約書審査の方法を紹介する、と切り出しています。
 第2に、①事前に契約書を読むのではなく、最初に契約担当者の話を聞く方法と、そのメリットを説明しています。
 第3に、②たくさんコメントを付けるのではなく、最低限のコメントしか付けない方法と、そのメリットを説明しています。
 第4に、③修正経過を詳細に残すのではなく、社内での検討や先方との交渉などのプロセスを詳細に残す方法と、そのメリットを説明しています。
 第5に、このような「現場担当者を褒める」方法を、山本五十六方式と命名しています。

2.「山本五十六方式」導入プロセス
 弁護士登録20年経って、私自身が会社の契約書を全てチェックすることになりました。
 契約書審査なんて、もっと若い人にやらせるものなのに、と少し馬鹿にしていたこともあり、ショックでしたが、部下もいない一人法務部なので仕方ありません。
 そのかわり、さすがに経験者は違う、と言わせるような方法を考えよう、と思ったのです。
 そこで、まず目を付けたのが効率性です。
 丁寧に全て契約書を読んでいたら、スピードが落ちて、数もこなせません。まずは話を聞いて、取引の全体像や重要なポイントを把握し、そのうえで契約書を読めばよい、と考えました。
 実際、この方法は契約書審査の効率をものすごく高めてくれました。

3.おわりに
 さらに、「そんなに言うならお前がやれ」と言われないように、各部門の担当者をたくさん褒めることにしました。せっかく起案しても、たくさん手を入れられれば、誰でも嫌になりますが、逆に、こんなに丁寧に仕事をしてくれている、こんな難しいリスクコントロールをやり遂げている、等と、契約書の背景事情まで含めて褒めるところを見つけて、契約書審査履歴に褒め言葉をたくさん書きました。
 すると、中には非常に喜んで、この審査履歴をコピーして上司に見せて良いですか?という者も現れました。
 さらに、冷静に考えてみれば、契約書作成までのプロセスの中で担当者を褒める点を見つけて記録にとどめていますので、適切にリスクコントロールされていることの記録が出来上がっています。
 このように、「やって見せ、言って聞かせてさせてみせ、褒めてやらねば人は動かず」という山本五十六の格言が形になっていったのです。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月



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