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松下幸之助と『経営の技法』#291

12/2 困っても困らない

~困難なときこそ、思いを新たにして、力強く自らの夢を開拓していきたい。~

 広い世間である。長い人生である。その世間、その人生には、困難なこと、難儀なこと、苦しいこと、辛いこと、いろいろとある。程度の差こそあれ誰にでもある。自分だけではない。そんな時に、どう考えるか、どう処置するか、それによって、その人の幸不幸、飛躍か後退かが決まるといえる。困ったことだ、どうしよう、どうしようもない、そう考え出せば、心がしだいに狭くなり、せっかくの出る知恵も出なくなる。今まで楽々と考えておったことでも、それがなかなか思いつかなくなってくるのである。とどのつまりは、原因も責任もすべて他に転嫁して、不満で心が暗くなり、不幸でわが身を傷つける。
 断じて行えば、鬼神でもこれを避けるという。困難を困難とせず、思いを新たに、決意を固く歩めば、困難がかえって飛躍の土台石となるのである。要は考え方である。決意である。困っても困らないことである。
 人間の心というものは、孫悟空の如意棒のように、まことに伸縮自在である。その自在な心で、困難な時にこそ、かえって自らの夢を開拓するという力強い道を歩みたい。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここで示された人間の心理状態を、組織に当てはめると、組織が内向きになり、新しいことにチャレンジできなくなってしまった状態に相当します。会社内で、お互いに非難し、足を引っ張り合い、責任を押し付け合うような状況です。
 辛い時期こそ、「飛躍の土台石」「夢を開拓」という言葉は、どちらかというと、前者が従前の業務の足場固め、後者が新しい業務への挑戦、というイメージにつながりますので、逆のことを言っているようにも見えます。このことから、辛い時期にもやることは沢山ある、と考えることもできそうです。
 特に後段では、「断じて行えば鬼神も之を避く」という諺を引用しています。これは、『史記』に「断じて敢行すれば、鬼神も之を避く」とある言葉に由来するそうです。
 組織論として見た場合には、会社内で、お互いに非難し合うような状態、すなわち従業員のベクトルがあっていない状態から、会社と従業員のベクトルが揃い、求心力も働いて一体感が出てきた状態に変化したことを意味します。
 このように、逆境でこそ経営者のリーダーシップの真価が問われるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係は、市場における投資の関係ですので、ここで描写された状況は経済が内向きになっている状況、と評価できます。
 内向きな経済状況でできることは、やはり、経済の基盤となるべきファンダメンタルを強くすることか、経済成長につながる内需の刺激や産業育成などの景気対策が、伝統的な対策となります。不景気な時こそ、経済を良くするためにベクトルを揃えるべきでしょうが、市場参加者はそれぞれが競争相手でもあり、また、中央集権的な計画経済ではなく、むしろ公権力の介入などのない自由市場が大原則ですから、上記の経営組織論のように力で束ねるような方法は採れません。ときの政府が力強く日本経済を支える、などと言っても、間接的な刺激策を講じることしかできないのです。
 そうなると、強い心を持つべきは、市場参加者である各企業の、特にそれぞれの経営者、ということになります。つまり、経済的な意味の不景気の場合にも、強い決意が求められるのは、経営者なのです。

3.おわりに
 会社にも社会にも責任を負う、というのが経営者です。相当な神経が要求され、とても大変です。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

2つの会社組織論の図



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