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松下幸之助と『経営の技法』#351

1/31 1人の目覚め

~1人がまず目覚める。その目覚めによって皆が幸せになる。~

 私は1人がまず目覚めることが必要であると思います。1人が目覚めることによって、全体が感化され、その団体は立派なものに変わっていき、その成果も非常に偉大なものになると思います。
 国の乱れんとする時に、1人の傑物が出て国を救うということがよく昔の物語にありますが、それと同じような意味をなすものだと思います。私はそのことを皆さんに十分お考えいただき、なすべきことに情熱を傾けて、そこに生きがいをもっていただきたいと思います。
 そして、1人が目覚めれば皆が幸せになるという境地を考えつつ活動してくださることをお願いしたいと思います。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 組織として、傑物が出てきて、それによって組織が変化する、というためには、最低でも2つの条件が必要でしょう。
 すなわち、①従業員の個性を潰さず、傑物が出やすい環境にすることと、②それを組織として拾い上げ、組織自体が変化できること、です。
 このうち、①は、松下幸之助氏が創業の早い段階から採用し、磨き上げてきたビジネスモデル、すなわち従業員にどんどん権限移譲する経営モデルにピッタリ嵌ります。もちろん、特にベンチャー企業やワンマン会社のように、極端に言えば、経営者だけが物事を判断し、従業員はそれを忠実に実行することだけが求められるような経営モデルも、組織の一体性や突破力が強いですから、それ自体が悪いのではありませんが、そこでは、傑物が登場する可能性はどうしても小さくなってしまいます。
 次に、②は、任せている仕事の範囲での変化でなく、それを汲み上げて組織全体の変化にすることを意味しますから、そのような変化や変革を、経営が認めて受け容れるだけの度量と、組織全体に徹底させる指導力が必要となります。組織として見た場合には、現場の変化や変革が経営者に正しく伝わる、というボトムアップの流れと、組織全体に徹底させようという意向が、組織全体に正しく伝わり、実行される、というトップダウンの流れの両方がうまく機能することを意味します。
 このように、傑物が出てきて、それによって組織が変化する、ということは、決して他力本願な話ではありません。自分たちで日頃からそのような状況を作り出していて、受け入れられる組織となっているからこそ実現することです。
 このことから、松下幸之助氏は従業員たちに対して、傑物の目覚めを全員が受け入れるように準備することを求めているのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資対象ですから、しっかりと儲けてもらわないと困ります。逆に、投資家はそのような経営者の資質を見抜くことが必要です。
 ここでは、経営者自身が経営に責任を持つことは当然の前提ですが、だからと言って経営者が全てを決するのではなく、異端であろう傑物を受け容れ、経営を変えることができることが、資質として重要ということでしょう。しかも、異端児扱いしないだけでなく、それをサポートし、自分自身が責任を負って、変化や変革をサポートしなければなりません。
 従業員の個性や多様性を大切にします、ということは、言葉では簡単ですが、時に自分の意に沿わない意見を受け容れ、さらにこれをサポートし、しかもその責任を自分が背負う、という覚悟が必要なことなのです。

3.おわりに
 つまり、松下幸之助氏も、従業員たちに傑物の出現をサポートするように発言している以上、以上のような覚悟があるはずです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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