松下幸之助と『経営の技法』#330

1/10 心を改革する

~悪い年は考え方によると意義ある年である。心の改革が行われる、めでたい年である。~

 悪い年というものは考え方によると、非常に我々にものを考えさせる年である。また、平生考えられなかったことを考える年である、そういうことになると我々は考えたい。だから非常に悪い年は、同時に心の改革ということが行われて、そしてそれが将来、非常な発展の基礎になると思うのであります。
 そうして考えてみますと、悪い年は必ずしも悲観する年ではない。それは新たに出発するところのめでたい年である。だから皆さんしっかりひとつやってください。今日、不景気なり、その他諸々の困難に直面はしておりますが、その直面しているということをいたずらに恐れてはならない。むしろこういう時にこそ、すべてにおいてものの考え方を変えて、今まで考えつかなかったものも考えつくことができる。ですから、この不景気を迎えたということは、考え方によると非常に意義のある年である。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資対象ですから、しっかりと儲けてもらわないと困ります。逆に、投資家はそのような経営者の資質を見抜くことが必要です。
 ここでの松下幸之助氏の話も、個人の人間としての問題ではなく、経営の問題として見ることにします。すると、「悪い年」こそいろいろ考えて、出発の年になる、と言っていますので、何か新しいことが始まることを有意義と評価していることがわかります。
 ここで、新しく始まることが何かは明らかにしていません。経営方針かもしれませんし、新商品や新サービスかもしれません。人事体制を一新するのかもしれません。
 けれども、ヒントはあります。
 その1つ目が、「今まで考えつかなかったものも考えつくことができる。」としている点です。これまでの延長で、修正しながら対策を考えるのではなく、もっと抜本的な対策を考える、ということでしょう。「悪い年」は、それまでのやり方が通用しないことであり、それまでのやり方を抜本から変えないといけない、だからこそ抜本的な変化が起こる、と言えるでしょう。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 ヒントの2つ目は、内部統制に関する事柄です。
 すなわち、ここでの松下幸之助氏の言葉は、相当広い範囲の従業員に対して発せられた言葉のようである点です。例えば役員向けの言葉であれば、ここまで平易に言わず、しかももっと具体的なことを言ったはずだからです。
 つまり、抜本的な変化は、経営方針のようなハイレベルな問題だけでなく、現場レベルでも起こすべき事柄と考えていることがわかります。
 そして、かなり広い範囲に声をかけているということは、経営モデルとして現場にどんどん権限移譲するという松下幸之助氏の経営モデルを繁栄しているように思われます。氏は、繰り返し様々な形で、どんどん現場に任せていくことの重要性を説いており、実際、氏が会社を立ち上げた当初からそのような経営モデルを採用し、磨き上げてきました。変革について来い、という言い方ではなく、変革しろ、という言い方になっているのも、この経営モデルがあってこそ、と思われます。
 むしろ、どんどん権限移譲するからこそ、会社の様々な部門の様々な階層で変革を起こせますので、氏の経営モデルだからこそ、「悪い年」の活用もより幅広く根本的に行えると言えるでしょう。

3.おわりに
 現場からもいろいろと変革を起こしてくれ、ということは、リスク管理の観点から言うとPDCAサイクル、ビジネスの観点から言うと、カイゼン活動、QC活動、シックスシグマ、などにつながるものです。「悪い年」こそ変わる時、というメッセージは、これらの活動を応援することにもなるでしょう。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。



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