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松下幸之助と『経営の技法』#318

12/29 行きづまることはない

~人間社会が本質的に行きづまることなどない。そうした信念を基本に持つことが必要である。~

 私はこの人間社会というものは、本質的に行きづまるということはないと考えています。つまり、大昔から人類は何百万年と生き続けて、だんだん発展してきている。決して行きづまって終わったりしていません。ですから、今後もその通りで、いろいろ現実の問題として苦労があり、大変だけれども、結局は、それぞれに道を求めてやっていけると信じています。
 もちろん、実際にはそれは決して容易なことではないと思いますが、少なくとも経営者として激動の時代に対処していくには、そのような信念を基本にもっていることが必要ではないかという気がするのです。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資対象ですから、しっかりと儲けてもらわないと困りますが、逆に言うと、投資家には経営者の資質を見極める能力が必要です。
 経営者の資質を、松下幸之助氏の言葉から読み取りましょう。
 この点、経営に行き詰っても必ず克服できると信じ、実際にやり遂げることと、逆に、ダメな場合にはダメと見極めて素早く撤退することの両方が必要であることが、ここ数日検討してきたところから明らかです。矛盾することですが、いずれをやり遂げるにも相当の度量が必要ですし、いずれか一方だけやれば良いのではありませんから、バランス感覚や繊細さも重要なのです。
 ここでは、そのうち特に「やり遂げる」方向で作用することが語られています。
 すなわち、人類の発展の歴史を考えれば、行き詰まることはない、ということですので、簡単に「行き詰まった」と諦めない、という「意識」「心の持ちよう」が語られているのです。
 けれども、これは社会の変化と合致している場合の話です。社会の変化に限界がなくても、自分や会社の変化が社会の変化と方向性が合わない場合があるでしょう。さらに、自分や会社が、社会の変化から取り残される場合もあるでしょう。
 ですから、「行き詰まり」を心配することは重要でなく、「社会の変化」に合致することを心配するべきである、という言い方も可能です。つまり、思うように進まない場合、行き詰まったかどうか、これ以上は不可能ではないか、ということであれこれ悩むよりは、これが社会の変化に合致するのか、社会の要請に合致し、社会の役に立つのかどうか、そういう心配をすべきなのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 組織として見た場合、経営者の決めた方針を貫くことのできる一体性が必要です。経営者が挫けてはダメですが、組織も挫けてはダメです。
 他方、これと矛盾する面もありますが、技術的にこれ以上は不可能ではないか、と見極めるために必要な情報も拾い上げ、検証し、経営者に報告するような柔軟さも必要です。経営者を裸の王様にするわけにはいかないからです。
 そうすると、経営者だけでなく組織の側にも、組織として揺るがずにやり遂げる一体性と、状況を客観的に見極め、変化できる柔軟性の両方が必要となります。
 この2つの要請は、順番を逆にすると、「衆議独裁」になります。意思決定プロセスは、デュープロセスに合致するプロセスとして、十分な情報で十分議論する一方で、決定事項を執行するプロセスは、組織の一体性と責任の所在を明確にし、組織が組織であることのメリットを最大限生かせるようにします。
 このように、経営者を裸の王様にするのではなく、組織を挙げて経営者の経営判断を支援する体制を作ることになれば、柔軟な意思決定プロセスも重要になってくるのです。

3.おわりに
 強靭な精神は、困難な時期を乗り越えるために必要ですので、それを支える信念ともなるべき、ここで示されたようなものの見方や考え方は、スポーツ選手だけでなく経営者にとっても重要です。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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