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松下幸之助と『経営の技法』#275

11/16 無限の豊かさを感じて

~さまざまな人の豊かな働きが生み出される。いろいろの人があってよかった。~

 春が来て花が咲いて、初夏が来て若葉が萌えて、野山はまさに華麗な装いである。さまざまの花が咲き、さまざまの草木が萌え、さまざまの鳥が舞う。さまざま、とりどりなればこそのこの華麗さである。この自然の装いである。
 花は桜だけ、木は杉だけ、鳥はウグイスだけ。それはそれなりの風情はあろうけれども、この日本の山野に、もしこれだけの種類しかなかったとしたら、とてもこの自然の豊かさは生まれ出てこなかったであろう。
 いろいろの花があってよかった。さまざまの木があってよかった。自然の理のありがたさである。人もまたさまざま。さまざまの人があればこそ、豊かな働きも生み出されてくる。自分と他人とは、顔も違えば気性も違う。好みも違う。それでよいのである。違うことを嘆くよりも、その違うことの中に無限の妙味を感じたい。無限の豊かさを感じたい。そして、人それぞれに力を尽くし、人それぞれに助けあいたい。
 いろいろの人があってよかった。さまざまの人があってよかった――。

(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここで示されているのは、多様化です。その時に実力が発揮できていなくても、会社の役に立つときもあるだろう、として、実績が伴わない社員でも大切にすることなどを、繰り返し説いています。
 このことは、社会や市場の競争環境の変化に会社が対応するうえでも重要です。ダーウィンの進化論も、多様な種の中で環境に適合したものが残っていく、というロジックですから、種に多様性が無ければ環境の変化によってその種は全滅してしまいます。環境が変わる前には多数派だった形態も、環境が変れば生き残れず、むしろ、環境が変わる前には少数派だった形態が、環境変化後に生き残れるのです。
 多様化は、何も、種の生き残りがかかるような極端な場合だけの問題ではありません。
 特に現在は、消費者のニーズが多様化しています。これは、B2Cの業界で直接の影響が出るだけでなく、C2Cでも、間接的にではありますが、大きな影響が出ます。最終的なゴールが動いている状況だからです。
 この変化は、例えばマスコミの報道や、例えば監督官庁からの指示・情報提供などによって伝えられるものでは不十分です。なぜなら、企業は市場で競争している状況にあり、競争相手と戦うのに、競争相手と共有している情報だけで、情報戦を勝てるわけがないからです。
 そのような状況で、会社の従業員が多様であり、その従業員から会社のためにそれぞれが感受した情報や感じた事柄が会社に共有されるのであれば、情報戦で優位に立てる可能性が高まります。全従業員がそれぞれの周波数のアンテナとなれば、会社全体で見た場合に補足できる幅が広がり、処理できる情報の幅が広がるのです。
 つまり、会社自身の変化のためにも、市場への対応のためにも、多様化は必要です。会社の柔軟性に大きな影響を与えるからです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の資質として、部下の多様性を受け止め、活用できるというのは、なかなかの度量です。
 真逆のタイプの経営者として、強烈な個性で他人をリードし、自分が絶対、と信じているようなタイプの経営者もあり、その場合は、強力な統制力で、多様性は無いものの一体性と突破力が生まれる、ということも考えられます。
 投資対象として、どちらが正しいのか、という問題ではなく、投資方針や投資戦略としてどのようなリスクを取ってどのようなビジネスに投資するのか、という投資判断の問題です。その際、多様性を重視する経営者、という個性を重視するか、多様性よりも、強烈な個性を重視するか、投資判断を分けるポイントになるのです。

3.おわりに
 多様性を受け入れることは、常に自分の思い通りにいかない場合もあり、それを許容できなければなりません。寛容さも必要です。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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