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松下幸之助と『経営の技法』#271

11/12 ほめあうことはお互いの絆

~ほめることは、いたわることであり、お互いを結びつける大切な絆である。~

 夫婦というものを、これだけ長く続けてきますと、時に、「夫婦にとって大事なことは何でしょうか」と尋ねられることもあるのです。僕は、それに答えるにふさわしい人間かどうかわかりませんが、しかし僕なりに、これだけは大事だと思うようなことがあるのですね。
 それは、奥さんというのは、然るべくご主人をほめるというか、その長所をよく認め、素直にそれを伝えていく、またご主人のほうもある程度奥さんをほめていくということです。ほめるということはいたわりであり、お互い人間同士をしっかり結びつける1つの大切な絆ではないかと思うのですね。
 僕は、これまでにたくさんのご夫婦を見てきましたが、あまりうまくいっていないご夫婦はどうもあまりほめあっていないように思える。その反対に、うまくいっているご夫婦は、たくまず自然のうちに、お互いがほめあっている、そういうことがいえると思うのです。男というものは、いや人間というものは他人からほめられるのも嬉しいものですが、自分の奥さんなり、ご主人からそういうことを言われると、ひとしお嬉しいものですね。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 夫婦の絆に関する話であり、会社経営に関する問題ではありませんが、人間関係の大切さとして一般化してみると、例えば上司と部下の関係や、会社のコミュニティーとしての役割など、様々な切り口が見えてきます。ここでは、チームワークの重要性について検討しましょう。
 チームの絆を高めることは、多くの場合、チームの生産性を高めることになります。例外的に、チームメンバーの業務がそれぞれ独立していて、チームメンバー同士がいがみ合うほどに競い合うことで生産性が高まる場合もあるでしょうが、多くの場合は、チームメンバーが競い合うだけでなく、協力し合わなければならない場面も多くあるからです。
 このような場面でチームメンバー同士の絆を深める方法として、お互いに褒め合う、という手法は実際にも採用されているところです。例えば、各従業員が誰にどのように助けてもらったのかを発表し、それをバトンのようにつないでいく、つまり「感謝の輪」を繋げていく、などの活動によって、従業員の中にお互いに褒め合い、感謝しあうという意識を育て、チームの絆を高めていく、という方法です。松下幸之助氏の言葉は、このような活動にもつながり、チームの生産性を高めるためのアドバイスとして活用可能です。
 会社組織として見た場合、チームとして活動するために会社が有するツールが、人事権となります。特に、無期雇用契約者が中心となる会社では、会社が従業員を簡単に解雇できない代わりに、会社は従業員に様々な業務を与えることができます。例えば、人事異動によってチームメンバーを入れ替え、刺激を与えてチームを活性化し、生産性を高めることができるようになるのです。
 では、人事権はどこから来るのでしょうか。
 答えは、会社とそれぞれの従業員の間の雇用契約からです。雇用契約は、従業員がサービスを提供する契約ですが、芸術家が作品を作り、納品する場合とは異なります。芸術家の場合には、約束の納期までに約束の品質の作品ができあがれば、その間、海外旅行に行こうが、徹夜で作業しようが、仕事の進め方は自由です。
 けれども、会社の従業員の場合には、チームで活動するために、就業場所や就業時間が制限されることが殆どです。また、業務の内容によっては、服装の指定など、様々な規律があります。つまり、芸術家と異なり、チームプレーが(その程度や態様は会社や業務内容によって異なりますが)要求されるため、チームプレーのために必要な制約やルールを遵守しなければなりません。逆に言うと、会社は、チームプレーのために必要な制約やルールを従業員に遵守させる権利があります。この従業員に対する権利を会社全体で束ねると、会社は従業員に対する人事権を有することになるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 まず、株主同士で、「絆」のような濃い人間関係は、想定されていません。むしろ、株式という没個性的な単位の権利にしてしまうことでで、投資家の個性を無くしています。そうすることで、株式の譲渡が可能になり、それまでの株主と無関係な新しい株主の登場を認めるなど、濃い人間関係のない方が原則になります。
 他方、資本と経営を託して信託者となる株主と、託されて受託者となる経営者の間には、信託契約と同様の関係が発生します。経営者は、株主に信頼してもらえなければいつでも解雇されることや、経営者は株主に対して忠実義務(Fiduciary Duty)を負うこと、等を考慮すれば、経営者と株主の間には一定の信頼関係が構築されるべき構造的関係にあります。経営者がいくら頑張っても評価されずに解雇されたり、逆に、有名なだけで会社経営の能力が十分でない経営者を雇い続けて業績が低迷したりすることを避けるために、重要なことだからです。
 そのため、アメリカの経営者は、投資家説明会やアナリスト説明会を全米各地で開催し、常に国内を飛び回って、株主との信頼関係構築に邁進しています。
 ところが、日本の場合には、そのような投資家対策(IR)は広報などを担当する役員や部門の責任であり、経営者自身が全国を飛び回るようなことは行われません。経営者自身が陣頭指揮を執って仕事に邁進する姿を株主に見せることが、最大のアピールということなのか、株主が怖くない(株主権利行使しない)からなのか、会社同士の株式持ち合いによって、会社同士の縁が切れない限り大丈夫と高を括っているのか、経営者としての個人の地位に関する問題ではなく、会社の問題であると認識しているのか、とにかく、株主との個人的な信頼関係の構築に対し、積極的に働きかける様子がほとんど見られません。
 つまり、松下幸之助氏の言葉に示される「絆」のような濃い人間関係は、株主と経営者の関係に関してみると、日本ではほとんど考慮されていないのに対し、アメリカでは(少なくとも経営者側から)その構築が模索されているのです。

3.おわりに
 日本の経営者の脇の甘さは、日頃から株主による責任追及や解雇の恐れに晒されているアメリカの経営者に比較すると、例えば「アクティビスト」株主への日本での対応実務を研究してみると、非常に現実的に感じるところです。経営がのびのび仕事に専念できる、短期的な収益だけでなく、中長期的な企業の成長を視野に入れた経営ができる、等の長所がある反面、国際的な競争でどうしても一歩遅れてしまう、という短所もあります。
 経営者が株主に媚びる必要なないでしょうが、かといって株主を全く気にしないというのも問題でしょう。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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Seven Rich法律事務所。日米の弁護士、証券アナリスト、経営コンサルタント。約20年の社内弁護士経験。 ブログ:https://ameblo.jp/wkwk224-vpvp 社労士向けの【芦原労判ゼミ】はichiro.ashihara@nifty.comまで。
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