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経営の技法 #36

4-9 参謀、番頭、ジェネラルカウンセル
 タイトルで掲げた役職者は、いずれも会社経営に深くかかわり、経営判断の適切性を確保するために重要な機能を果たすべき立場にある。デュープロセスの観点から検討すると、その重要性がより鮮明となる。

2つの会社組織論の図

<解説>
1.概要
 ここでは、以下のような解説がされています。
 第1に、経営の「安定感」と「柔軟性」の両立を学ぶため「老舗」が注目されていることを指摘しています。
 第2に、そこでは、「番頭」「参謀」が、経営判断のための「お膳立て」を行っている点を注目すべきである、と説明しています。
 第3に、アメリカの「ジェネラルカウンセル」も、「お膳立て」という意味では共通する、と分析しています。
 第4に、「番頭」「参謀」「ジェネラルカウンセル」の比較から、いずれが優れているのか、という問題ではなく、自分の会社の「番頭」に必要な素養を逆算して考えることの重要性を説明しています。
 第5に、リスク管理が重要になってきている状況で、リスク統括責任者こそ、この「番頭」に適任であること、日本では、この役割をジェネラルカウンセルに兼任させる方法が考えられること、を提案しています。

2.ジェネラルカウンセル論
 近時、アメリカの会社体制に倣って、日本の会社もアメリカ型のジェネラルカウンセルを設置し、大きな権限を与えるべきである、という議論を見かけるようになりました。
 これには、本書で度々指摘するような「お膳立て」の機能を明らかにしている点や、経営判断のプロセスを重視している点で、納得できる部分もあります。
 けれども、多くの論調は、アメリカ型のジェネラルカウンセル制度が優れており、導入していない会社、すなわち遅れている会社は、すぐにでも導入するように、という論調です。リスク統括も、ジェネラルカウンセルの下に置けば、会社全体のリスクがコントロールされる点も、この論調の根拠のようです。
 しかし、アメリカ型のジェネラルカウンセルは「アドバイザー」のトップです。経営の責任を負う「番頭」との根本的な違いがここにあります。アドバイザーは経営判断の責任を負わないからです。
 例えば、アメリカの会社がM&Aによって他のアメリカの会社に買収された場合、新しいオーナーは、CEOを追い出すものの、ジェネラルカウンセルは追い出さず、その会社運営上のポイントを聞き出す、と言われることがあります。会社のリスクを全て把握しているから、ということです。
 そして、日本の多くの企業を見ている様子では、アドバイザーであるジェネラルカウンセルに法的リスクも含めたリスク管理の権限と機能を集中させることは、少なくとも現時点では、機能しないように思われるのです。なぜなら、日本では社外取締役すら十分機能していないからです。アドバイザーという、経営責任を負わない者は、所詮、経営の仲間ではなく、ご講釈を有難くうかがっておけば良い、というお飾りにされてしまう可能性が高いと思われるのです。

3.おわりに
 もちろん、ジェネラルカウンセルも経営の仲間であれば、一蓮托生、こいつも自分のこととして一所懸命考えてくれたはずだ、と受け入れてくれるでしょう。
 久保利英明先生が、本書の別の場所で指摘しているように、日本の産業界では、特に片仮名の概念について本来の意味と異なる意味に曲げて「誤訳」し、かえって問題をこじらせている例が多く見受けられます。アドバイザーという役割も、同じように誤解されてしまい、アメリカ型のジェネラルカウンセルはやっぱり日本では機能しなかった、と言われてしまう危険を危惧します。
 問題の本質は、「お膳立て」にある、という久保利英明先生の指摘は、深く理解すべき言葉です。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月



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