松下幸之助と『経営の技法』#323

1/3 運命に優遇される人

~自分の適性に生き、喜びをもって、今日の仕事に徹する人が、運命に優遇される。~

 私に、あなたのような子供がおるならば、あるいは孫がおるならば、私は自分の体験をすっかり話し、そして、やはり言うでしょう。言ってやりたいと思います。
 「お前にはお前の考えがあるだろう。しかし、もし、わしの言うことに多少の真理があり、共鳴するところがあるなら、お前もそんなつもりでやってみないか。」
 自分の適性に生きて、喜びをもって今日の日の仕事に徹する――それが勇気のある人だと私は思うのです。1つのことでも、こんな仕事はという、とざされた考え方もあれば、こんな仕事をすることができると考える、ひらかれた心もある。前者は運命につぶされ、後者は運命に従って運命に優遇される人なのです。あなたはどこまでも後者でなければなりません。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資先です。しっかりと儲けてもらわなければ困りますが、投資家も、経営者の資質を見極めなければなりません。
 この点で見ると、経営者の資質として読み取れることは、①自分の適性に合ったことを、②喜んですることが大事、ということでしょう。
 昔から、「好きこそものの上手なれ」と言われることそのもの、と考えて良いでしょう。
 問題は、経営者が自分1人だけ好きなことを、嫌々従業員にやらせるわけにはいかない、ということです。すなわち、経営者は組織を動かして成果をあげるのが仕事ですから、この①②を従業員にも浸透させ、組織が生き生きと仕事するような仕組みづくりや雰囲気作り等ができなければいけません。
 ですから、自分と同じように、この仕事が好きと感じる従業員を雇い、育て、その気持ちを盛り立てる能力が、経営者の資質として必要なのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 まず、会社組織として見ると、上記のとおり経営者と同じように、皆が会社の仕事に対して①適性があり、②喜んで取り組んでいるような環境を作り出すことが重要です。昨日(1/2の#322)で検討したように、会社と従業員のベクトルを合わせる、という経営学的なイメージをすると、とてもよく理解できることです。このベクトルという見方は、従業員の個性を均一化することを要求しておらず、多様性と両立しつつ、方向性が揃うことで一体性や突破力が期待できる、という意味で、対立するものとして捉えがちな多様性と一体性を、高い次元から矛盾なく説明できるので、とても便利な思考ツールです。
 さらに、個々の従業員の働き方や生き方の問題としても重要です。
 つまり、①自分の適性に合ったことを、②喜んですることを意識し、最初はやせ我慢かもしれないけれど、仕事を少しでも好きになれば、仕事の苦労は小さく感じられます。これを本当に好きになれば、仕事が楽しくなります。精神衛生上、このような状態の方が、鬱々と仕事をするよりも遥かに好ましく、結果的に好ましい状態になることは、誰にでも理解できることです。

3.おわりに
 若い人に話しかけているようですが、こうしなければならない、という教育するような言い方ではなく、こうしてみてはどうか、という提案するような言い方です。
 若い時に病気がちで、立ち上げたばかりの会社も、他人に託して、任せながら経営し、任せる経営の方法を磨いてきた松下幸之助氏は、人を育てることも上手だったようです。提案するような言い方も、教育的な効果が高いのでしょう。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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