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松下幸之助と『経営の技法』#311

12/22 心も豊か身も豊か

~心も豊か身も豊かという姿になってこそ、真の幸せが人間にもたらされる。~

「人はパンのみによって生きるにあらず」という言葉がありますように、人間は物質だけで幸せになれるものではありません。いかに物質的に満ちたりても、心の平安というか、心の面で満たされるものがなくては決して幸せにはなれないと思います。だからこそ昔から、心の悩みを救い、心に安らぎをもたらすための宗教その他の精神的な導きというものが人間生活には不可欠なのでしょう。
 けれどもまた、パンなしでは生きられない、つまり物質面での豊かさが極めて大事なのも事実です。結局、物心一如の豊かさといいますが、心も豊か身も豊かという姿になって、はじめて真の幸せがもたらされるのだと思います。
 ですから、精神面での豊かさを生むものが仮に宗教だとしますと、それと車の両輪をなして、物質面での豊かさを生み、この世から貧をなくしていくための活動が物資の生産だといえましょう。物資の生産というものは、それほどに価値の高いものであり、それだけにそれに携わっている企業の社会的責任は重く大きなものがあると思います。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、投資家も経営者も、ともに企業活動そのものが経済を活性化させ、社会や国家に貢献するということを理解すべきである、という点では、昨日12/21の#310と同じテーマです。
 そのうえで、さらに付け加えると、産業のことを、精神的な豊かさに対する物質的な豊かさを司るものであって、宗教に対比されるべき崇高なものと位置付けています。つまり、産業の重要性を、社会経済生活の発展の観点から見るのではなく、人間の存在の根源から説明しようとしている点が、今日の発言のポイントになります。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 今日の発言は、従業員のモチベーションや会社の求心力の向上に活用されるべき内容でしょう。すなわち、今でも相当残っていますが、日本では金稼ぎは悪、という印象を持たれます。松下幸之助氏は、盛んにその社会的な認識を改めようと、金儲けこそ善、という趣旨の発言をしています。
 これは、会社で働く従業員にとってみると、後ろめたい気持ちで鬱々と仕事をするのではなく、社会に貢献しているという自信や手応えと共に仕事をすることになり、自分自身の意欲を高めますし、そのような機会を与えてくれている会社で働けることに対する誇りや、愛社精神を高めます。
 このように、産業は宗教と同じように崇高なものだ、というメッセージは、非常に重要な機能を果たすのです。

3.おわりに
 ここでは、話し方としてはむしろ逆で、会社の活動の社会的責任は重い、と安易な言動を窘めるかのような論調です。軽率な言動を慎まなければならないのですが、それは、ノブリスオブリージュの発想でしょう。皆が注目するような影響力があり、重要な役割を果たしている、という自覚を持ちなさい、という(ここでこれまで検討したような)積極的な面と、安易な活動を自重しなさい、という消極的な面の両方が含まれるのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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