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松下幸之助と『経営の技法』#281

11/22 派閥も活用次第で

~派閥も人間の本性と容認して、共同の繁栄のために、適正に活用すればいい。~

 今日、政治の分野などで“派閥解消”が叫ばれています。確かに、いたずらに派閥をつくり、派閥の利害にとらわれて分派活動をし、全体の調和を乱すことは、決して好ましいことではありません。しかし、派閥をつくるのが人間の1つの本性だとすれば、これはいかに努力しても解消できないのではないでしょうか。それを無理に解消しようとすれば、かえって弊害を生む結果にもなりかねません。ですから大事なことは、派閥というものに対しても、これを人間の本性に基づくものとして容認した上で、自らの利害得失にとらわれることなく、共同の繁栄のために適正に処遇しあい、活用しあっていくことだと思います。そしてその際に必要なのが、“和を以て貴しと為す”という精神だといえましょう。
 そういうことが、1400年も前に国の憲法の第1条にはっきりと記されているのです。

(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 派閥を、会社の内部統制に活用しようとする場合の、メリットとデメリットを確認しておきます。
 派閥にもいろいろあり、感情的・情緒的な人間の好き嫌いで出来上がってしまうグループであれば、会社内で人間的な対立構造を増長させるなどのデメリットが大きくなります。仕事以外の面での人間関係に気を使う場面が多くなり、仕事以外の要素で出世や社内での立ち位置が決まるなど、非合理的な組織運営のきっかけばかり作り出されてしまいます。
 他方、例えば技術系、営業系などの専門性を背景にした派閥のように、会社の管理業務を補完する役割を果たしている派閥もあります。専門分野の指導教育をしたり、専門家の目から見て、社内のどこでどのようにその能力が生かされているのかを見極めて、相応しい人物を推薦したり、同じ専門分野の悩みや喜びを共有して励まし合ったり、等の活動が行われ、それによって、例えば会社の人事部ですら気づかない問題に対応し、会社の経営と従業員の間の懸け橋になるのです。
 もちろん、後者の場合でも、綺麗ごとばかりではなく、派閥の中で仲間外れにされてるなど、従業員の活動にマイナスの影響を与えることもあります。また、会社の「社長レース」等で派閥同士が対立し、競争することもあります。後者は、競争自体は会社の活力を高める面もあるため、それだけで直ちにダメと言うわけではないのですが、足の引っ張り合いになって、消耗戦に発展してしまうと、前者の派閥活動と全く同じ状況に転落します。
 けれども、仲のいい人とそうでない人ができてしまうのは、人間である以上ある程度止むを得ない面があります。仲のいい人同士の結束がどこまで強ければ「派閥」と称されるのか、限界は非常に曖昧ですが、それが適切なコミュニケーションを促進させ、経営の機能を良い意味で補完するように上手に活用することのほうが、全て禁止・弾圧するよりもマシである、という言葉は、現実主義者である松下幸之助氏らしい言葉と感じます。自分自身も含めた人間観察から導き出された、氏自身の言葉だからです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の世界でも、派閥のような横のつながりがどうしてもできてきます。経営者の集まりは、上は経団連から、下は各地方の青年会議所やライオンズクラブまで、実に様々です。本業に精を出すのが大事、とそのような集まりに無関心な経営者から、本業よりもそのような外交的な活動に力が入っている経営者まで、様々なタイプがあります。
 そのどちらが、会社の発展や繁栄に寄与するのか、ということは状況に応じて決まることで、しかも実際にはこのような両極端ではなく、バランスのとり方が重要なのでしょうが、少なくとも言えることは、会社経営者には、このような「外交的な活動」も、(過度でも過少でもなく)適切にこなすことが必要でしょう。経営者を選ぶ株主としては、会社の事業内容と、経営者の「外交的な活動」の好みや実際の活動状況が適切にかみ合っているのかどうか、を見ることも、ポイントの1つとなります。
 さらに、会社の中の派閥活動について、これを禁止・弾圧する方向性なのか、上手く使っていこうという方向性なのか、など会社経営の手法も、気になる点です。
 このようにして見ると、経営者は、内にも外にも気を遣わなければならず、気の休まる時がなかなかなさそうです。

3.おわりに
 「和」も、強調しすぎると、健全な競争を阻害したり、個性を潰したりして、逆に組織全体を不健康にしてしまいます。そして、実際に競争が徹底している、特にアメリカ系の会社も現実に存在します。
 けれども、従業員も人間で、個性が多様な中で、誰もが競争に向いているわけではなく、多くの場合、ほどほどの競争と、ほどほどの安定が馴染み、力を発揮します。「和」をどこまで強調するのか、ということも、会社の状況を見極めて行うべき判断です。
 また、行き過ぎた派閥活動を押さえる場合にも、いたずらに「和」ばかり強調するのではなく、適切な「競争」や「活気」も重視すべきでしょう。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

労務トラブル表面

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