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経営の技法 #43

5-5 企業保険の活用①(保険の必要性)
 企業保険の必要性は、単に金銭的な損失を補償するだけでなく、不測の事態からの回復の時間や手間を減らす効果もある。不測の事態からどのように立ち直るのかを具体的にシミュレーションすることで、企業保険が必要かどうかを検討すべきである。

2つの会社組織論の図

<解説>
1.概要
 ここでは、以下のような解説がされています。
 第1に、企業保険の必要性を検討する旨を明らかにしています。
 第2に、財務上の理由として、キャッシュを遊ばせておくことの問題や、M&Aの対象となる危険を検討しています。
 第3に、事業継続の重要性を指摘しています。
 第4に、事業再開のための資金繰りの困難さを指摘しています。
 第5に、企業保険の限界も理解して、企業保険の採否を決定するよう、注意を促しています。

2.リスクの取引
 ここで、野村修也先生の分析について、違う視点から見てみましょう。企業保険を掛ける、という行為を、リスクの取引、という観点から整理します。
 例えば外国の工場について、企業保険を掛けるということは、リスクを避けたことになるでしょうか?
 答えは、Noです。逆に、リスクを取ったことになります。
 本当にその工場のリスクが高すぎて、とても支えきれないのであれば、その工場を売却すべきですが、そうせずに工場を持ち続ける方向を選んだからです。
 けれども、そのリスクの一部を保険会社に引き取ってもらう代わりに、保険料を支払うことになりました。
 このように、リスクを一部肩代わりしてもらう、という方法でリスクコントロールしたのです。
 そのうえで、最後に、リスクコントロールした結果を踏まえ、工場を持ち続ける、という経営判断を行ったことになります。
 ところが、日本の事業会社には、リスクを「有る」「無い」の二者択一のように考える会社が見受けられます。このような会社は、企業保険に入ったのだからリスクが無くなった、一安心、と考えてしまいます。
 しかし、リスクは確率論ですから、程度の問題です。また、保険も万能ではありません。リスクゼロはあり得ませんので、そのつもりで、現実的なリスクを見極める必要があるのです。

3.おわりに
 このように、企業保険も万能ではないのですが、これを誤解してしまうと、企業保険を掛けたのでリスクはゼロになった、リスクフリーだ、したがって経営判断も何もない、と誤った判断をしてしまいます。
 実際、以前タイで大規模水害が起こったとき、少なくない日本の会社が、駄目になってしまった現地工場に対して保険が出ないことを後で知り、工場の再開を断念したり、大幅に遅れたりした、ということが起こっています。企業保険にリスクを全て投げた、と考えるのではなく、企業保険に引き受けさせたリスクはどの程度で、自分は残りのどのようなリスクを負っているのか、という問題意識で、リスクを正確に把握しなければなりません。

※ 『経営の技法』に関し、書籍に書かれていないことを中心に、お話していきます。
経営の技法:久保利英明・野村修也・芦原一郎/中央経済社/2019年1月



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