松下幸之助と『経営の技法』#363

2/12 困難に体当たりする

~困難にぶつかっていく気概があるか。喜び勇んで体当たりする心意気があるか。~

 修業時代の若い人たちは、職場の選び方にも、むしろ困難な部署を選ぶくらいの心意気が必要である。会社でも、人のいやがる仕事でも、辛い部署で修行するのもまた面白い、ひとつがんばろうと喜び勇んでぶつかってゆく勇気がほしいと思う。
 人間は物事を悪くとり、悲しんでいたんでは際限がなく、ついには自殺する人も出てくるものである。これは心の持ち方次第である。成功した人たちの伝記を読んでみると、普通の人なら、その困難に打ち負かされて自殺するようなところを、むしろ反対に喜び勇んでその困難に体当たりしている。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資先です。しっかりと儲けてもらわなければ困りますが、投資家も、経営者の資質を見極めなければなりません。
 松下幸之助氏の言葉は、人間としての在り方や生き方に関する面を重視されることが多いようですが、ここでは、繰り返しそうしているように、それぞれの言葉の裏にあるであろう、経営者としての経験や見識について掘り下げようと思います。
 そうしてみると、ここではリスクに対する経営者の役割りが前提となって語られている、と考えることができます。
 すなわち、リスクマネジメントには、リスクを感じる場面(リスクセンサー機能)と、リスクをコントロールする場面(リスクコントロール機能)があります。経営は、この2つの過程を経たリスクを果敢に取って、チャレンジする決断をするのが仕事です。
 困難な状況に飛び込むというのは、まさに、リスクを取ってチャレンジすることに他なりません。リスクのないところに利益はありませんので、極端に言えば、困難に立ち向かうことが、経営者の最大の仕事とも言えるのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 従業員に、困難に立ち向かうことの重要性を説いていますが、だからと言って、ブラック企業のように従業員をこき使おう、というわけではありません。経営として見た場合のポイントはそこでなく、従業員各自がリスクを避けたり困難を嫌ったりするすると、組織が硬直化してしまいますので、そのようなことがないようにしたい、という点がポイントです。
 古典的な日本の会社のイメージとして強調されるのは、減点主義のもと、リスクを負うような仕事を誰もが避けるようになってしまい、下からまともな企画が上がってこなくなる、という組織です。長く続いていて、安定し、リスクも小さい業務であれば、張り切って上手に対応するけれども、新しくて、どのような展開となるのかリスクがある業務であれば、なんだかんだと理由を付けて避けようとする従業員が増えます。そうすると、会社全体が新しい事業に取り組めなくなり、特に変化が大きい時代には、いつの間にか変化から取り残されてしまうのです。
 そうならないように、従業員にもリスクを取る気質、チャレンジ精神を持ってほしい、そういうための言葉と考えることができます。

3.おわりに
 リスクの先にリターンがあり、自分自身の成長もある、当たり前のことですが、それは個人の問題だけでなく、経営の問題でもあり、組織の問題でもあるのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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