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松下幸之助と『経営の技法』#339

1/19 自分を承認する

~自分の性質を悔やんでも仕方ない。まずは素直に承認してみる。~

 非常によく眠る方もあるでしょうし、私と同じようにあまり眠れない方もあるでしょう。それを取り替えるというわけにはいきませんね。甲君は晩、寝られない質である。乙君はよく寝られる質である。それでお互いに話をして、「君の睡眠を少しこちらへ分けてくれないか」「それはいくらでも分けてあげる」ということで、「君こうして寝たまえ」と教えられても、その通りにはいきません。生まれつきそうなっているのですから。だから、そのことを悔やんでも仕方がないということです。まあ、諦めとでも申しますか、そういうものを私は感じるわけです。
 これまで多少はそうしたことを苦に病んだこともあるのですが、結局は、素直にこれを承認しよう、これは自分がもともとそういう生まれつきなのだ。非常に肥満した人もあれば細い人もあるように、人にはいろいろな体質がある。それをいちいち苦に病んでいてはならない。素直にこれを承認しよう、ということがだんだんわかってまいりました。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資対象ですから、しっかりと儲けてもらわないと困ります。逆に、投資家はそのような経営者の資質を見抜くことが必要です。
 けれども、今日の松下幸之助氏の言葉は、「こうあるべき」という特定の能力に関する話ではなく、どのような能力や特性であれ、自分自身を受け容れよう、という話です。経営者の資質として、特定の能力が必要、等という話ではありません。
 だからと言って、何でも良いと言っているのではなく、自分自身を受け容れることが大切、と言っています。「体質」と言っていますが、個性に合った経営が必要、ということになるでしょう。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 会社組織としても、同じことが言えるでしょう。
 たしかに、会社の風土を変えることもある程度可能です。しかし、業務の内容や規制環境、市場環境、伝統等によって制約もあり、受け入れなければならない「会社の個性」もあります。むしろ、環境に合わせた経営が必要ですので、会社組織こそ、自分自身を見極め、受け入れる能力が必要、ということになるはずです。
 具体的には、商品やサービスの市場での評判を気にする(商売をしている以上、当然のことです)だけでなく、リスクについての感度も高めることが重要でしょう。さらに、会社自身の強みや弱みを把握することが重要です。コンサルタントでも雇わないとできないことなのか、自分達で見極められることなのか、悩ましいところですが、少なくとも、「昔からうちの会社はこういう会社だった」という思い込みを壊すべき場合が実際にあります。
 例えば、M&Aの際に相手会社のために受け入れたデューデリジェンスによって初めて自分の会社のことを客観的に把握できた、という笑えない話もあります。もっと早くデューデリジェンスをしていれば、身売りをしなくても済んだのに、というわけです。
 このように、会社組織を構成する従業員全員が、自分の会社の強みと弱みを正しく認識している状況は、実は非常に難しいことです。しかし、もしそれが実現すれば、会社組織全体が非常に力強くなることが容易に理解できることです。このようにやれば良い、という方法論はこれと言って確立していませんが、組織を動かすために常に心掛けなければならない問題です。

3.おわりに
 私が社内弁護士をしていた時には、会社のリスク管理機能という観点から、様々な部門や従業員と接触しており、この部門はこのようなリスクに対して感度が低いとか、リスク対応力が高い、あるいは警戒しすぎてリスクを取ろうとしない、などいろいろな様子が見えてきます。
 デューデリジェンスのようなイメージだと、お金の流れや訴訟件数など、見えるものによる定量的な分析だけが己を知るツールと思ってしまいますが、そうではなく、このような「雰囲気」「担当者の個性」のような情報も重要なツールになります。
 もし、一度診察してもらおうか、と興味があれば、お気軽にお声がけください。

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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