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松下幸之助と『経営の技法』#344

1/24 生きた芝居を楽しむ

~この世の中はいわば生きた芝居。お互いがその芝居を演じる主人公。~

 今日の状態は、言ってみれば生きた芝居です。歌舞伎だとか、そういう芝居を見て、「ああ面白い。役者はうまく演ずるな」と言って楽しむことがあります。しかし今この世界、この世の中は、本当に生きた芝居です。そして我々は本当の俳優である。主人公そのものである。そういう立役者にお互いがなっているのです。そういう芝居が始まっているというようにも考えられるわけです。
 そのように今の自分というものを考えてみますと、自分は千載一遇の好機に生まれた。かつてない人生に出会った。そういう時勢に出会ったということは、過去何千億の人々のうち、誰よりも恵まれた時代に生を得たのだ。この喜びを素直に喜んで、名優としての芝居をうたないといけない。そういうような感じをお互いがもつことが大切ではないかと思うのです。
 しかも自分が芝居をすると同時に人が見ている。また自分自身も見ている。全部それは無料である。見料は要らない。こういうようなことを考えてみますと、血沸き肉躍る、と申してもいいような面白い時代に生まれたとも考えられるのです。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資対象ですから、しっかりと儲けてもらわないと困ります。逆に、投資家はそのような経営者の資質を見抜くことが必要です。
 ここでも、人生哲学、というよりは、経営者の在り方、として検討しますが、そうすると、「役者」」「個人」として楽しむ、というよりも、「経営者」として楽しむ、ということがポイントになってきます。
 ここは、松下幸之助氏が、数多くの難局を克服してきたことと無関係ではないでしょう。会社創業直後に全く商品が売れない、という状況、関東大震災とその後の不況、第二次大戦後のパージによる松下幸之助氏自身の権限剥奪、など、よくぞ投げ出さずに経営者として面倒を見続けた、と感心する経歴です。これを、芝居として見て面白くないはずがないので、氏の言葉を、後から言うのは気楽だよね、と評価することもできるでしょう。
 けれども、氏の発言は、様々な時期になされていて、それぞれに時代状況を踏まえた違いを感じるときはあるものの、このnoteの連載で1年近く氏の言葉に向き合ってきた立場から見て、氏の言葉にブレを全く感じません。氏が伝えたいイメージは、ずっと一貫していて、経営者に関して言えば、人に任せる度量と眼力、責任を取る胆力、細かいことに気づき、組織に伝える繊細さ、などなど、とても沢山あるのですが、しかし、一貫しています。その中でも、ブレないポイントの1つが、主体的に仕事に取り組むことの重要性です。名誉欲、好奇心、正義心、金銭欲、権力欲、色々ありますが、そのどれが良い、という話ではありません。エネルギー源として何が良いのか、というのはそれぞれの個人の問題です。
 そうではなくて、常にリーダーとしての責任感と、だからこそこの舞台で芝居をする、という腹の座った立ち居振る舞いが必要となるのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 1人の役者には、メーク、スタイリスト、等いろいろな付き人が必要となります。舞台が大掛かりになり、役者の役回りが重要になるほどなおさらです。会社組織は、経営者を役者に例えれば、付き人として役者を盛り立てる役回り、と位置付けられそうです。
 つまり、肝心な場面で大芝居をうつ=経営上の重大な決断をする、ための舞台を作り、大芝居に向かって盛り上げていく演出を行い(=お膳立てをする)、役者に大芝居をうたせる=経営上の重大な決断をさせるのです。全従業員とその家族の生活、さらに取引先や顧客まで巻き込んだ数多くの関係者のために、その全ての責任を背負って決断するのが、役者である経営者の責任であり、そのためのお膳立てをするのが、付き人である会社の責任です。経営者の大芝居を支えきるだけの体制が作られなければならないことがわかります。
 逆に、会社組織全体が役者である、という見方も可能です。
 それは、市場や社会という「世間」の中で、1つの会社が認められ、居場所ができ、存在感を増し、収益も高まっていく、という発展の物語であり、逆に、競争に敗れた会社が倒産し、市場から去っていくという物語でもあるのです。

3.おわりに
 「血沸き肉躍る、と申してもいいような面白い時代」と言われても、当事者は大変です。負けたら退場、だからです。
 この言葉を、成功した経営者である松下幸之助氏だから言えた言葉だ、と評価することもできます。けれども、苦境にあってもこのように、一歩引いて自分を客観化し、その苦境を楽しむ面も常に抱きながら(いわゆる「センスオブユーモア」でしょう)頑張ってきた、という評価も可能です。
 これから苦境に陥る可能性もある我々としては、後者の評価でありたいと思います。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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