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労働判例を読む

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2020年12月の記事一覧

労働判例を読む#214

【学校法人南山学園(南山大学)事件】名古屋高裁R2.1.23判決(労判1224.98) (2020.12.31初掲載)  この事案は、大学教授の学内でのパワハラに関し、その調査を担当した教授Xが、秘密漏洩などを理由に雇用契約の更新を大学Yから拒絶された(定年後再雇用)ため、雇用契約の存在を主張し、争った事案です。  2審も1審と同様、Xの主張を大筋で認めました。 1.実務上のポイント  2審段階で、Y側が様々な主張を追加しました。すなわち、情報の取り扱いに関するY側の

労働判例を読む#213

【ニチイ学館事件】大阪地裁R2.2.27判決(労判1224.92) (2020.12.30初掲載)  この事案は、総務・労務管理系の管理職者であった従業員Xが、法人営業等を命じられてその成績が良くないという理由で降格された会社Yによる人事処分について、違法と争った事案です。  裁判所は、Xの請求を大筋で認めました。 1.実務上のポイント  Yには、従業員に人事異動を命じる権限がありました。  けれども、それが違法とされた背景には、Xの管理や人事考課に関し、Yの一貫し

労働判例を読む#212

【アメックス(降格等)事件】東京地裁R1.11.13判決(労判1224.72) (2020.12.25初掲載)  この事案は、産休・育休を取った管理職者Xが、復帰後、不利益な処遇を受けた(均等法違反、育介法違反、公序良俗違反・権利濫用)として会社Yを訴えた事案です。  裁判所は、Xの請求を全て否定しました。 1.却下  技術的な問題ですが、まず注目されるのが、Xの請求のうち、産休・育休に入る前の部署の、当時の地位にあることの確認請求について、裁判所が、「却下」した点で

労働判例を読む#211

【国・敦賀労基署長(三和不動産)事件】福井地裁R2.2.12判決(労判1224.57) (2020.12.24初掲載)  この事案は、不動産会社Yに営業職として入社したところ、Yの経営する「浜茶屋」(海水浴場の複合店舗)の副店長に異動させられたAが自殺したため、その母Xが労災を申請したところ、労基署が労災認定しなかった事案です。  裁判所は、労基署の認定を取り消し、労災を認めました。 1.判断枠組み(ルール)  労災の認定のために、厚労省は、労災のうちのいくつかの類型

労働判例を読む#210

【サン・サービス事件】名古屋高裁R2.2.27判決(労判1224.42) (2020.12.23初掲載)  この事案は、ホテルのレストランの料理長Xが、退職後、残業代などの未払賃金の支払いを、会社Yに対して請求した事案です。1審も2審も、Xの請求を広く認めました。 1.固定残業代  この中で、固定残業代の合意が成立した、とするYの主張に対する判断は、1審と2審で逆になりました。すなわち、1審は、固定残業代の合意を有効としましたが、2審は、固定残業代の合意を無効としました

労働判例を読む#209

【国(陸上自衛隊訓練死)事件】旭川地裁R2.3.13判決(労判1224.23) (2020.12.18初掲載)  この事案は、情報陸曹として日頃デスクワークの作業が主だった隊員Aがいわゆるスキー起動訓練に参加し、駐屯地に戻ったところ、急性心筋梗塞が発症し、数日後に死亡したため、遺族のXが国Yに対し、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を請求した事案です。  裁判所は、業務と死亡との間の因果関係を認めたものの、自衛隊の安全配慮義務違反を否定し、Xの請求を否定しました。 1

労働判例を読む#208

【福山通運事件】最高裁二小R2.2.28判決(労判1224.5) (2020.12.17初掲載)  この事案は、会社Yの業務としてトラックを運転していた従業員Xが、業務に関して交通事故(死亡)を起こし、その遺族に損害賠償を行った後、Yに対して損害賠償金の負担を求めて求償した事案です。  1審は、Xの請求を一部認めましたが、2審は、Xの請求を否定しました。  最高裁は、XのYに対する逆求償が認められる、したがって逆求償できる金額を再審査するように、と2審に事件を差し戻しま

労働判例を読む#45

【エヌ・ティ・ティマーケティングアクト事件】岐阜地裁平29.12.25判決(労判1185.38) (2019.2.15初掲載) この事件は、3か月の有期労働契約が、最短4年11か月(22回)、最長約12年(51回)更新された従業員らが、会社のリストラに伴う更新拒絶の適否を争ったもので、裁判所は、更新拒絶が無効と判断しました。 「期間の定めのない雇用契約との差異などを十分に踏まえつつ」と留保しながら、整理解雇で用いられる標準的な判断枠組みにそって判断した点も注目されます。

労働判例を読む#207

【フルカワほか事件】福岡高裁R1.7.18判決(労判1223.95) (2020.12.11初掲載)  この裁判例は、自動車販売会社の従業員Xが、過労により脳梗塞を発症し、後遺障害が残ったとして、会社と代表者(あわせてY)を相手に、損害賠償を請求した事案について、Yの責任を認めたものです。労基が認定した時間外労働時間数に比べ、裁判所は、これを相当上回る時間外労働時間を認定している点が、特に注目されます。 1.実務上のポイント  この判決は、1審の判断を基本的に支持してい

労働判例を読む#206

【国・人事院(経産省職員)事件】東京地裁R1.12.12判決(労判1223.52) (2020.12.10初掲載)  この事案は、トランスジェンダーの職員Xが、勤務先の経産省Yで女性として処遇されるように申し入れてきた事柄や経過について、Yの対応や決定に問題があるとして争った事案です。Xが問題にしたY担当者の言動や、Yの決定(Xの要求を拒否するものなど)は多岐にわたります。  裁判所はこのうち、女性トイレの使用制限(執務室の上下1階の女性トイレの使用を禁止)と、上司Aの「

労働判例を読む#44

【学校法人原田学園事件】広島高裁平30.3.29判決(労判1185.27) (2019.2.8初掲載) この裁判例(二審)は、遺伝性疾患である網膜色素変性症に罹患し、永い年月をかけて進行性夜盲、視野狭窄などが発症する短大准教授に対し、授業を担当させず、学科事務のみを担当させる旨の職務変更命令や研究室の変更命令を出した事案で、准教授がこれら処分の無効確認などを求めたところ、その一部を認容したものです。 「学級崩壊」のような事態を招いていた点を認定し、准教授の教員としての資

労働判例を読む#205

【東リ事件】神戸地裁R2.3.13判決(労判1223.27) (2020.12.4初掲載)  この事案は、メーカーYの製品の一部の製造を請け負っていた業者の従業員Xらが、Yとの間に直接雇用契約があることの確認などを求めた事案です。  Xらの主張は、派遣法40条の6の1項5号の規定、要約すると、(A)偽装請負等の目的で、(B)偽装請負等がされれば、その会社から直接雇用の申し込みがあったとみなされる、という規定を根拠にします。つまり、Xらは当該業者を介してYで働いていたけれど

労働判例を読む#204

【朝日建物管理事件】最高裁一小R1.11.7判決(労判1223.5) (2020.12.3初掲載)  この事案は、ビルの管理業務を担当していた有期契約従業員Xが、人間関係を理由に別のビルの管理業務担当を会社Yに命じられたにもかかわらず、これを拒んだ、などとして有期契約期間中に解雇された事案です。  1審・2審では、解雇の有効性=転勤命令の有効性が問題となりました。1審・2審は、いずれも転勤命令が無効であり、したがって解雇も無効と判断しました。  最高裁は、1審・2審の判

労働判例を読む#44

今日の労働判例 【学校法人原田学園事件】広島高裁平30.3.29判決(労判1185.27) (2019.2.8初掲載) この裁判例(二審)は、遺伝性疾患である網膜色素変性症に罹患し、永い年月をかけて進行性夜盲、視野狭窄などが発症する短大准教授に対し、授業を担当させず、学科事務のみを担当させる旨の職務変更命令や研究室の変更命令を出した事案で、准教授がこれら処分の無効確認などを求めたところ、その一部を認容したものです。 「学級崩壊」のような事態を招いていた点を認定し、准教授