労働判例を読む#205

【東リ事件】神戸地裁R2.3.13判決(労判1223.27)
(2020.12.4初掲載)

 この事案は、メーカーYの製品の一部の製造を請け負っていた業者の従業員Xらが、Yとの間に直接雇用契約があることの確認などを求めた事案です。

 Xらの主張は、派遣法40条の6の1項5号の規定、要約すると、(A)偽装請負等の目的で、(B)偽装請負等がされれば、その会社から直接雇用の申し込みがあったとみなされる、という規定を根拠にします。つまり、Xらは当該業者を介してYで働いていたけれども、これは請負を偽装し、派遣法の適用を免れようとしていたものだ、だから同条項号が適用される、したがって、YからXらに対して直接雇用の申し込みがあり、これを承諾したXらは直接雇用関係にある、と主張するのです。

 裁判所は、Xらの請求を否定しました。

1.判断枠組み(ルール)

 この判決は、上記(A)について判断していません。(B)を否定するだけでXらの請求を否定するのに十分だからでしょうか。したがってここでは、(B)について検討します。

 さて、「偽装請負等」と言っても、それだけではどのような事実があれば認定されるのかよくわかりません。多くの労働判例に見られるように、このような抽象的規範的な条件が問題になる場合、裁判所は、これを判断するための「判断枠組み」を示し、その判断枠組みをあたかも証明対象として事実を整理し、評価します。

 この判決の判断枠組みの設定に関し、特に注目するポイントは2つあります。

 1つ目のポイントは、裁判所が判断枠組みを柔軟に設定する点です。

 すなわち、(B)が否定されるためには、Yに対して当該事業者に独立性があるかどうかがポイントであり、その独立性は、職業安定法施行規則4条1項・「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」に基づいて判断されるとしました。なお、この告示は以下のとおりです。

 具体的には、同条項や当該告示を要約した4つの要素、すなわち、①事業者自身が業務指示等を行っているか、②事業者自身が労働時間等の指示・管理を行っているか、③事業者自身が服務規律・配置等を行っているか、④事業者自身が注文者から独立して請負業務を処理しているか、を判断枠組みと設定しています。

 このことから、判断枠組みは、施行規則や告示の内容がそのまま適用されるのではないこと、事案に応じて、裁判所が比較的柔軟に設定すること、が理解できます。

 2つ目は、独立性の判断が、有るか無いかというオールオアナッシングの判断ではなく、どの程度独立しているのかという程度問題であり、評価の問題とされている点です。

 これは、判決の記載内容を注意深く読むと理解できます。

 すなわち、判決では、あてはめの部分で上記①~④について認定した事実をあてはめており、続けて、Xらの主要な主張について検討しています。このうち、①~④のあてはめ部分は、いずれも独立性を害する事実が無い、と結論付けています。

 他方、注目されるのはXらの主要な主張についての検討です。ここでは、Xらの主張する事実が無い、という認定もありますが、それだけではなく、Yの影響を受けている面があっても、それは注文者と請負者の間でのやり取りであって、請負者である当該事業者の事業に干渉するものではない、という趣旨の評価がいくつか見受けられます。つまり、Yによる干渉の有無ではなく、その内容や程度が問題にされています。

 このことは、Yと当該事業者との間に取引契約(請負契約)があり、それに伴って当該事業者はある程度Yの指示や要請に従わざるを得ない面があること、そこで、Yによる干渉が全く無い、ということは不可能であること、したがって、Yによる干渉の有無だけでなく、冠省がある場合にはその内容や程度が問題になり、独立した事業者としての実態が損なわれる程度のものかどうかが問題になること、を意味するのです。

 ともすると、少しでもYの干渉があれば当該事業者との契約は偽装請負である、と考えてしまいますがそうではありません。このことが、判断枠組みにも表れているのです。

2.事実(あてはめ)

 裁判所は、非常に詳細に事実認定をしています。

 これは、当該事業者の独立性を疑わせる事実やエピソードが極めて多岐にわたり、しかも、上記2つ目のポイントと指摘したように、見方によってはY社が干渉していると見えるが、見方によっては当該事業者に対する情報提供や、発注者の請負業者に対する契約上の干渉にすぎないように見える、という問題もあるからです。

 しかも、1つひとつの事実やエピソードについて、細かい問題に入りすぎて全体の方向性(ビジネス上の取引関係に内在する干渉を超えたレベルの干渉かどうかを見極めるのであって、干渉の有無の認定ではない)を見失わないことが必要です。このような、詳細な証拠の評価や事実認定をしつつ、全体の方向性にも配慮した事実認定とあてはめ(評価)が求められるため、詳細で膨大な認定になっているのです。

3.実務上のポイント

 会社側から見ると、全て程度の問題であり、多少の干渉があっても良い、と見えるかもしれません。

 けれども、このような見方は、発注者の干渉を全て認めたうえで、その程度を抑えればいい、という発想につながりかねず、偽装請負と評価される危険を高めてしまいます。

 この事案では、当該事業者によるXらの業務管理や処遇など(上記①~④)に関し、Yの干渉が無かったことが出発点となっています。すなわち、当該事業者の内部統制に関し、Yが干渉していない領域が存在することが先に確認され、そのうえで、Yによる干渉が認められる領域について、それが人事権を侵害するものではなく、取引の相手方として当然許容されるべき範囲内かどうか、が検討されています。

 結果的に見れば、Yの干渉の程度が問題になっているのですが、当該事業者の主体性や独立性が確認されたうえでの話です。事業者の内部統制上の問題に対して干渉することがあってもよい、ということまで判決から読み取ることは難しいでしょう。

 したがって、安易に「程度問題である」と考えるのではなく、①経営の独立性・主体性は確保されているか、②取引上の干渉は、経営干渉にならない範囲で収まっているか、という観点から検討するのが適切と考えられます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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