労働判例を読む#207

【フルカワほか事件】福岡高裁R1.7.18判決(労判1223.95)
(2020.12.11初掲載)

 この裁判例は、自動車販売会社の従業員Xが、過労により脳梗塞を発症し、後遺障害が残ったとして、会社と代表者(あわせてY)を相手に、損害賠償を請求した事案について、Yの責任を認めたものです。労基が認定した時間外労働時間数に比べ、裁判所は、これを相当上回る時間外労働時間を認定している点が、特に注目されます。

1.実務上のポイント

 この判決は、1審の判断を基本的に支持しています。1審の判断で特に注目されるのは、労基の認定した時間外労働時間数(発症前2か月目を例にすると、120時間20分)に対し、Xの主張(同328時間00分)、Yの主張(同17時間00分)が大きく乖離する中、裁判所は労基の認定よりも多く認定したのです(同175時間30分)。

 これは、タイムカードなどによる時間管理がされておらず、日誌も記載できる時間が限られている状況で、実際の労働時間を、個別業務ごとに詳細に認定した結果、認定された時間です。しかも、多くの論点で、Y側の証人やY(代表者)自身の証言が、業務の存在そのものを否定したり、業務の頻度や時間、拘束力などについてXの主張や証言と異なる事実を述べたりしています。例えば、ダイレクトメールの作成は一括して行っていたため、Xは作業していない、という証言がある一方、Xは作業をしていた、と主張しているのです。

 そして、これだけを見ると、Xの主張は証明されず、請求が認められないようにも感じられます。

 けれども裁判所は、主にYが従業員向けに作成したマニュアルの記載と、退職した従業員が有していた当時の日報の記載を手掛かりに、Xの証言の合理性を認定しています。すなわち、一つひとつの業務について、証言と証拠の合理性を比較検討しているため、判決書が膨大な量になっているのです。

 非常に丁寧な作業をしていますが、しかし、刑事事件で見られるような犯罪の立証に比較すると、立証の程度が低くてもXの請求が認められているように見受けられるのです。

 そして、2審はこの点について、理論的な観点から理由を追加しています。

 すなわち、会社は従業員の労働時間を適正に把握する義務があり、それを具体的に明確にするために、厚労省が「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」を策定していることを指摘し、それにも関わらずYが従業員の「労働時間の適正な把握のための措置を何ら講じていなかったものであるから」、労働時間の認定が不合理でない限り、裁判所による推計を甘受すべき立場にある、という理由です。

 労働時間を適切に管理していない場合には、労働時間の認定で不利になり得ることが明確に示されたのです。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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