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労働判例を読む

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記事一覧

労働判例を読む#542

※ 元司法試験考査委員(労働法) 【国・人事院(経産省職員)事件】(最三小判R5.7.11労判1297.68)  この事案は、トランスジェンダーの職員Xが、勤務先の経産省Yで女性として処遇されるように申し入れてきた事柄や経過について、Yの対応や決定に問題があるとして争った事案です。Xが問題にしたY担当者の言動や、Yの決定(Xの要求を拒否するものなど)は多岐にわたります。  1審はこのうち、女性トイレの使用制限(執務室の上下1階の女性トイレの使用を禁止)と、上司Aの「なかな

労働判例を読む#542

※ 元司法試験考査委員(労働法) 【全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(和歌山)刑事事件】(大阪高判R5.3.6労判1296.74)  この事案は、産業別労働組合Kの組合員Yらが、生コン会社の役員Bらによって、元暴力団員Iを使ってKの支部の調査、ビデオカメラの撮影、組合員の監視、等を行ったとして、Bらに抗議をしに行き、4時間半面談を継続したことが、威力業務妨害罪・強要未遂罪に該当するとして、有罪とされた事案です(1審)。  Yらは、無罪を主張して控訴したところ、

労働判例を読む#541

※ 元司法試験考査委員(労働法) 【国・中労委(ファミリーマート)事件】(東京地判R5.5.25労判1296.5)  この事案は、コンビニエンスストアを統括・運営する会社Fと契約し、コンビニエンスストアを法人・個人として経営する者(や役員)達が労働組合Xを結成し、団体交渉をYに申し入れたところYがこれを拒絶した事案です。  XはYの交渉拒絶が不当労働行為に該当する、と主張して都労委に救済申し立てをしたところ、都労委はこれを認めましたが、逆に中労委Yは、Xの組合員達は労組法

労働判例を読む#540

※ 元司法試験考査委員(労働法) 【国・中央労基署長(クラレ)事件】(東京高判R3.12.2労判1295.94)  この事案は、海外勤務の従業員Kが海外で自殺した事案です。労災の受給資格があるのかどうか、労災保険法3条1項の「適用事業」に該当するのかどうか、が問題となり、労基署Yは適用事業に該当せず、Xに受給資格がない、と判断しました。これを不服とするKの遺族Xが、適用を求めて訴訟を提起しました。  1審(東京地判R3.4.13労判1272.43)に続き2審も、Yの判断を

労働判例を読む#539

※ 元司法試験考査委員(労働法) 【Allegis Group Japan(リンクスタッフ元従業員)事件】(東京地判R4.12.22労判1295.90)  この事案は、会社Xの従業員Dの退職の際、Dの就職をサポートした会社Yの従業員らがXに押しかけて抗議活動を行った事案で、XはYに対し、①業務停止による損害(復旧まで含めると2日だが、そのうち業務停止していた5時間分の人件費相当額)と、②Dの引継拒否(Yの従業員らがDに引継拒否をさせた)による賠償を求めた事案です。  裁判

労働判例を読む#538

※ 元司法試験考査委員(労働法) 【大成建設事件】(東京地判R4.4.20労判1295.73)  この事案は、会社Yの海外研修制度で米国留学した従業員Xが、卒業後にYを退職したため、留学前の約束(留学後5年以内に退職したら費用を返還する、など)に基づいて、YがXに費用の返還を求めた事案です。その際、XからYに対して、賞与や賃金、立替金、退職金などの請求権があったため、それが相殺された残額が請求されました。  裁判所は、Yの請求を認めました。  なお、XからYに対して、出張

労働判例を読む#536

※ 元司法試験考査委員(労働法) 今日の労働判例 【アンスティチュ・フランセ日本事件】(東京高判R5.1.18労判1295.43)  この事案は、フランス語学校Yの教員Xらが、Yに対し、更新後の契約条件ではなく更新前の契約条件に基づく給与の支払い(差額の支払い)を請求し、また、Xらのうちの1名が、Yに対し、担当講座数の減少に対する補償金の支払いを請求した事案です。  1審2審いずれも、前半の、更新前の契約条件に基づく給与の支払いは命じませんでしたが、後半の、補償金の一部の

労働判例を読む#537

※ 元司法試験考査委員(労働法) 【プレカリアートユニオンほか(粟野興産)事件】(東京高判R4.5.17労判1295.53)  この事案は、労働組合と社員Yらが、会社Xによる「過積載」や不当な「配置転換」があった旨を記載した要望書(取引先銀行にXへの働きかけを求めるものなど)の送付や、これらを内容とする街宣活動を、(認定されただけで)5回行った事案で、XがYらに対し損害賠償を求めた事案です。  1審2審いずれも、Xの請求を否定しました。 1.判断枠組み  1審2審いずれ

労働判例を読む#535

※ 元司法試験考査委員(労働法) 【医療法人社団誠馨会事件】(千葉地判R5.2.22労判1295.24)  この事案は、研修医Xが、長時間働いたのに残業代が支払われていない、長時間労働やパワハラによって適応障害となった、と主張して、病院Yに対し、残業代や賠償金の支払いを求めた事案です。  裁判所は、いずれも、その一部を認めました。 1.残業代  ここでは、まず固定残業代の合意の有無が問題になりましたが、残業代部分に関し、判別できなかったという理由で合意がないと判断されま

労働判例を読む#534

※ 元司法試験考査委員(労働法) 【竹中工務店ほか2社事件】(大阪高判R5.4.20労判1295.5)  この事案は、二重業務委託・請負に基づいて竹中工務店Y1で働いていたXが、Y1と、Y1の業務委託先だったY2に対して、直接雇用関係の存在などを主張した事案です。悪質な偽装派遣の場合には、派遣法40条の6により直接雇用関係が成立し得ますが、1審2審いずれも、偽装派遣を認定したものの、同条の適用を否定し、直接雇用関係の成立を否定しました。  特に2審では、二重偽装請負の場合

労働判例を読む#533

※ 元司法試験考査委員(労働法) 【三井住友トラスト・アセットマネジメント事件】(東京高判R4.3.2労判1294.61)  この事案は、一度雇止めされたが、訴訟によって雇止めを無効とされて復職し、その後も専門職として勤務してきた従業員Xが、未払残業代の支払いを会社Yに対して請求した事案です。  1審は、請求の一部を認めました。2審は、1審よりもさらに広く、請求の一部を認めました。 1.管理監督者性  1審で、Xの管理監督者性が否定されたため、2審で、Yは、部下のいない

労働判例を読む#532

※ 元司法試験考査委員(労働法) <<<動画>>> 【医療法人佐藤循環器科内科事件】(松山地判R4.11.2労判1294.53)  この事案は、在職中に死亡した従業員Kの遺族Xが、使用者だった病院Yに対し、夏のボーナスの支給を求めた事案です。裁判所は、Xの請求を認めました。 1.権利性  最初の問題は、ボーナスが権利として確定していたかどうかです。多くの裁判例で、ボーナスは会社がその金額を決定するものだから、決定するまでは権利と言えない、という趣旨の判断をしているからです

労働判例を読む#531

※ 元司法試験考査委員(労働法) 【そらふね元代表取締役事件】(名古屋高金沢支判R5.5.22労判1294.39)  この事案は、介護事業を営んでいた会社の元従業員Xが、当該事業の廃止に伴って退職した後、未払の残業代等の支払いを、元代表取締役Yに対して求めた事案です。  裁判所は、1審2審いずれも、Xの請求の多くを認めました。 1.管理監督者性  最初に議論されている問題は、Xが管理監督者に該当するかどうか、という点です。  ここで裁判所は、①経営者との一体性、②労働時

労働判例を読む#530

※ 元司法試験考査委員(労働法) 【JR東海(年休・大阪)事件】(大阪地判R5.7.6労判1294.5)  この事案は、東海道新幹線の乗務員(運転手、車掌)達Xらが、年休を思い通りに取得できなかったことが違法であるとして、JR東海Yを相手に争った事案で、裁判所は、Xらの請求を否定しました。 1.関連事件との比較  年休取得に関しては、おなじJR東海を被告とする訴訟で、「JR東海(年休)事件」の判決が好感されています(東京地判R5.3.27労判1288.18)。  そこで