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労働判例を読む

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記事一覧

労働判例を読む#569

今日の労働判例 【学校法人A京都校事件】(京都地判R1.6.28労判1302.49)  この事案は、若い女性教員Xが副校長Y1に何度もセクハラを受け、うつ病、PTSD、解離性障害などの症状が発症し、さらに後遺障害が認定され、労災も支給された事案です。Xは、Y1と学校Y2に損害賠償(民事労災)を請求し、裁判所は、その請求の一部を認めました。 1.セクハラの認定  注目される1つ目のポイントは、セクハラの認定です。  ここでは、7つのエピソードについて、一つ一つ、エピソード自

労働判例を読む#568

今日の労働判例 【国・中央労基署長(JR東海)事件】(東京地判R3.6.28労判1302.30)  この事案は、パワハラ(営業運転中の新幹線内で、客への対応の様子が気に食わない同僚をつま先で複数回蹴った)の加害者である従業員Xが、パワハラに対する会社Kの対応(「日勤教育」など)や処分によってメンタル(適応障害)を発症した、として国Yに対し、労災の支給を求めた事案です。  裁判所は、Xの請求を否定しました。 1.業務起因性  本裁判に先立ち、XはKに対して損害賠償を請求する

労働判例を読む#567

今日の労働判例 【久日本流通事件】(札幌地判R5.3.31労判1302.5)  この事案は、残業代の支払いを求める運転手Xに対し、売り上げの10%が支払われており、これが残業代に相当する、等と主張する会社Yが争った事案です。  裁判所は、Yの主張の多くを否定しました。 1.残業代かどうか  売り上げの10%、という計算方法であり、金額が固定されていませんので、「固定残業代」とは言えないかもしれませんが、基礎賃金額と残業時間(労基法所定の計算方法)によらずに計算される手当が

労働判例を読む#566

今日の労働判例 【国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター事件】(東京地立川支判R5.2.1労判1301.31)  この事案は、経営再建に際し、昭和23年ころから国立病院の精神科担当者に支給されてきた「特殊業務手当」(廃止時点での呼称)を病院Yが廃止したところ、それによって不利益を受ける従業員Xらが同手当の支払いなどを求めた事案です。  裁判所は、Xの請求を否定しました。 1.判断枠組み  裁判所は、労契法10条の判断枠組みを少しだけ修正しています。  すなわち、❶

労働判例を読む#565

今日の労働判例 【日本郵便(寒冷地手当)事件】(東京地判Rt.7.20労判1301.13)  この事案は、有期契約者Xが、無期契約者にだけ寒冷地手当が支払われることを違法として、会社Yに対し賠償を求めた事案です。  裁判所は、Xの請求を否定しました。 1.破断枠組み  この裁判例も、多くの裁判例と同様の判断枠組みで判断しています。  すなわち、支給総額など大雑把な比較ではなく、問題となる手当や条件ごとに個別に合理性を検討すること、手当や条件の趣旨から合理性を検討すること、

労働判例を読む#564

今日の労働判例 【オフィス・デヴィ・スカルノ元従業員ら事件】(東京地判R5.11.30労判1301.5)  この事案は、メディアなどで著名な「デヴィ夫人」Xが、自ら雇っていた従業員らを代表して、コロナ禍での在宅勤務を申し入れたYらに対し、Xの社会生活を阻害し、侮辱した、として損害賠償を求めた事案です。  裁判所は、Xの請求を否定しました。 1.申し入れの合理性  Xは、タレントとしての事業に関する業務だけでなく、日常生活での生活補助・家事業務なども行うために、住み込みも含

労働判例を読む#563

今日の労働判例 【グリーンキャブ元乗務員ほか事件】(横浜地判R3.2.4労判1300.75)  この事案は、タクシー会社従業員X1が、上司Yからハラスメントを受けたとして損害賠償などを求めた事案です。特に、上司Yは、X1の主張内容や、これに協力してYにとって不利益となる陳述書を提出したX2・X3が、Yの名誉を棄損するなどとして、損害賠償を求める反訴を提起しただけでなく、会社がY1と和解して、その部分の訴訟が終結したにもかかわらず、Yは、和解せず(したがって、自身に対するハラ

労働判例を読む#562

今日の労働判例 【大阪府・府労委(枚方市)事件】(大阪地判R4.9.7労判1300.58)  この事案は、労働組合に加入できない地方公務員(地公法適用職員)と、労働組合法が適用される現業公務員(労組法適用職員)の両者が加盟する、いわゆる混合組合(Y)が、枚方市Xから、組合事務所の使用に条件(使用目的を組合活動に制限する趣旨の条件)が付され、さらにこの条件違反を理由に明け渡しを求められ、これに対し、❶Xは団交に応じず(団交拒否かどうか)、❷施設の明け渡しを求める(不当な支配介

労働判例を読む#561

今日の労働判例 【伊藤忠商事・シーアイマテックス事件】(東京高判R5.1.25労判1300.29)  この事案は、マレーシア出張中に自動車で移動中に高速道路から自動車ごと転落して重傷を負った従業員Xが、Xの勤務先であるシーアイマテックスY2と、出向元である伊藤忠商事Y1に対して損害賠償を請求した事案です。  1審(東地判R2.2.25労判1242.91、2022読本316頁)は、Xの請求を否定しましたが、2審は、Xの請求を一部肯定しました。ここでは主に、Y1に対する請求を中

労働判例を読む#560

今日の労働判例 【させぼバス事件】(福岡高判R5.3.9労判1300.5)  この事案は、路線バスの運転手らXらが、バス会社Yに対し、折返待機場所や営業所での休憩時間は労働時間であり、その分の給与が未払である、等と争った事案です。裁判所は、Xらの請求の一部を認めました。 1.判断枠組みと判断構造  1審・2審いずれも、最高裁判例を引用して、「労働からの解放が保障されている」かどうかを判断枠組みとしました。すなわち、解放されていれば労働時間でなく、解放されていなければ労働時

労働判例を読む#559

今日の労働判例 【近畿車両事件】(大阪地判R3.1.29労判1299.64)  この事案は、業務指示への不服従、無断欠勤、仕事への不満の表明・公言、挑発的な言動など、問題のある言動を長期間繰り返してきた従業員Xに対する会社Yの解雇処分の有効性が争われた事案です。  裁判所は、これを無効とするXの主張を全て否定し、解雇を有効としました。 1.Xの言動の整理  裁判所は、数多くあるXの問題言動を、以下のように整理しました。 ① グループウェアへの書き込み  XはH20.12.

労働判例を読む#558

今日の労働判例 【弁護士法人アディーレ法律事務所事件】(東京地判R3.9.16労判1299.57)  この事案は、1か月間の期間限定のセールの広告を4年10カ月も掲載したために消費者庁から措置命令が出され、さらに弁護士会から2か月の業務停止処分を受けた法律事務所Yに勤務していた弁護士Xが、業務停止期間中に給与が一部だけ(休業手当相当分だけ)しか支払われなかったとして、差額の支払いを求めた事案です。  裁判所は、Xの請求をほぼ認めました。 1.休業手当と賃金請求権  平

労働判例を読む#557

今日の労働判例 【パチンコ店経営会社A社事件】(横浜地判R4.4.14労判1299.38)  この事案は、社長が死亡した後に、監査役や部長であった社長の甥の双子の兄弟Xらが、社長の妻らが経営することとなった会社Yから、減給(月70万円超→40万円)のうえ、解雇されたため、それらを無効として、得られるべきだった賃金などの支払いを請求しました。  裁判所は、Xらの請求を広く認めました(一部)。 1.労働者性  Xらが労働者ではない、というYの主張が、最初の論点です。経営者なの

労働判例を読む#556

今日の労働判例 【社会福祉法人A会事件】(千葉地判R5.6.9労判1299.29)  この事案は、社会福祉法人の従業員Xが、グループホームでの夜勤時間の給与等の支払いを、会社Yに対して請求した事案です。  裁判所は、Xの請求の一部を認めました。 1.夜勤時間は労働時間か?  昭和時代から、工場の敷地の外れで夜警する警備員や、マンションの住込みの管理人など、拘束はされているが、何かの出来事が無ければやることがないようなタイプの仕事で、空いた時間や「待機時間」が労働時間になる