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労働判例を読む

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記事一覧

労働判例を読む#625

今日の労働判例 【国・札幌労基署長(一般財団法人あんしん財団)事件】(最一小判R6.7.4労判1315.5、破棄自判)  この事案は、従業員に対する労災認定が誤っている(それによって、労災保険料が上がるなどの不利益を被る)ことを理由に、この従業員を雇っていた会社Xが、国と労基署Yらの労災認定の取り消しを求めた訴訟です。  1審は、従業員ではないXが労災認定の取り消しを求めることはできない、すなわちそもそも訴訟を提起することができない、と判断しました(却下)が、2審は、訴訟提

労働判例を読む#626

今日の労働判例 【国立大学法人横浜国立大学事件】(横浜地判R6.2.8労判1315.47〈棄却/控訴〉)  この事案は、大学教授Xが、大学Yによる懲戒解雇が無効であると主張し、争った事件です。裁判所は、Xの請求を否定しました。 1.事案の概要  Yは、英語を使用言語とする学部横断教育プログラム、YOKOHAMAクリエイティブ・シティ・スタディーズ特別プログラム(YCCS)を設置し、様々な国籍の学生が在籍しています(12名)。Xは、YCCS設立から関り、YCCSを主たる業務

労働判例を読む#623

今日の労働判例 【佐山鉄筋工業・海外事業サポート協同組合事件】(大阪地判R5.9.28労判1314.80、一部認容・一部棄却、控訴)  この事案は、ベトナム人技能実習生Xが、会社Y1と管理団体Y2に対し、在留期間延長のための必要な手続きを行わなかったことなどにより、在留期間が延長されずに勤務を継続できず、さらに、不法滞在として30日間収容されたことなどに基づく損害賠償を請求した事案です。  裁判所は、Xの請求を一部認めました。 1.Yらの義務  ここでは、技能実習第1号ロ

労働判例を読む#622

今日の労働判例 【東京税理士会神田支部ほか事件】(東京高判R 6.2.22労判1314.48、X控訴分:一部認容(原判決一部変更)・一部棄却、Y控訴分:棄却、Y上告・上告受理申立)  この事案は、税理士会Y1の会員(税理士)・役員であるY2から、Y1に勤務するXが性的暴行を受けたことと、その後の主にY1の対応・体制の不備を理由に、損害賠償を請求し、Y1による解雇を無効と主張したのに対し、Y2がXに対して反訴を提起して、記者会見でY2の名誉を棄損したとして、謝罪広告と損害賠償

労働判例を読む#621

今日の労働判例 【AGCグリーンテック事件】(東京地判R 6.5.13労判1314.5、一部認容・一部棄却・一部却下、確定)  この事案は、一般職の女性従業員Xが、同じ正社員でありながら、男性従業員や総合職従業員との間に不当な差別がある(住宅制度、賃金、人事考課)として、会社Yに対し、同様の処遇や損害賠償などを求めた事案です。  裁判所は、Xの請求の一部を認めました。 1.均等法  正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」ですが、均等法

労働判例を読む#620

今日の労働判例 【ネクスコン・ジャパン事件】(大阪地判R 3.3.12労判1313.98、棄却、控訴)  この事案は、経営管理部長Xが、未払賃金(特に、未払残業代)の支払いなどを会社Yに対して求めた事案で、裁判所はXの請求を否定しました。 1.管理監督者該当性  会社は、Xが管理監督者(労基法41条1項2号)であったとして、残業代を支払っていませんでした。  ここで、特に注目されるのは、判断枠組みです。裁判所は、以下の3つの判断枠組みで議論を整理し、総合判断の結果、管理監

労働判例を読む#619

今日の労働判例 【日本コーキ事件】(東京地判R 3.10.20労判1313.87、棄却、控訴)  この事案は、オーダーメイドの食用油濾過機を製造する会社Yが、即戦力となる溶接工(経験者)の募集に応じて採用されたXが、試用期間中に解雇された事案で、Xは解雇を無効と主張しましたが、裁判所はXの主張を否定しました。 1.中途採用と判断枠組み  試用期間の法的な意味については、既にルールとして確立しているものを本判決も採用しています。すなわち、解約権が留保された労働契約と位置付け

労働判例を読む#618

今日の労働判例 【JPロジスティクス(旧トールエクスプレスジャパン)事件】(大阪高判R 5.7.20労判1313.78、棄却、上告・上告受理申立、上告棄却・不受理)  この事案は、配送担当者たちXらが、会社Yの給与体系が違法であるとして、支払われるはずだった残業代などの支払いを求めた事案です。  1審2審いずれも、Xらの請求を否定しました。 1.背景  ❶出来高払制の給与から残業代を控除する給与体系の適法性については、❷固定残業代の適法性と同様の問題があります。計算上支払

労働判例を読む#617

今日の労働判例 【学校法人コングレガシオン・ド・ノートルダムほか(明治学園)事件】(福岡地小倉支判R 5.9.19労判1313.54、一部認容・一部却下、控訴)  この事案は、解雇無効の判決確定により復職した教員Xが、実際にはなかなか仕事を与えられず、組合交渉を経てやっと仕事が与えられた際には、北九州の学校ではなく福島の学校での勤務が命じられたため、この配置転換が無効である、等と主張し、争った事案です。  裁判所は、Xの請求を概ね認めました。 1.地域限定合意  けれども

労働判例を読む#616

今日の労働判例 【野村證券・野村ホールディングス事件事件】(東京高判R6.2.8労判1313.38、棄却(1審維持)、上告受理申立)  この事案は、ITコンサルティング会社A とcontractor agreementを締結して勤務していたXが、Aを業務委託先とする業務委託元野村證券等Yらで、非常時の事業継続に関する役務を提供していたところ、派遣法40条の6の1項2号に該当するとして、Yらとの間の直接雇用関係の成立を主張した事案です。  1審2審いずれも、Xの請求を否定しま

労働判例を読む#615

今日の労働判例 【任天堂ほか事件】(京都地判R6.2.27労判1313.5、一部認容・一部棄却、控訴)  この事案は、派遣会社Aに雇用され、任天堂Y1に派遣(紹介予定派遣)された2名の看護師Xらが、Y1の産業医Y2からパワハラを受けた、Y1がXらの採用をしなかったが、Y1とXらの間には雇用関係が成立している、などと主張して争った事案です。  裁判所は、Xらの請求の一部を認めました。 1.パワハラの判断基準  パワハラについて、形式的には労働施策法30条の2のパワハラの定義

労働判例を読む#614

今日の労働判例 【千代田石油商事事件】(東京地判R 3.2.26労判1312.73)  この事案は、特殊な運搬船舶に、ガスや石油を積み込んだり下ろしたりする作業に関し、立ち会って通訳業務を行う会社Yが、かかる業務を行う従業員Xから、残業代や休憩時間中の勤務などに関する賃金が一部未払であるとして、その支払いを求められた事案です。  裁判所は、Xの請求の一部を認めました。 1.労働時間の認定  ここでは、労働時間がしっかりと管理されていない状況で、何に基づいて始業時間・終業時

労働判例を読む#613

今日の労働判例 【国立大学法人東京大学(医局内定取り消し)事件】(東京地判R 3.11.9労判1312.70)  この事案は、東京大学附属病院Yの医局から就職内定をもらった医師Xが、内定を取り消されたところ、それを無効として、XY間に雇用契約があることの確認を求めた事案です。  裁判所は、Xの請求を否定しました。 1.誰が使用者か  裁判所は、医局が使用者であって、Yではない、としました。医局は、私的な団体であり、Yの部門ではない、というのがその理由です。  Yと記載され

労働判例を読む#612

今日の労働判例 【ハイデイ日高事件】(東京地判R 5.2.3労判1312.66)  この事案は、職場でハラスメントを受けたと主張する従業員Xが、ハラスメントをしたとする同僚の従業員Y個人を相手に、損害賠償を請求した事案です。  裁判所は、Xの請求を否定しました。 1.ハラスメントの認定  Xは、6つのエピソードをあげ、ハラスメントを受けたと主張しています。  けれども裁判所は、そのうちの5つについては、Yのハラスメント行為が認定できない、として、Xの主張を否定しました。