白い空間での出来事【掌編小説/夏ピリカお礼】
たとえば鏡という概念を
知ってしまった人類は
それを無いものとして扱えない
与えられた自由と
忘れられないという不自由さ
わたしは白い部屋の中で
あなたとの関係について
考察する
それは無いものとして
扱えるはずもない事例
左右の壁には大きな鏡
わたしを映す鏡に
もう価値などないのだけれど
わたしは浮遊しながら
その可能性について考える
合わせ鏡の中に
たくさんのわたし
果てしないわ
理論上は永遠
つまりあなたは永遠にわたしのもの
鏡に触れる
するるぅと手が通り抜ける
そこにいたのね
温かくて大きな掌
ああ……愛しています
*M*I*R*R*O*R*
美しく理知的な妻。
しかし、僕に触れた途端、別の人格かと思うほど理性を失うことがある。その傾向が日に日に強くなってきた。
初めて目が合った瞬間から、僕の目には君以外のものが映らなくなり、君の明度の高い透けるような肌は、周りで起こる事象をも反射し、僕らの前には何も存在しないも同然だった。
僕を愛し過ぎた妻。
妻を愛し過ぎた僕。
その度合いは時間の経過とともに増幅していき、僕らが互いに注ぐ愛は鏡のようにシンクロしていった。
けれど、僕はもうすぐ妻に殺される。
これまで何度も手をかけられたが、僕が抵抗したせいで妻は果たせないでいた。
でも、もう抗えない。なぜなら、それは僕が望んでいることでもあるからだ。
抵抗したのは遂げたあとの妻を一人にさせたくなかったからで、その問題は僕のプログラムによって、まもなく解決するだろう。
最期は、君の悦びに満ちた顔を見るために、できるだけ苦しみに耐えるよ。
そうして僕は、腕に力を込めるため次第に歪んでいく美しい君の顔を見ながら死ぬんだ。
いま僕は、白い部屋を取り囲む薄暗い空間で、マジックミラー越しに妻を鑑賞しながら、その時を待っている。
一度手にしたものへの執着か。
自分のものだけであってほしいと願う。
愛情の原点。
単なるエゴ。
だから、これは必然の選択。
人間は不可解な生き物。
思うようにはならない。
思うようには愛せない。
白い部屋は最後の贈物。
僕ら以外は存在しないこの空間。
跡形もなく消えることができる設計。
白くて形の良い妻の両腕が、細工をした鏡から伸びてきた。
ああ……妻の手。
指を絡め、口に含み、そして妻の手を僕の首へと伝わせた。
僕の心臓は、初めて生の喜びを主張するかのように力強く脈打った。
生から死への変換。
ただそれだけのこと。
視界の片隅に、妻の次に美しい……
青い地球……
見え……た。
僕ら……
*S*P*A*C*E*
©️2022 ume15
お読みくださりありがとうございます。
前回に引き続き、「鏡」という言葉を含んだ小説を書きました。
先月、夏ピリカグランプリ (テーマ:かがみ)に『マイナンバーミラー』という掌編小説を応募させていただきました。
じつは、初めてだったのです!
(なにがー、って感じでしょうけれど、聞いてやってくださいませ)
決められたテーマに沿って小説を書く、というのが初めての体験だったのです。
( 2作品書いていたので、今回は応募しなかった方の作品を投稿してみました)
とにかく新鮮な体験でした。
一つのテーマをもとに、想像を膨らませる時間が楽しかった一方で、物事に対して思っていた以上に固定概念が強い、と気づき、また違う角度から物事を見ることの難しさにも直面したしだいです。
(話が硬くなってきたぞ ume。なにが言いたい?)
つまり、勉強になった、ということが言いたいのです!
もしかして、これを読んでくださった方の中には、前回の冬ピリカグランプリにも応募していたのでは、と覚えてくださっている貴重な方のために白状しますと、あの拙作は過去の作品を加筆修正して応募したのです。
さらに白状すると、コンテストやコンクールと名が付くものに応募したのも、前回の冬ピリカグランプリが初めてでした。
それなのに、前回は「すまスパ賞」をいただくという驚愕、困惑、そして大きな誉れを頂戴しました。
苦手な「文章を書く」ということに挑戦したことへの、ビギナーズラックという神からの贈物だったのかもしれません。
長々とおしゃべりしてしまいましたが……
(わたくし、おしゃべりは苦手な方です。でも、今日は感謝の気持ちを伝えたいので、もう少しがんばる!←こどもか……)
まとめます。
ピリカグランプリは、私にとっていつも初めての体験を与えてくれる場であり、拙い文章を読んでもらえる貴重な場となりました。
ピリカさんをはじめ、運営に携わっている方々に心から感謝申し上げます。
こちらの記事は、ピリカさんの熱い思いが語られていて、本当に頭が下がりました。
創作の発表の場を提供してくださり、ありがとうございます。
あわせて、この度の夏ピリカ “私的10選” に、ume15の作品を選んでくださったクリエイターの武川蔓緒さん(この方、多才です。いつか機会があったら語ります)にも謝意を申し上げます。
拙作、2022年夏ピリカ、冬ピリカへの応募作品はこちら。よろしければ。
文章を書くのも読むのも遅く、いつも一人異空間に身を置き(なにを言いたいのか不明だぞ)、それでも日々自分を高めていきたいと足掻いております。
恐ろしくスローなペースのわたくしですが、これからもどうぞよろしくお願いします。
こちらでも活動しております。
Instagram:@15ume15
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