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「いじめ」や「差別」がない学校

 先週、東京都内にある公立小学校を訪問した。この学校では、在籍する児童のうちの半数以上が「外国にルーツがある子どもたち」なのだそうだ。

 一般のクラスの授業を参観させてもらうとともに、来日して間もない外国ルーツの子どもたちへの「日本語教室」の様子、職員の指導体制や外部機関等との連携、校内の環境などについて見聞きするなかで、たくさんの驚きや発見があった。

 とりわけ印象に残ったのは、訪問直後に校長先生から伺ったお話のなかに、
「この学校には『いじめ』や『差別』がまったくないんですよ」
 という言葉があったことだ。

 校長先生は、こうも言っていた。
「この学校に着任する際、前任の校長との引き継ぎのなかで『「いじめ」や「差別」がない』と聞いたとき、俄には信じられませんでした。これまでに勤務してきた学校では、とても考えられないことでしたから。でも、実際にこの学校に来てみたら、それは本当でした」

 ・・・私自身も、最初はこの言葉が誇張ではないかと感じていた。
 経験上、「『いじめ』や『差別』を許さない学校」というのは存在しても、それがまったない学校があるとは思えなかったのだ。

 けれども、実際に子どもたちの様子を見て、校長先生の言葉に納得をした。

 たとえば、1年生の教室。連絡帳にメモをするのに時間がかかっている子がいても、誰も急かしたりしない。そして、周りの子が書き方を教えてあげている。

 あるいは、4年生の体育の授業。野球型のゲームで誰かが空振りをしたりエラーをしたりしても、みんなニコニコしながら励まし合っている。

 外国にルーツがある子どもたちの新入学や転入学が多くあるこの学校では、「他の子と違うこと」や「何かができないこと」は当たり前なのだ。

 当たり前のことなのだから、「いじめ」をしたり「差別」をしたりする必要もないのである。

 もちろん、それが当たり前のことになるまでには、教職員や関係者の努力、試行錯誤、積み重ねがあったのだろうと思う。


 2021年に文部科学省が行った「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」によれば、公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数は、約5万8千人となっている。

文部科学省「外国人児童生徒等教育の現状と課題」(2022)

 全国の公立小・中学校の数は約2万9千校だから、平均をすれば1校あたり2人の「日本語指導が必要な児童生徒」が在籍していることになる。

 しかし、実際には偏りがあり、全国の公立小・中学校のなかで「日本語指導が必要な児童生徒」が在籍しているのは29%に過ぎない。71%が「在籍なし」となっているのだ。

 だが、このペースで「日本語指導が必要な児童生徒」が増え続けていけば、この71%の学校も遅かれ早かれ「初めて」もしくは「久しぶりに」こうした子どもたちを迎え入れていくことになるだろう。

文部科学省「外国人児童生徒等教育の現状と課題」(2022)

 そのとき、迎え入れる側の児童生徒や教職員が、

「他の子と違うこと」や「何かができないこと」は当たり前なのだ。

 という意識をもつことができるだろうか?


「外国にルーツがある子どもと学校教育」について考える際、そうした子どもたちが多く在籍している学校のことがクローズアップされる。それは当然のことだ。

 だが、「在籍していない」学校のほうにこそ、実は根深い問題が潜んでいるのかもしれない。

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