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手紙に染みた時間と距離の話

ちょうど一年前の春、

私は留学のため日本を発った。


フィジーのホームステイ先で書いたポストカードや、
オーストラリアで仕事の合間に書いたもの、
ニュージーランドでの一人旅で散歩をしながら撮った写真たち、
この一年間で私は、30通あまりの手紙を日本へ送った。


手紙を書くということ。
今までの私にとっては、相手に伝えたいメッセージが明確なことが多かった。

誕生日には日頃の感謝を伝え、
クリスマスや年末には相手の幸せを祈る。

しかしこの日常の中で生まれた手紙たちは、
殴り書きのメモのように、私の気持ちをまっすぐに吐くものだった。

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路面電車が走る街で、停留所でギターを持った女性が立っている。
ベンチに腰掛けその女性の声に聞き惚れ、勇気をもらったこと。
一人でいる生活に慣れたり、友人といる日本の時間が恋しくなったり、
でも帰国して胸を張れるほど自分が成熟していないのを感じて心がぐちゃぐちゃになったこと。
図書館で日本の小説を見つけ、週末のカフェで静かにそれを読んでいるときが一番落ち着けたこと。


留学先で起こったこと、客観的に見たこと、これからしたいこと、
あなたと会ったときにしたいこと、感情の起伏までもを、
私は何も考えずにつらつらと綴った。


返事はしてくれなくていい。
忘れてくれてもいい。
ただ読んでいてほしかった。


この感情に名前をつけたい。
私は手紙を書くことが、本当に好きだと思った。


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「ポストの中に、チラシと紛れて手紙が入ってるのが嬉しかった。」と君が言ってくれる。

私は先月、約一年ぶりに帰国し、その手紙を送っていた友や家族と再会した。
留学の終わりと、長いはじまりの訪れ。
遠くから見ていた夢が、現実と交わる瞬間。

距離が近くなった今から、
私は“伝えること”を怠るような気がする。

『会おうと思えば会えるから』

一年前の私からしたらご無沙汰で喜ばしい言葉だったが、
私はこの距離を嫌いになると思う。

なんなら当分は、
『会えない距離の方が美しい』
と思っていると思う。

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私はこの1年のこともちゃんと大切にしたい。
終わりが来て、片付けて、準備をして・・・
どれだけ物理的距離が近くなろうと
私があなたへの尊敬と信頼を忘れてしまわぬように
私は手紙を書き続けようと思う。


「季節の変わり目が好きなんだ。」「お洒落な花屋を見つけたんだ。」


記憶を切り取るように写真を撮って、

そわそわしながら現像を待つ。

なんとなく書きたくなったら言葉をまとめて、

流れるようにあなたに送るよ。


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