久保田一竹の世界はこんなにも凄かった
夏の行楽シーズンが過ぎ、少しだけ静けさが戻ってきた山梨県の富士五湖。その一つ、河口湖湖畔に佇む「久保田一竹美術館」へ行ってきました。
20年の研究が花開いた「辻が花」
久保田一竹(1917~2003)とは
その名を初めて聞く方も多いかと思いますが、彼は着物の世界では辻が花で良く知られている人物です。
辻が花とは、絞り染めを主体に刺繍や絵などを用いて様々な絵模様を表す着物の染物の技法です。
室町時代に栄えた染物で、江戸時代の初期に衰退し姿を消してしまった幻の染物と言われています。
その理由は定かではありませんが、一説によると友禅染の出現があったと言われています。今でも着物の代表的な染めとして知られている友禅染めは、それまでは不可能であった豊かな色彩で、風景や動物を自由に表現できることで人気を集めました。
久保田一竹は14歳から染色の世界に入り、若くして友禅染で成功していました。20歳の時に東京国立博物館で辻が花の小裂(反物残り裂)に出会い、その美しさに衝撃を受けたそうです。
その後戦争でシベリア抑留を経て、「幻の染物の研究に捧げる」と決意し、赤貧の時代を経て60歳の時にようやく独自の技法を確立しました。
20年かけてつくり上げた作品を「一竹辻が花」と命名し、その作品は日本のみならず広く海外でも紹介され、評価され続けています。
「一竹辻が花」だけを常設するこの美術館、数年前に訪れた時は大雨が降っていて、惜しくも建物や庭を見ることが出来ませんでした。今回は作品と共に美術館全体を楽しんでみたいと訪れました。
広大な日本庭園とガウディ思わせる建築
想像以上に自由で美しい
〝着物=和の美術館〟をイメージすると見事に裏切られるエントランスです。
主に東南アジアから持ち帰った久保田一竹のコレクションが、庭園と建物のあちらこちらに散りばめられています。
中に入ると、一気に日本らしい自然を感じる庭園が広がります。
ここはもとはカラマツの林だったそうですが、富士山の溶岩や多種多様な木々を持ち込んで、一から作り上げられた一竹の世界が広がっています。
30年の時を経て、「今が一番成熟して美しい」と美術館の方の言葉。
庭園を進んでいきます。
苔むした石の階段、ところどころに点在する壺など、行く先々で目を楽しませてくれます。
階段を上って少し高台へ。
この木製の椅子はアフリカで使われていたベッドだそうです。
美術館の入口が見えてきました。
まるでガウディ建築⁉
久保田一竹はアントニオ・ガウディが大好きであったそうで、スペイン・バルセロナでも個展を開いています。
「ここが本当に着物の美術館?」と思ってしまうぐらい、日本らしさを一切感じないのも面白いですね。
入場チケットはここで購入します。
入口の床に埋め込まれていた沢山の円。
コレは何であったのでしょうか。
内部はガウディ建築と同じく、すべてカーブの壁です。
ミュージアムショップを通って、中庭へ。
外からの眺めは、ガウディのグエル公園そのものです。
中庭の階段からの全景です。
よくぞ造った!と言いたくなるような、風景が広がっています。
お天気が怪しくなってきたので、作品を見る前に、中庭から登った先の庭園へ向かいます。
階段を上っていくと、再び和の世界が広がっています。
さらに先に行くと「散策路 もみじ谷・慈母像窟」の看板。
少し進むと、エントランスにあったような門があります。
もみじ谷…ここの紅葉は久保田一竹が植えたものだそうです。
ここが慈母像窟です。
石段を2,3段下がったそこは、ひんやりと静寂な空間です。
再び広い庭園を散策します。それにしても広い!
四季折々の自然が楽しめそうです。
それでは、そろそろ展示室へ向かいましょう。
左下に僅かに見える建物が展示室です。
展示室はヒバ材を組んだ、日本古来の建築と西洋のログハウスを組み合わせたような堅固な建築物です。
残念ながらここからは写真がNG。
唯一O.Kの展示室内の小さなカフェでは、日本庭園を望みながら抹茶がいただけます。
何十もの工程を経て作り上げられる作品は、息を吞むほどの美しさ。
久保田一竹の美への飽くなき探求心と絶え間ない努力が、作品となって輝いてる空間です。
お見せできないのが残念!
今回は画集から少しだけお届けします。
もはや着物ということを忘れてしまうほど、繊細で創造的な作品です。その多彩で美しい作品は、見る人を飽きさせることがありません。
美しい一竹の世界を堪能して外へ出ると、
いつのまにか陽ざしが降り注いでいました。
買えり道、緑の小道を下っていると、
岩陰のお地蔵さんがウインクして見送ってくれました。
「着物」の枠だけに収まらない一竹の世界、
いくつもの美しさを体感できる美術館です。
最後まで読んでいただき有難うございました。