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Yの謎 -富山の縄文時代-

東京から北陸を目指すと、新幹線は立山連峰を左手に大きく回り込むようにして進みます。
車窓からは未だ冠雪した険しい山並み、その雄大な羨望は〝富山までやって来た!〟と感じさせてくれるものです。
そして同時に〝ここで暮らす人々にとって立山連峰はどんな存在であったのだろう?〟といつものように太古の昔に思いを馳せてしまいます。

先週、金沢でポケモン×工芸展を堪能した後、今まで通り過ぎていた立山連峰を望む〝富山の縄文時代〟を探る旅へと向かいました。



最初に訪れたのは金沢から20㎞程にある富山県小矢部市、普通電車で僅か20分ちょっと。石川県との県境の街からは、富山のシンボル〝立山連峰〟はまだ望むことはできません。


ここ小矢部市「桜町遺跡」は、縄文時代の建築物や木材加工の様子がわかる多くの遺物が出土していることで知られています。

東西約1㎞、南北約600mと大きな遺跡は、縄文~江戸時代の複合遺跡ですが、縄文時代早期~晩期(今から約8000~2300年前)の遺物が特に多く出土しています。
バイパス工事に伴って発見され、谷になっていた部分が水に浸かっていた為に、通常だと空気に触れて腐ってしまう木製品などが腐らずにその形をとどめていました。



その当時の様子を知ることができるができるのが「桜町JOMONパーク」
高床建物環状木柱列かんじょうもくちゅうれつが再現されています。

左:高床建物、右:環状木柱列かんじょうもくちゅうれつ

高床建物は床が地面よりかなり高く作られている建物で、その多くは〝食物を貯蔵する倉庫〟であったと考えられるようです。が、この遺跡の高床建物は〝神をおまつりする場〟として使われていたのではないかと考えられています。



環状木柱列かんじょうもくちゅうれつ
は、石川県と富山県だけに出土する縄文時代晩期(今から約2700年前)に作られた〝柱を環状に立てた〟遺構です。

使われている10本の木材はクリの木、どの柱も丸太ではなく、かまぼこ状に縦に割られていて、そのうちの8本は平らな面を外側にして立てられています。丸みのある面を外側にしている2本が、環状の入り口と考えられています。
柱の上部がどのようになっていたかは分からず、環状に囲まれた中に炉や墓などは確認されていないことから、〝何らかのマツリを行う施設〟であったのではないか、と考えられています。


遺跡から出土した木材などは、小矢部市ふるさと歴史館(考古資料館)で見ることができます。

これは高床建物の柱材であったもので、ほぞ穴・えつり穴が施されているものです。
ほぞ穴(柱に穴を開けそこに別の木材を差し込んで、柱と柱を連結させるもの)、えつり穴(柱にくぼみをつけて壁の横材を差し込んで固定するもの)は、どちらも日本古来の伝統建築として伝わっているものです。


そして、近くに横たわっている柱が今回の主人公『Y』
その名の通りY字型をしたクリの木材は、全国でここだけで見つかっている珍しいものです。
縄文時代中期~後期(今から約4000年前)頃のものと考えられ、長さ2.5m、太さ32㎝と非常に大きい木材です。

同様のものがもう一本あり、二本が重なって川の中から見つかりました。


立てると、こんな感じになるようです。
Yの字の先端部には窪みがつけられ、その下から股にかけては丁寧に平たく削られています。しかしそれは片面だけで、裏面は皮を剥いで枝をはらった状態のままになっています。

パンフレットから


こちらがもう1つの『Y』
出土時の状況から、〝何かに使用された後に水に浸けられていた〟と考えられるそうです。
じっくり見ていると…どこか人間が横たわっているように見えてくるような。


とても大きくしかも片面だけが丁寧に加工されていることから、祭祀などの際に立てられた標柱ひょうちゅうのようなものであった可能性も考えられるようですが、はっきりとは分かっていません。


これに関連するかは分かりませんが、もう一つ珍しいものが!
トーテムポールの様なものであった可能性の〝木材〟と〝その木材を立てた穴〟が見つかっています。
その目的ははっきりしませんが、北アメリカのトーテムポールを思いおこすと、出自しゅつじや出来事を刻んだ柱であるなど…人々の精神性を表すものであった可能性があるようです。


これらの木材
は谷に流れる水によって奇跡的に保護されていたものです。
全国的にもこのようなものがあったのか、本当にここだけのものなのか?今となってはそれを知るすべはなさそうです。


謎の『Y』
の正体は、
祭りの時の標柱ひょうちゅうや建築部材、運搬用具、祭祀の人形等々…と、
今は〝見た人の想像〟に任せられています。



謎の『Y』が存在した縄文時代、残された木材が語るには〝ここは石川県と同じ文化圏であった〟ということのようです。

立山連峰を望む〝富山の縄文時代〟に出会うために、旅は続きます。


参考図書
小矢部市の縄文遺跡 パンフレット

最後までお読みくださりありがとうございました。




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