見出し画像

ポケモン✕工芸 これぞ日本のなせる技!

〝あのポケモンと日本の工芸が出会う〟
日本の工芸会を代表する人間国宝から注目の若手まで20名の作家が、ポケモンとコラボレーションする…聞いただけで、何かが起こりそうな予感です。
直接見て感じてみたい、と、石川県金沢市の国立工芸館で開催中の「ポケモン×工芸展」へと向かいました。


会場となっている国立工芸館は、2020年に東京から石川県金沢市に移転・開館した近現代工芸・デザイン専門の美術館。趣ある洋風建築は、明治後期の木造の旧陸軍施設を移築・復元したもの。
快晴の朝、既に多くの人が詰めかけていました。


さあ、いよい展覧会場へ。

受け継がれてきた伝統の技術、作者の哲学が映し出される工芸作品とポケモン、異色の融合はどのよう形になって現れるのでしょうか。
残念なのは、私がポケモンにも工芸にもあまり詳しくないこと…ですが分からないなりに〝なにか凄い〟ということは肌で感じられそうです。
工芸の第一人者たちが、真剣にポケモンと向き合い唯一無二の表現を追い求めた作品とは。
3つのカテゴリーに分けられたポケモン×工芸の作品を一緒に楽しみましょう。

① すがた ー 迫る!

『金工』 吉田泰一郎

迫力ある造形は、普段は動物をモチーフにした作品を手掛けている作家によるもの。サンダースに用いられて鏨は〝豊作の象徴である雷〟がイメージされるなど、ポケモンの性質や特徴と伝統的なデザインとが重ね合わせられています。

左:サンダース 右:イーブイ


『金工』 満田晴穂

金属で各パーツが動かせる動物を作る〝自在置物〟は今や希少な技術です。その第一人者がポケモンの世界に思いを巡らせ、蜂・蝶のファルムを探り、物語性がありながらリアリティ感溢れる作品を作りあげています。

自在コクーン・スピアー


『木工』 福田亨

木象嵌を主体とした立体造形物を展開している作者。木の素材、組み合わせを駆使して作られたアリアドスは、どこか愛らしい雰囲気と温かみを感じます。驚くことに、アリアドスがとまっている畳も木を彫り出して作られています。

Floor


『陶磁』 今井完眞

生き物が持っている〝らしさ〟を陶で表現する作家が、ポケモンというフィクションの〝らしさ〟を取りこんだ作品。釉薬や金彩を施した美しい輝きが、生き生きとしたゼニガメを誕生させています。

ゼニガメ


『陶磁』 葉山有樹

古今東西のさまざまな文化や歴史、物語を緻密な描写で表現する作風で知られる作家は、自信の「森羅万象図シリーズ」の中へ500匹を超えるポケモンたちを登場させています。

森羅万象ポケモン壺

壺の表面に余すことなく描きこまれた無数の植物とポケモンたち。


② ものがたり ー 浸る!

『漆工』 田中信行

ポケモンの技の1つ「かげうち」を漆黒で表した2mを超える作品。透明感のある艶やかな表面の中には幾通りもの黒色が存在し、見るほどに吸い込まれるような、まるで物体でないような感覚を覚える作品です。

無題


『漆工』 池田晃将

螺鈿の輝きがきらめく茶器は、漆塗と3D CADで極小サイズにカットさ螺鈿のパーツで作られています。古代文明の文字に似た姿をした28種類のポケモン〝アンノーン〟が表されていて、これを知っていると文字を読むことができるそうです。

未知文黒御影茶器


『ガラス』 新實広記

インスタレーションの作品を多く手掛ける作家による、エッジの効いたガラスを用いたポケモンの技「つららおとし」。繊細なようで鋭く大胆、静寂のようでスリリングな不思議な空間を作りあげています。

Vessel-TSURARA-


『ガラス』 池本一三

ポケモンの冒険描いた作品は実に色彩豊か。色としてはたった8色しか使っていないというのには驚かされます。丹念な工程と微妙な調整が作り出したガラスの中のファンタジー。

湖のほとりで


『染織』 城間栄市

沖縄で行われている型染「紅型びんがた」。沖縄では馴染み深いアダンの葉を1単位とするパターンに、南国を舞台にしたポケモンたちが生き生きと描かれています。鮮やかな色合いと大胆な配色に、沖縄の豊かな自然を感じます。

琉球紅型着物「島ツナギ」


③ くらし ー 愛でる!

『金工』 桂盛仁

「彫金」の重要無形文化財保持者(人間国宝)が手掛けたお香を入れる〝香合〟。〝ひこう〟タイプのポケモン・ホウオウが輝きを放ちながら飛び立つさまは、正に伝統の技を感じる作品です。

香合 ホウオウ


『漆工』 田口義明

漆のしっとりした器面に〝タッツー〟が浮遊しているように描かれている作品。漆、蒔絵、螺鈿の卓越した技によって作り上げられた風格ある美しさと作者の世界観が迸っています。

乾漆蒔絵螺鈿蓋物「遊」


『陶磁』 桑田卓郎

手作業ではできない岐阜の量産技術を生かしたカップに、カラフルな色化粧、ぽってりとした釉薬、金彩、プラチナ彩をプラスし、最後にピカチュウを最新技術による転写シートで施した作品。伝統だけでない陶磁の新しい可能性を感じます。

カップ(ピカチュウ)


『陶磁』 植葉香澄

ポケモンの全身に、余すことなく色とりどりに施された文様の数々。水玉に渦巻、青海波の文様の美しさと、その意味を読み解きながら鑑賞もできる、楽しい作品です。

水文メッソン


『陶磁』 桝本桂子

〝ポッチャマ〟が器の中から外から…器の枠にとらわれることなく自由に配置されている躍動感あふれる染付です。あしらわれた文様と潤むような艶と質感が、染付の醍醐味を教えてくれるようです。

ポッチャマ/染付皿


『染織』 水橋さおり

帯を結んだ時に〝メガデンリュウ〟が表れる友禅帯。濃い藍色が奥行き感を、金色の鋭い閃光が広がる空間を醸し出し、今にも〝メガデンリュウ〟が飛び出してきそうな躍動感を感じます。

友禅帯「閃光」


ご紹介したのは展示の一部ですが、どれも珠玉の一品。
驚きと感動を繰り返しながら、作品を見て回りました。

日本の工芸と聞くと〝伝統〟や〝技術〟と言った言葉が真っ先に思い浮かびますが、〝多様さ〟〝奥深さ〟更には、〝個々の個性〟〝新たな試み〟というキーワードも不可欠であることを教えられます。

そして何と言ってもポケモンと日本の工芸…この異次元の出会いが、あまりにもしっくりと融合していることに驚かされました。

日本が誇るポケモンと工芸。どちらも妥協なき姿勢で育まれてきた文化であり、多くの人に愛される身近な存在です。
日本のモノづくりに〝新たな息吹が吹き込まれた〟と感じずにはいられない、感動と期待が入り混じった時間を過ごすことができました。



参考資料
ポケモン×工芸展 公式図録

最後までお読みくださり有難うございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?