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縄文人の願いが託された「ミス石之坪」に会いに行く

誰が、何のために作ったのか?縄文の大きな謎の縄文土偶。彫刻のようなものあり、思わずクスッと笑ってしまうものあり、ちょっと怖いものありといろいろ。

”ミス”のネーミングに魅了されて訪れたのは、山梨県の韮崎市民俗資料館。
少し山道に入ったそこは、ここに名高き”ミス”が?と思えるほど静かに佇む資料館でした。隣地に、NHK連続テレビ小説「花子とアン」で、主人公村岡花子の生家として撮影に使われたロケセットがあり、「赤毛のアン」ファンがよく訪れているようです。

「花子とアン」は、『赤毛のアン』シリーズの翻訳者、村岡花子さんが主人公のテレビドラマ。原案は孫の村岡恵理著『アンのゆりかご/村岡花子の生涯』。

資料館に入ると石器時代から昭和時代の貴重な遺物が、所狭しと展示されています。
縄文時代コーナーに縄文土器が整然と並ぶ中、ひときわ立派なケースに一人スポットライトを浴びていたのが「ミス石之坪」。
ミスに相応しく、どこか神々しさを感じる!
なんとイギリスの大英博物館への出張経験もある国際派でした。

「顔面把手様土偶」縄文中期 山梨県韮崎市石之坪遺跡出土

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ちょっと気位が高そうで、つんとすましているところも魅力的。
稀にみる美しい白い肌は、極めて良質のきめ細かい粘土から作らているそうです。更にそのきめ細かい土台に、細密な文様がシャープに彫られています。
昔から、「白い肌は七難隠す」と言われるように、白い肌は女性のあこがれですが、土偶の美しさも「白い肌」から⁉でしょうか。

写真では解りませんが、僅かに赤い彩色が残っている部分があります。この彩色はウルシの木から採取した漆塗によるもの。漆塗は、キレイな色彩というだけでなく、防虫や防腐、接着剤などいろいろな役割を果たします。
手間暇かかる漆塗は、特別な日に使う土器や副葬品、土偶などに施したと思われます。

髪型は、山高く結われてキレイにカールされています。こちらも大変丹精な丁寧な作りとなっています。

首の下にあるのは、大きなペンダントでしょうか?
彼女には、大きなヒスイや黒曜石がお似合いですね。
*黒曜石については「縄文人も輝く宝石が好き」もご覧ください。

現在の身長は12センチ、左手を含む茶色の部分は想像でつくられたもので、本来は30センチぐらいの大きな土偶であったとされています。

上質の土で作られ、とても丁寧な作り、更に漆塗が施されることによって、より土偶の尊厳を高められていることを考えると、この「ミス石之坪」は何か大切な時に使われた特別な土偶だったようです。

そして、「ミス石之坪」を一目見て思い出したのは、こちらの「顔面装飾付土器」。
こちらは、土器の縁に土偶がつけられたものです。

山梨県高根町海道前C遺跡出土 山梨県立考古博物館所蔵

顔面把手付土器 山梨県立考古博物館

切れ長の大きな目、くっきりした眉のキリっとした顔立ち、カールして高く結ったような髪型は、「ミス石之坪」にとても良く似てますね。

この時代の流行りのメーク?美しさの基準だったのでしょうか?
表面もきれいに磨かれて、滑らかな肌の土偶です。土器部分には幾何学的な文様が全面に施されていて、やはり何か特別な意味を持つ土器として作られたようです。

土偶は、人間のような顔、形が多く、女性を表現しているとも言われています。逆に、人間を模して作ったものではない、という説もあります。確かに、人間の様であり人間でないような、動物であって動物でないような不思議なものがたくさんあります。

その正体は果たして?様々な仮説がありますが、その仮説の一つに”女神”説があります。
他の土偶はさておき、この「ミス石之坪」はまさに”女神”のイメージではないでしょうか。

縄文時代とほぼ同時代の古代文明の”女神”というと、古代メソポタミアのバビロニア地方の女神であるイシュタルが有名です。ふっくらした柔和な顔立ち、大きな目をした美しい女性の女神。愛、豊穣や出産、戦の女神であり、金星や月の女神であったと言われています。

古代バビロニア女神

イシュタルのレリーフ(前1800ー前1750頃)大英博物館所蔵

日本でも、日本神話に登場する女神、木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)は、絶世の美女とされています。火難除け、安産・子授けのほか、農業、漁業、織物業、酒造業、海上安全などにの神として知られています。

イシュタル、木花咲耶姫のように、女神の美しさには、特別な願いや祈りが込められているようです。
「ミス石之坪」も、そのような女神だったような気もします。

何度でも会いに行きたい土偶の一つですが、残念ながら、現在韮崎市民俗資料館はクローズしています。最新情報はこちら→ 韮崎市民俗資料館・愛称「にらみん」ブログ でお確かめください。

最後までお読みいただき有難うございました。

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