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すべてのSNSをアンインストールした日からの50日

こんにちは。東京の外資系IT企業でプロダクトマネージャーをしていますハヤカワです。

The Social Dilemmaという映画をご存知ですか?

2020年1月に公開されたNetflixオリジナルのドキュメンタリー映画です。

邦訳では「監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影」となっており、元GoogleやFacebookのエンジニアへのインタビューを通して、ソーシャルメディアが「人類の存在を脅かす、これまでで最大の脅威」であることの警鐘を鳴らしている作品です。

一方で、本作品の監督自体が「世界の破滅」をテーマにした作品を好んで作っていることからも、その内容が偏っている、本質的ではない、論点をズラしているなどの批判も多くあります。

個人的にはあくまでもエンターテイメントなので一つのコンテンツとしては面白かったと思っています。

今回は、そんな作品についての感想や批判的意見ではなく、実際に行動をしたその記録を公開したいと思います。

Day 0 きっかけはTwitter

弊社のCEOが本作品をTwitterでシェアしているのを見つける。同時期に元SalesforceのチーフサイエンティストRichard Socherがインターネットの倫理観を問うた新会社を設立していたこともあり、「テクノロジーと社会」について考えていた時期でした。

ちなみに、この新会社は「ヘイトや誤った情報、フェイクではなく、信頼や優しさ、事実によってインターネットを作り直せたら?というところから、より良いインターネットを目指してAIや自然言語処理を使った製品を開発する会社」のようです。

そんな中この作品を知り、その週末2020年9月12日にさっそく映画を視聴しました。

Day 1 すべてのSNSアプリをモバイルデバイスからアンインストール

映画を見た感想としては、IT企業に務める身として、プロダクトマネージャーとして製品を見ている身として、とても面白かったです。SNSの是非ではなく、製品開発の立場で面白かったです。

さらに、似たような作品として「グレート・ハック: SNS史上最悪のスキャンダル」も見ていたので、データやテクノロジーが社会にもたらす影響については常日頃から考えていたので、その一つとして面白かったです。

と、いつもなら映画の感想をTwitterに投稿して、終わりなのですが、この時は何かアクションに繋げたいなと思いました。そして、完全なる興味本位で好奇心の赴くままに、すべてのSNSアプリをモバイルからアンインストールしてみました。

つまり、このときには「SNSはまずい!このままでは人類が破滅に向かってしまう!」などという短絡的な考えは一切なく、あくまでも自分を使った人体実験のつもりで行動していました。

実際には、プライベート用のGoogle Pixel4と会社支給のiPhone8 からすべてのSNSアプリ、Twitter, Facebook, Instagram, さらに、Reddit, 5ちゃんねるブラウザ, YouTubeをアンインストールしました。ただ、TwitterやYouTubeを完全にシャットダウンするわけではなく、パソコンを使って普通に見ることにしました。ただFacebookはかねてから意味がないなと思っていたので、これを機に止めてしまおうと決めました。

Day 2-10 不思議な感覚

SNSをアンインストールすること自体は簡単です。わずか10数秒のこと。しかし、そこからの数日は不思議な感覚でした。

キッチンでお湯を沸かしている間に、ふと携帯を開いても、そこには何もすることがない。
トイレに行くときに必ず携帯を持っていき、便座に座り、ふと携帯を開いても、ただ壁紙を眺めるだけ。
電車に乗って、扉の横に立って寄っかかり、車窓を一瞥した後、ふと携帯を開いても、スマホの設定やらあまり使っていなかったアプリを整理したりするだけ。

スマホを開いてもやることがないことを理解しているものの、身体の癖でついスマホを開いてしまう、しかしやることはない、これを1日の間に何度も繰り返してしまう体験はとても不思議でした。

Day 11-20 気の緩み

スマホを開いてもやることがないこともようやく理解して、身体の癖も抜けた頃、ふとiPadを持っていることを思い出し、あまり使っていなかったiPadを棚から出し、各種SNSが並んでいる様子を見ました。そしてふとTwitterを開きました。

何事もなかったかのようにさらーと指を上下に動かし、タイムラインを眺めました。

見たあとは特に何の感想もなく、「Twitterおもしろいな〜」とか「やっぱり人と繋がるのっていいな〜」と思うこともなく、無感想でした。

後から考えて怖いなと思うのは、特に何も思うことなくTwitterを開いていたこと。そして、見た時にも何も感想がなかったことです。今まで情報を得たり、知り合いと繋がったりするのに重宝していたTwitterに、少し距離をおいて改めて見てみても、何も感じなかったのは面白い感覚でした。普通、離れてみるとその大切さが分かるといいますが、何も感じなかったんです。SNSとは何なんだろうと改めて思いました。

そこで、改めてiPadに入っているSNSアプリもアンインストールしました。

Day 21-30 抜けない癖

SNSが無いことにはなれたもののスマホが手放せないのはあまり変わりませんでした。実際スマホを開いて何をしているかというと、AndroidもiPhoneもホーム画面を左にスクロールすると、カスタマイズされたニュースが出るんですが、それを癖で見るようになってしまいました。

また、株価のアプリや銀行アプリの貯金残高、Google PayやPaypayなど何かしら変化のあるアプリを見るようになりました。

プロダクト開発の考え方として、ユーザーがハマる仕組みを作る「Hook Model」というのがあるのですが、スマホ自体がまさにそれを実現しているなと思いました。

Hook Modelというのは「トリガー(きっかけ)」「アクション(行動)」「リワード(報酬)」「インベストメント(投資)」という4つのプロセスで構成されているもので、習慣を設計する、つまりユーザーがついついハマってしまう仕組みを作るための考え方です。今では各種SNSやその他多くのプロダクトやサービスにこの考え方は取り入れられています。

つまり、世界的に最も価値のある巨大企業の一つであるGoogleやFacebookが長い年月をかけて作り上げたこの仕組みによって習慣化された「ほんのちょっとした隙間時間にスマホを開いて何かを見るという癖」はなかなか抜けるものではありませんでした。

Day31-40 QOLの向上

1ヶ月以上経つと、隙間時間にスマホを開いてしまう癖も徐々に薄くなりました。

Twitterで投稿した内容にどのくらいいいねやRTがついたかを気にすることもなくなりましたし、返信が来たことを知らせる通知を今か今かと待つこともなくなりました。

その分、読まなきゃいけなかった本を読んだり、ずっとお気に入り登録していた気になっていたMediumの記事を読んだりするようになりました。
寝る前にベッドまでスマホを持ってきて、暗い部屋の中で青い光を浴びることもなくなりました。
ちょっと近くのスーパーに買い物に行く時に携帯を持たないことも少なくありませんでした。
リングフィットアドベンチャーで身体を動かし、趣味でやっているバンドの曲を作曲したり、やらなきゃいけなかったけどやれていなかったことを少しずつするようになりました。

これらのことは、隙間時間にSNSを見なくなった分生まれた時間でできるようになった、わけではないと思います。おそらく単純な時間換算ではなく、気持ちの問題として、やらなくてはいけないものに改めて向き合うきっかけになっただけだと思います。いずれにせよ、生活の質が向上したなと感じることに繋がりました。

Day41-50 SNSとの新しい向き合い方

2ヶ月弱の「スマホにSNSアプリのない生活」にも慣れてきました。

ただ、全く見ないわけではありません。パソコンの前に座ったときにはTwitterを開いて見ますし、テレビにはYouTubeアプリで好きな動画を見ます。スマホでも全く見ないわけではなく、移動中や外出中にどうしてもやることがない時にはブラウザでTwitterやInstagramを検索して見たりもしています。

何もSNSそれ自体が悪だとは冒頭のドキュメンタリー映画でも言っていないし、私も思っていないです。ただ、支配されるのは良くないし、自分がどのくらい依存しているのを知ることは大切かと思います。実際SNSがどのくらい自分の生活を良くしているのかを見直すきっかけにもなります。私は思ったよりTwitterは面白くないなと思いました。タイムラインを流れる情報は無駄なものも多く、気にするべきでないことが気になってしまうものです。ただ、実際にこの映画に出会ったきっかけはTwitterでしたし、会社の人と深く繋がるためにFacebookは重要でした。Instagramで自分の撮った写真に多くのいいねがつくのは気分が良いものでした。

しかし、アプリからの通知は来なくなり、必要な時に必要な情報を得る生活も悪くはないと思います。

同時に、様々な疑問が生まれました。

情報を得るための適切な方法はなんなんだろう?
電車内の中吊り広告を見るのと、Facebookでパーソナライズされた広告を見る、その違いは何なんだろう?どちらも誰かが、意図的に作り出した情報には過ぎないだろう。
そもそも情報は生活にどのくらい重要なんだろう?
SNSで流れる多くの人が語る新鮮な情報と、一人の人間が数ヶ月、数年前に書いた本の情報の違いは何なんだろう?

これらの疑問に答えが出たわけではありませんが、いずれにせよ、The Social Dilemmaというドキュメンタリー映画自体の評価はいろいろありますし、SNSのあり方はここ何年も議論されていることですし、今更議題に上げるつもりもないです。10代の少年少女にどのくらい悪影響があるかとか、大統領選がデータによって操作されていることに警鐘を鳴らしたいわけではありません。

ただ、すべてのモバイルデバイスからSNSアプリをアンインストールすることで、情報のある生活を見直すきっかけになることは間違いないと思います。SNSがどのくらい大切で重要なのか、どのくらい依存してしまっているのか、他にやるべきことがどのくらいあるのか、こういったことを見直すきっかけになると思います。情報や習慣に流されず、「SNSを使う自分」を自分自身で理解することが大切だと思います。

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