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アウトバウンドプロダクトマネジメントが必要な理由

こんにちは、 Salesforceでプロダクトマネージャーをしています、ハヤカワ(@kzkhykw1991) です。
私は現在、米国本社レポートでありつつも東京にいながら、米国以外のグローバルチームと仕事をしています。私の仕事の50%はAI製品をグロースさせる機能の開発。もう50%は日本を含むアジア地域におけるAI製品のアウトバウンドプロダクトマネジメントというのをしています。

そこで今回は、私の仕事と、見聞きした内容を踏まえて、アウトバウンドプロダクトマネージャー、通称OPMについて紹介します。

そもそもプロダクトマネージャーって?

プロダクトマネジメントを主に行う人物のことをプロダクトマネージャー (PM)と呼びますが、プロダクトマネジメントの定義自体が幅広いため、PMの定義自体は野暮と言えます。
私も以前「PMに必要な13のこと」というnoteを2019年頃に書いて、多くの反響をいただきました。

しかしここに書いてあることは、「B2Bのグローバルカンパニーの確立された製品に対する大規模なプロダクト開発におけるとあるジュニアPM」から見たPM像にすぎず、今思えば浅はかだったなと、我ながら反省します。
PMは十人十色。広く「営業」みたいな役割の定義と思ってください。
強めに言えば「PMは色々あるから一括りにするなよ😡」という感じです。

とはいえ説明する機会も多いので、苦肉の策として、腹落ちしているのが「いろんなPMがいるけど4つくらいに分類してみよう🍀」というのが以下です。

1. Core PM / Feature PM: 機能とか製品そのものを開発するPM
2. Platform PM / Tech PM: 基盤とか技術要素とかを開発するPM
3. Innovation PM / 0→1 PM: 0から初期のプロダクト作るPM
4. Growth PM: 既存プロダクトを成長させるPM
これを図示すると、こんな感じで菱形に分類できます。

pmconf2021での登壇資料抜粋

うっすら三角形で表した「Customer, Technology, Business」がありつつ、それらを横断する形で、4つのPM像を菱形でマッピングできると思います。

という感じで、PMって色々あるんですが、じゃあ「アウトバウンドプロダクトマネージャー(OPM)」って何?というと、代替この辺です。

OPMの雑な表現

プロダクトのグロースフェーズ、たまに0->1に必要で「顧客とビジネスを重視して、開発はあまりしない、けどロードマップとかプロダクト戦略には関わるPM」の役割をOPMと呼びます。

アウトバウンドプロダクトマネージャーとは

さて、ではアウトバウンドプロダクトマネジメントとはなんなのか?
実は一般的なPMと同様に、「OPMの定義もさまざま」です。会社の規模、業種、プロダクトの成長フェーズによってOPMのやるべきことも異なります。
ただ、唯一言える共通点は「開発そのものは行わないPMである」いう点です。

いくつか例を見て見ましょう。

Google Cloud

OPM は、1 つの製品ではなく、製品ポートフォリオ全体に対して仕事をします。OPMは社内外に対してプロダクトやそのポートフォリオを推進し、顧客やパートナー、業界の専門家とめちゃくちゃ話します。それによって、学んだことをプロダクト戦略に取り入れます。
Richard Seroter, Director of Outbound Product Manager at Google Cloud

https://seroter.com/2021/06/21/so-what-the-heck-is-outbound-product-management-and-should-you-have-this-function-too/

Oracle

アウトバウンド PM : 製品の推進者であり、現場の目です。顧客にとっても目に見える顔であり、会議で講演し、営業をサポートし、製品に関する社内教育を促進する資料を作成します。Customer Discoveryの活動はOPMに依存し、仕様書の要件にもつながります。これらの情報は組織の残りの部分に共有され、ロードマップにも影響を与えますが、OPM はバックログとロードマップを制御できないことが多く、これはインバウンド PM に大きく依存しています。

https://www.quora.com/What-is-the-difference-between-outbound-product-management-and-product-marketing

というように、開発そのものをするのではなく「顧客と会話し、プロダクト戦略に影響を与える」のがOPMの基本的な役割です。

なぜ必要なのか?

さて、「顧客と会話し、プロダクト戦略に影響を与える」OPMがいると何が嬉しいのか?
今までのPMや、マーケティングのスペシャリストであるPMMではダメなのか?という疑問が出てきます。

それを考えるために、①組織と②PM個人の観点でなぜ必要か?を考えてみます。

①組織として、なぜ必要?

ここまで上げたOPMの例は全て、「グローバルに展開する、比較的プラットフォームに近いB2B企業」でした。他にも、Salesforce, ServiceNow, Workday, AWSなどでOPMの職種が存在します。
このことから言えるのは、

  1. 企業規模がでかい

  2. 製品ポートフォリオがでかい

の2点が共通点としてあります。つまり、こういう会社にはOPMが必要になる、と言えます。

1. 企業規模がでかい
会社の規模が大きくなるというのは、具体的にいうと「さまざまな国と地域にユーザー, 顧客が存在する」ということです。
先に挙げた、Google Cloud, Oracle, Salesforceはどの企業も世界中さまざまな地域で利用されています。
その場合、本社機能だけでは世界中の顧客と対話することが、地理的距離、言語、時差、の観点で難しくなります。

2. 製品ポートフォリオがでかい
単一製品を世界中で展開している企業ではあまりOPMの役職は聞きません。
つまり、Google CloudやAmazon, Salesforce, ServiceNowといったプラットフォームを提供し、さらにその上に無数のプロダクトを持っている企業がOPMの職種を立てています。

ここからわかることは、プロダクトとして大きくなりすぎると、「複数プロダクトを横断的に動けるPMが必要」になってくるということです。
その理由は組織によってさまざまだと思いますが、

  1. プロダクト間の戦略を揃える必要がある

  2. プロダクト間の機能要望を被りなく扱う必要がある

  3. プロダクト間のPM同士を繋げる役割が必要

という点が考えられます。

余談
特に、「PM同士を繋げる役割」というのは面白いと思います。
というのも、PMとはそもそも「プロダクト開発チームと、ビジネスチーム、時にデザインチームを繋げる」役割を担います。では、PMとPMを繋げるのは誰か?
意思決定権やレポート、マネジメントラインとしては、PMのManagerやCPO, VP of Productがいるわけですが、上司ではなく同僚として同じチームとして、PMとPMを繋げる役割って実はあまりいないんです。よくProgram Managerや、よく働くPMの人がそういう役割を担ってくれたりしますが、あくまでもオペレーショナルな部分にとどまります。そこで実際のプロダクト戦略やロードマップにも影響を与える範囲で「PMとPMを繋げる」のがOPMだとも言えると思います。

②PM個人として、なぜ必要?

さて、ではPM個人としてなぜ必要なのか?について考えてみます。
これはほとんどが前述の組織の課題にもつながりますが、

  1. 時間的な限界がある

  2. 能力的な限界がある

  3. 組織的な限界がある

という3点を考えてみます。

1.時間的な限界がある
1人の人間ができる仕事量は、PMであっても変わりません。
初期の開発段階では、基本的に開発に集中すれば良いですが、プロダクトが成長していくと、フィードバックサイクルを構築し、B2Bの場合は特により多くの顧客と会話し、イベントや会議に出席しプロダクトを紹介し、とさまざまな役割が求められます。
そうすると、必然的に「できることに限界が来る」ので、役割を分けてOPMを立てましょうね、というのは自然の流れだと思います。

2.能力的な限界がある
PMというのは冒頭の通り、さまざまな役割、経験、スキル、能力が求められます。ただし、これは一人のPMに全てを求めてスーパーマンを作ることではありません。組織やプロダクトの状況によって異なるPMが必要ということです。
しかし、プロダクトポートフォリオが広がると、前述の通りスーパーマンPMが必要になってきてしまいます。そこで、開発が得意なPMと、顧客との対話が得意なPMに分ける、といった具合に能力の適性や個人のキャリアに合わせていくという考え方になります。
これはもしかしたら日本よりも海外の方が顕著かもしれませんが、役割を明確に定義し、定義された中で最大限にパフォーマンスすることが評価されるため、適切に役割を分けた結果生まれたのがOPMなのかもしれません。

3.組織的な限界がある
これは組織から見た必要性ではなく「PM個人から組織を見た時の限界」とでも言えるでしょうか。
プロダクトポートフォリオが広がると、どうしても複数プロダクト間で影響、依存し合うことになります。プロダクトマネージャーの基本的なアサインメントは1プロダクトに対して1 PMというのが一般的です。
1プロダクトの定義は会社によってさまざまだと思いますが、多くは1スクラムチームに対して1 PM (= product owner)になることが多いと思います。
しかしながら、多くのプラットフォームベンダーは、複数のアプリケーションや機能レイヤーを追加する戦略をとるので、大量のPMをhiringすることになります。すると、PM個人としては、横のPMが何をしているのかわからなくなり、PM間での統制が取りづらくなります。
一方で組織としては一貫性のあるプロダクトポートフォリオやロードマップを作成する必要があります。
そのため MonthlyのレビューやExecutiveを集うミーティングをするわけですが、会社がでかいとそれも易々とはできません。そうなると、プロダクト横断的に顧客の声を広い、戦略やロードマップに影響を与える動ける個人PM、つまりOPMが必要になります。

以上が、組織的な観点とPM個人の観点で、OPMがなぜ必要なのか?という点でした。

実際にやることとKPI

さて、ここまででなんとなくOPMが何者かわかっていただけたと思います。
では、私が業務を通してやっていることを言える範囲で簡潔に書いてみます。

  1. 担当プロダクトエリアにある10数個のプロダクトに対して深い知見を持つ

  2. 各プロダクトの、4-5人のPMと深い関係を持つ

  3. 各プロダクトの、製品特徴、メッセージング、ロードマップ、競合比較、市場ポジショニング、利用状況、集まっているVoCについて理解する

  4. 担当プロダクトを利用している既存顧客と深い関係性を持ち、オンボーディング、利用支援、Executiveへの説明を行う

  5. 担当プロダクトを販売する営業組織、マーケティング組織と深い関係性を持ち、新規顧客への営業・マーケティングの支援、そのための資料作り、イベント登壇、商談支援を行う

  6. 新機能の情報をいち早く 開発PMとSyncし、必要に応じてパイロットを実施・リードし、フィードバックを伝え、時に機能を提案する

といった具合です。
KPIとしても、ロードマップに反映したVoCの数や、顧客とのエンゲージメント、イベント登壇数や、コンテンツ制作数、関わった商談金額などをもちます。
ポイントは、OPMとしてはエンジニアリソースを持たず、開発を直接は行わず、ロードマップの最終決定権も持たない、といった感じです。(ただ私の場合は50%がOPMで、残りは普通の開発PMなのでちょっと違います)

求められるスキルや人物

このnoteを読んで、「自分がやっているのはOPMだったんだ!」とか「OPMをやってみたい!」という人がいたら嬉しいですが、最後にどういう人がOPMに向いているのかを書いてみます。
ServiceNowの現在募集中の職種を見つけたので、例として抜粋します。

・10年以上のソフトウェア製品管理経験
・10年以上のSaaS、クラウド、ITサービス顧客との協働、または顧客、クラウド、マネージドサービスの運用を成功させるために何が必要かを深く理解し、情熱を持って取り組んできた経験
・5年以上のServiceNowまたは類似のエンタープライズプラットフォームでの経験
・デモのシナリオやメッセージの作成が得意な方
・優先順位付けの強いスキルと影響の大きい活動に集中するための経験
・製品要件を捉えて、定義するという経験
・顧客ニーズに対する深い好奇心と、顧客との関係構築と顧客中心のソリューションの提供実績
・ソリューション開発の推進経験
Senior Principal Outbound Product Manager at ServiceNow

https://www.indeed.com/q-Outbound-Product-Manager-jobs.html?vjk=d765c5dfcdffd4ee

ここで重要視したいのは、この3つです

  1. 顧客ニーズに対する深い好奇心と、顧客との関係構築と顧客中心のソリューションの提供実績

  2. 製品要件を捉えて定義するという経験

  3. 優先順位付けの強いスキルと影響の大きい活動に集中するための経験

やはり、OPMのメインのミッションは、「①顧客と対話し、②何が必要かを把握し、③優先順位づけをし」プロダクト開発を開発PMと共に推進することです。
冒頭説明したような菱形の左上に興味がある人、得意な人が向いているのではないでしょうか。

再掲

特に私は「プロダクトマネージャーに求められる資質は?」と、OPMに限らず全般のPMについて聞かれた時にも必ず「顧客/プロダクトへの深い好奇心がある人」と答えます。

さいごに

以上でOPMの魅力が伝われば幸いです。ただし、全ての企業、プロダクトでOPMが必要なわけではありません。
現在のIT業界は順風満帆というわけではないので、OPMのような企業にとってあったら嬉しい”贅沢な"役職は、コストカットの対象になりやすいのも事実です。
しかし、多くの企業にとって、OPMが担う役割自体はプロダクトをグロースさせるために必要不可欠なものです。
ぜひ、OPMについて理解を深め、皆さんの会社、プロダクト、日々のPM業務がよくなるために少しでも役に立ったら嬉しいです。

また、私が運営スタッフをやっている 日本CPO協会の年次イベント Product Leadersで、 ServiceNowのOPMの方が説明してくれているのでぜひご覧ください!

このnoteは全文公開していますが、少しでも参考になった方は、有料noteとして設定しているので、ぜひとも500円での購入をお願いします!(コーヒーを飲んで活力得つつ、後日メッセージでお礼いたします☕️)
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