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セネカ読書案内【番外編】

古代ローマの哲学書は、もちろんラテン語で書かれているわけですが、ラテン語というと、難解な言語の代表格ですよね。
あと、とりあえずカッコイイ(中二病。「メメント・モリ」くらいしか知らんけど。)
約二千年前に活躍した哲学者、セネカを推している身としては、原文で読んでみたい…という野望はあるもののかなりハードルが高い。

セネカ読書案内、これまで【導入編】【基本編】【応用編】とおすすめの本を紹介してきましたが、最終回の【番外編】では、ラテン語についての本を取り上げます。

◆「教養としてのラテン語の授業

―古代ローマに学ぶリベラルアーツの源流―」

これを読むと、ラテン語がかなりヤバい言語であることもわかるし、ラテン語の表現・警句も取り上げて説明してくれるし(心に沁みる〜)、古代ローマの人々の生活も紹介、そして、キリスト者である著者の人生観にも触れることができるという…かなりお得で素敵な読書です。

ちなみに、文法的なことはあまり書かれてないので、これを読んでラテン語が読み書きできるようにはなりませんが、ある程度親しみを持てるようにはなります。
ラテン語の難しさについて言うと、とにかく活用がむちゃくちゃ多いんですよね。
一例としてこの表を。

「教養としてのラテン語の授業」より。"do"の活用だけでコレ

さらに、ラテン語は動詞だけでも、第1活用から第4活用動詞まで4種類があり、別の規則動詞である、形式受動態動詞も4種類、さらに、半形式受動態動詞、不規則動詞があるらしい…
名詞は、呼称を除いて単数・複数がそれぞれ1格から5格まで変化し、形容詞は名詞の性・数・格に一致させる必要があるそうです。

【導入編】で紹介した中野孝次さんが、若い時にラテン語を学んでおけば良かった、今となっては無理、とおっしゃっていて。英語もドイツ語も分かる人が何言ってんだろー?と思っていたが、ハイ、これはもう別格ですね。

それだけに、著者のラテン語の授業の目的は、「ラテン語を言語ツールとして流暢に操ること」ではないといいます。学問とは、「今後、自分に必要となる知識がどこにあるのかを知り、それを活用できるようにきちんと仕分けて整理整頓するための、頭の中の本棚を作る作業」とのこと。これほんと大事やな…。

さて、この本にももちろんわれらがセネカ師匠の言葉が登場します!

人は教えている間に、学ぶ
Homines,dum docent,discunt

私たちは学校のためではなく、人生のために学ぶ
Non scholae,sed vitae discimus

やっぱりカッコイイわー、セネカ師匠。
セネカの言葉以外にも、たくさん素敵な言葉が挙げられています。
ひとつだけ紹介すると、
〈Si vales,bene est;ego valeo〉。これは、古代ローマ人が、手紙を書くときに愛用したあいさつ文で、「あなたが元気なら、それはよいことです。私は元気です」という意味だそう。
「あなたが安らかであってこそ、私も安心できる」という、まず相手の安否を気遣うあいさつ。心が温かくなります。

著者のハン・ドンイルさんは韓国人初、そして東アジア初の、バチカン裁判所の弁護士、つまり超がつくエリートのなかのエリート。なのですが(だからこそ?)、学問に対する真摯で謙虚な姿勢、キリスト者としての人生観に、心を打たれるというか、背筋が自然と伸びる気持ちがします。ぜんぜん上から目線じゃなくて、つねに自分を省みている生き方が素晴らしすぎて眩しいです。

気軽にラテン語に触れることができ、心に響くお話も読めるこの本、ぜひお楽しみください。読んだあとは、風景が少し違って見えるかも。
ではお元気で。〈Vale/cura ut valeas〉

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