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部屋はタイムカプセル

ある日、突然、不意打ちでやってくる他人の幸せ報告。
最近、Nakasoneの回りでは結婚がラッシュらしい。
Nakasoneは結婚の話題が“えれぇ苦手”である。
理由は2つある。
1つはその辺りの話に興味がない事がある。
ビールにむせても独り。
そんな事を漠然と思う31年であった。
その辺りの考えについては別の機会に述べるとして、問題は2つ目にある。

2つ目は華やかな雰囲気に飲まれてしまって、どう受け止めたらいいのかパニくってしまう事が挙げられる。
フワフワキラキラ報告が苦手なNakasone。
めでたいけど、目出度いけど、ハッピーだけど、眩しすぎる!
目がシパシパしてくる系中年。
インスタ苦手系中年。

そもそも生活がキラキラしていた覚えがないし、趣味は靴磨きとかだし、革靴を磨いてキラキラにしたところで誰がNakasoneの革靴に興味があるのか。
天津炒飯の餡がキラキラしているのを見ている方がまだ楽しいだろうに。

そんなある日、晴れの舞台を控えた知人からリモ飲みに誘われた。
リアルの知り合いとリモート飲みをするのは久しぶりなので、机からカメラで見えるであろう範囲の掃除を始めたNakasone。

Nakasoneの部屋にはモノが多い。
ノベルティで貰った書きにくいボールペンすら処分できないNakasoneはお察しの通り整理整頓が苦手である。

部屋をひっくり返すという言葉が正しいようにも思える大掃除をするNakasone。
ソファーを動かしベッドを動かし作業机も動かす。
掃除をすると、出てくる出てくる。
昔のあれやこれや。
「うーわ、この漫画の3巻ここにあったのか!」
「コレいつもらったエナジードリンクだろう…」
「あ、気に入ってたボールペンここにあったのか」
等々…
気に入ってるボールペンが見当たらなくても気にしないNakasoneは“ズボラさん”と呼んでいい。
でも“さん”付けされると調子に乗るからダメダメ。

しかしNakasoneには1段だけ保存用の引き出しがある。
作業机、左の1番上の段。
Nakasoneは滅多にこの引き出しを開けることがない、
ここには精密ドライバーやカッターの替え刃も入っているが、部屋のどこよりもスッキリしている。
理由は簡単。
これまで手にしてきた大切なアレコレが入っているからである。
例えば、出張で行った国で両替し忘れてしまって日本では使えない現地のお金。
叔父から頂いた、替え芯が高価でグッドなデザインのボールペン。
恩師から頂いた名刺入れ。
友人から届いた手紙…等々、幸せな開かずの引き出し。

Nakasoneはリモ飲みまでの待ち時間で幸せな思い出に浸りたくなり引き出しを開けた。
部屋の掃除をしていて新聞の切り抜きを見つけて読みふけるヤツ。
アレに近い衝動。
目についた一本の万年筆を手に取る。
手には銀色にキラリと輝く「LAMY AL-star(たぶん)」がある。

この万年筆はNakasoneが学校を卒業する際に1つ上の先輩から卒業祝いに、と頂いたものだ。
Nakasoneが文房具好きと知ってのチョイスなのだろう。
ノベルティのボールペンを処分できない程の意思が弱いNakasoneのくせに、頂いた万年筆は汚れるのが嫌で一度もインクを入れず、やや厳重に保管している。

別にその先輩に特別な感情を抱いていたわけではない。
なんとなく、その万年筆に対して社会に出る前の自分を重ねているのではないかと、今となっては思う。
無垢で鋭く輝いていた、あの頃。

卒業時、地に足の付いていなかったNakasoneは先輩からの贈り物に対し、 
「あざーっす!大事にしまーす!」
と、そのまま宙に消えちまえ!と思われるようなフワフワしたお礼みたいなものを伝えた。
当時、先輩の想いは多分、汲めていなかった。
地に足が付いていなかった。本当に。
社会人としてスタートした生活はNakasoneにとって楽しいと言えるものではなかった。
暗い部屋で泣いた日は沢山あった。

それから、幾年。
今のNakasoneには笑える日もあれば、映画や小説や音楽に落涙する日もある。
整理整頓が苦手でも、部屋には大切なものが詰まった引き出しがある。
引き出しの外にも思い入れのあるものは文字通り山のようにある。
たくさん沢山、集めた思い入れのあるもの。
今のNakasoneの姿を地に足がついていなかった頃のNakasoneが見たら鼻で笑うだろう。
だけど、今のNakasoneが、今のNakasoneの部屋が、これまでのNakasoneを創ってきた。
「Nakasoneの部屋って、やっぱNakasone感あるな」と、ふと万年筆につぶやかれた気がした。
Nakasoneはアザッス!と返す代わりに万年筆を箱に戻した。

それからNakasoneはリモ飲みまでの待ち時間にAmazonのカートにパイロット社の深い青色のインクを放り込んだ。
いつ使うのか、どんな時に使うのか。
そんな事は、まだ考えない。
この万年筆にインクを入れる日が来たら、それはきっとNakasoneにとって特別な日なのだろう。
何を書くのか、描くのか。
きっと人生が本だとしたら、たくさん沢山、白紙のページがあるだろう。
「さて真っ白なページに何をかいてやろうか!」
そんな日が来ることを、リモ飲みに備えて準備した濃いめのカルピスを飲みながら、ふと思ったのだった。
そんな日が来ることをNakasoneはただただ願うばかり。
にしてもカルピス「濃っ!」

おわり

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