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12話 たった一言に救われる

移住するにあたって、移住先の方に相談に乗ってもらったり、仕事のことでご紹介をいただいたりする機会が数多くある。わたしは恵まれている方で、温かく迎え入れてくださる方が多く、本当にありがたいと思っている。

相談させていただく時に、「わたしという人間が何者か」そういうところを事細かく話すことから始めなければいけない。どんな仕事をしていたか、年齢、家族構成、これからどんな仕事をしようと思っているか、なぜ移住をしたいと考えているのか。今はもう慣れたが、これを一つ一つ話すことが非常に骨の折れることだった。

自分が感じている抵抗感の中で、年齢がそう若くないことや、独身であることがネックになっていて、話をすること自体、どう思われるのだろうかと気にしてしまう。相手に受け入れてもらえるのだろうか、はじめは不安だった。

しかし、はじめに訪れた移住先の方が、そんなことを全然気にされていないばかりか、「ぜひ来てもらいたい!」とおっしゃってくださって、本当に救われた。そのことがあってから、年齢や独身であることを気にする必要はないと思えたし、今のそのままの自分であることを守っていればいいのだと思えるようになった。

移住地が決まり、今度は仕事の情報を集めるべく、その地域のいくつかの施設を訪れ、相談させていただくことになった。
その中で、自分の仕事につながる活動や、ヒントをもらえそうな場所など、多くの情報を得ることができた。その中でも、特におすすめされた場所があったので、見学させていただけるか確認しようと電話をすることにした。

ただ、ここで、心が折れてしまった。

電話中、自分が何者かを話し、見学できないか聞くと、断固として拒否されてしまったのだ。こんなことは今までなかったことだ。
電話を切った後、自分の存在自体が否定されているような気持ちになっていることに気づいた。自分の存在価値は変わらないはずなのに、えぐられているような気持ち。
しかし、落ち着いて考えてみると、地域の施設で紹介してもらったという経緯を話すことを忘れていたし、どういう手順を経たら見学できるのかも、ちゃんと聞けていなかった。
別に「もういいや」と受け流すことも可能だろう。しかし、今は自分の思いをちゃんと大事にしてあげることが日々の挑戦。そして、それでどうなったとしても、自分の存在価値は変わらないはずだと、気持ちの転換ができた。
「よし、ここはチャレンジだ!」と、再度電話をすることに。

電話をかけると、先ほど担当してくださった方ではなく、別の方が電話の対応をしてくださった。
もう一度、ていねいに自分の身元や、紹介先や、その経緯を話し、施設の都合を鑑みた上で、自分の要望を話した。すると、なぜ見学が難しいかきちんと説明してくださり、自分も納得できた。

見学できない理由が明確にあるならば、それはそれで仕方ない。いろいろ都合もあるし、そうでなくても、どこの馬の骨かもわからない人間が急に電話で見学したいと言ってきたら、不審感も抱くのは当たり前。
その部分をあまり深く考えずに電話してしまったことは、今後に生かしていきたい。
そして、再度電話したことで、自分の本音を伝えられたことはすごくうれしかった。やっぱり、自分の本音をていねいに伝えると、相手から反発が返ってくることはない。

さまざまな電話の対応がある。いいも悪いもないだろうけど、たった一言に、救われることがある。
移住って、本当に勇気がいることで、電話一つでも、わたしは緊張して勇気を振り絞ってやっている。(そもそも電話なんて、苦手中の苦手で、できたらやりたくない!)
だから、規則上無理なのは仕方ないにしろ、機械的に「無理です」と言われてしまうと、精神的なダメージは想像以上で…。

無理ではあっても、

「希望に添えなくてすみません」
「お電話ありがとうございました」など、

そっと心に寄り添った言葉が一つあるだけで、相手の受け取り方が随分違うのだと感じた。

本当にたった一言でいい。

「ぜひ!」

「こちらこそ」

「うれしいです」

それだけでも、心からほっとするのだ。受け入れられているのだと実感できて、その地域がますます好きになる。
移住先で出会う人、電話でお話しさせていただく人、その方はそのまま、その地域の顔になるということを知っておいてほしい。きっと仕事も同じで、その会社の顔になるということ。

わたし自身、たった一つの言葉を大切にできるようになろうと思わされる経験だった。
感情を伴う言葉を。相手に寄り添う言葉を。

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