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わたしの本棚83夜~「たかが殺人じゃないか」

2020年度、「宝島社・このミステリーがすごい」1位、「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「ハヤカワミステリマガジン・このミステリーが読みたい」1位という、3冠を達成した推理小説です。88歳というミステリ作家史上最高齢というのも話題の辻真先氏です。「たかが殺人じゃないか」という言葉、読後に読むと哀切を感じてしまいました。

☆「たかが殺人じゃないか」辻真先著 東京創元社 2200円+税

 昭和24年、作家志望のカツ丼こと風早勝利は名古屋市内の新制高校3年生で推理研究部の部長です。旧制中学校卒業後のたった1年だけの男女共学の高校生活。顧問の勧めで、映画研究部と合同で1泊旅行へ。そこで、密室殺人事件に遭遇します。さらに夏休み、キテイ台風直下の夜、首切り殺人事件に遭遇。ふたつの殺人事件の被害者は、戦後間もないころ、実は殺人事件を犯していたのでした・・・。

 昭和24年当時の名古屋市内の様子、愛知県の様子が丁寧に描かれています。また、勝利の親友、トーストこと大杉日出夫が映画研究部部長であったことから、当時の映画の話題も織り込んであり、一定年齢以上の層には懐かしくもあるのでは・・。「お嬢さん乾杯」(木下恵介監督、原節子主演)が面白い、「風とともに去りぬ」の話題、「哀愁」のビビアン・リーとロバート・テイラー、「姿三四郎」(黒澤明監督、藤田進)のポスターなどなど。

 ちょっと辛口な点は、甘酸っぱい青春小説の形もとっているのですが、ライトノベル感覚では読めず、主人公たちのあだ名も「カツ丼」、「トースト」「クーニャン」「巴御前」と今なら、絶対ないような感じで(昭和24年設定が効いているといえばそうなのですが)、どこか無理があります。それは、種明かしされるトリックが少し無理があると思ってしまうのと同じ感じです。微妙な違和感をなぜか感じてしまいました。

 ただ、動機を知ると、「たかが殺人じゃないか」という題名が悲しくなります。犯人のその後の人生を読むと、いっそう、やるせなさが・・・。

 2020年度の主要ミステリー部門、ベストテン1位の3冠達成。88歳の快挙と帯にある言葉。青春小説としても推理小説としても、そしてある面戦後の社会派作品としても楽しめる作品でした。

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